断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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68 あれは私の獲物

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 私は前線の後方に陣取った。あ、別に大将枠じゃないよ。ただ、全体的に戦況を見て、魔術で補助をしているのだ。
 煙管キセルを取り出して、魔力食いの刻んだ葉を火皿に詰め、火を付ける。あれだけ魔力を使ったのに、元に戻り始めている。以前よりかなり早い速度で戻っている。本当に人外と言っていいのかもしれないと思い始めていた。
 ふぅーと魔力混じりの煙を出す。

 今の状況は第4波の終わりが見えてきたぐらいだ。だた、遠くから土埃が上がってきているので、そのまま第5波の魔物の渦に突入する感じになるのだろう。

 この後に第6小隊と第11小隊が来る予定だ。そして、戦況を見て第1小隊の精鋭を投入するかどうか······あれは?

 遠見の魔術で前方を見ていた私は唖然とした。あれは、アレは·····何故、あそこに存在しているのだろう。

「イオブライ小隊長はいる?」

「はっ!御前に!」

 私の足元から声が聞こえてきた。視線を向けると、跪いたイオブライの姿が見える。いつも思っていたけど、忍者の様に現れずに、居るなら居ると言って欲しい。

 私は前方の土煙の一角を指し示す。

「あそこに敵将がいる。恐らく第5波で終わり。だから、全小隊を出して。多分見た感じ一筋縄ではいかない」

 前方に見えるのはゴブリンナイト、ゴブリンウィザード、それにデュークゴブリンにゴブリンロード。その後ろにオークナイトが見える。ということは同じくウィザードやロードが居ると見ていい。そしてだ。禍々しい威圧感をここまで放ってくるオーガキング。これも恐らく周りにはナイトがいることだろう。

「第5小隊はクァドーラ魔術師長を中心としてウィザードを潰して欲しい。各小隊は小隊長を中心として陣を組んで対応するように。·····まぁ。生意気な小娘の意見だけれど」

「はぁ。ですから、リーゼ様の命令なら皆聞きますと言っているではありませんか」

 イオブライにため息を吐かれてしまった。その後に、伝えて参りますと言って、姿を消した。

「アリアはどうするつもりだ?」

 この場に着いてから、まるで護衛の様に私の斜め後ろに立っている魔王様から尋ねられる。

 普通なら、騎士たちの補助に徹することが一番良いことなんだろうけど、私はアレを見てしまった。私のトラウマと同じ姿、いや特殊進化した姿か?もしくは封印が解けて元の姿に戻ったのだろうか。まるで闇を吸ったかのように黒い皮膚に一回り大きく見えるオーガキングの存在を。
 私の勘でしかないが、あの時と同じ個体だと思われる。あの歪んだ笑み。全ての者を見下したような目。

 アレは私の獲物だ。
 紫煙を吐き出し、オーガキングを再び指し示した。

「あそこにオーガキングがいる。多くの仲間たちを失い、騎士たちにトラウマを埋め込み、恐らく今回の戦略を考えたモノ。アレを倒しに行く。その前に上位種の海を切り裂いて行くけれどね。」

 彼の目には見えるかどうかわからないが、彼も私が指し示した方を見る。

 土煙をまといながら向かってくる魔物。その手前にはトロルとオーガが騎士たちと戦っている。一体の魔物に対して1班5人で確実に倒していっている。
 そして本来、10班で1小隊としているのだが、今は各小隊5班から8班ほどの構成となっていた。それを穴埋めするために混成で班を作っているが、最初から剣を振るっている者からは疲れが垣間見えてきている。
 流石に身体強化をしながら長時間の交戦はキツイのだろう。

 私は一帯に魔力を打ち放つ。

「『終破の雷撃』」

 雲一つない空から、トロルやオーガに向けて雷撃が突き刺さる。しびれて動けなくなった魔物に対して騎士たちが次々とトドメを刺していく。そして、物言わぬ肉塊となっていく魔物。

 こんな事ができるならさっさとやれと言われそうだが、これは私が一人で戦っていることではない。私は所詮、偶像物アイドルであり愛玩物マスコットなのだ。
 彼らにも領分があり、プライドがある。私はそれらを必要以上に侵害してしてはいけない。
 しかし、今はこちらも第5波の群勢に対して体制を整えなければならない。


 第4波の魔物を駆逐し終わったぐらいに、王都の方から第1、6、11の小隊と残りの第5小隊の者達が到着した。
 私はざっと見渡してみるが、400人程か。厳しいな。後方にいる新人を投入したいところだけど、身体強化をし続けられないのなら、死人を増やすだけだ。この人数で戦わないといけないなんて、ため息しか出ない。

「はい!注目!」

 声に魔力を乗せ響かせる。すると、騎士たちの視線が一斉に私の方を見た。

「もう、わかってると思うが、あれが第5波だ」

「言われなくてもわかるって」

 この声はエリュトか。私は無視をして言葉を続ける。

「先鋒はゴブリンの上位種だ。ロードを中心にウィザードとナイトがいる。その後ろには、オークの上位種だ。恐らくこれらもロードを中心としたものになっているはずだ。次がオーガとなるのだが」

 言葉を一旦止め、土煙から垣間見えるオーガキングを指し示す。

「我々が散々辛酸を嘗めさせれられたオーガキングだ。皆もアレの首が欲しいかも知れないが、アレの首は私がもらう」

「いらねぇよそんな物」

 また、エリュトか。その周りから笑いが起こり、段々と広がっていく。楽しいのは良いことだけど、時間は一刻一刻と迫っている。私は両手を打ち、意識を私に向ける。

「いらないのなら結構。君たちはゴブリンやオークを相手にしているといい。ヴァザルデス師団長は全小隊の指揮を任せる。クァドーラ魔術師長は第5小隊を率いて、ウィザードを殲滅させろ。あと、王都の結界は最後まで維持をしておくように」

「「はっ!」」

 そう言って二人は右手を左胸に当て敬礼をする。それに全ての騎士たちがならった。

 だから、私に敬礼をしないで。

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