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私はオーガキングに向けて笑んでみせた。前回も今回も厭味ったらしい笑みを浮かべていたキングに向けて、笑んで見せたのだ。
お前の戦術を目的を潰したのは私だと。
『小娘。何をした!何をしたか言え!』
さて、どれの事を指しているのかと肩を竦める。私は亜空間収納に右手を突っ込み、血吸丸を取り出す。赤い刀身にノコギリの刃がきざまれた刀だ。
それに魔力を流し、凶悪過ぎると評判の刀を覚醒させる。
「『覚醒せよ。血吸丸』」
血吸丸が不快な音を鳴らしだした。はっきり言って、血吸丸では刃が立たないだろう。前回も斬ることが適わなかった。
だが、魔術を使うとなるとキングクラスに対抗できるものは高位魔術となってしまう。王都の近くではそれを使うにはあまりにも危険過ぎる。
「ふふ」
また、オーガキングに一人で立ち向かうことになるとは思わなかった。なんでも斬れる剣が欲しいと言って、地面に突き刺さって禍々しい呪いを纏っている大太刀を作ってもらったのは、悔しかったからだ。
自分が持っている刀は刃が立たず、騎士たちは次々と倒れて行く。立っているのは12歳の私と2メルはあろうかというオーガキング。
また私は、血吸丸を手にして私のトラウマの前に立つ。あれから歳月が流れ、私も少しは成長したが、目の前のオーガキングも以前と違い、大きさも威圧感も段違いだ。
「ふふふ」
『何がおかしい!我輩の問に答えろ』
「私が滑稽だと思ってね」
そう言って髪と目の色を戻す。そして、3メルの巨体に向かって駆ける。
『小娘!貴様は!』
叫んでいるキングに向かって私の影を螺旋状に歪め、先を槍のように尖らし、回転させながら突き刺す。が、弾かれた。
風の刃を放つ。避けられ弾かれた。やはり、この程度の魔術では駄目か。
炎で私とキングの周囲に囲み、鳴いている血吸丸を上から下に振り下ろす。血吸丸から炎が吐き出され、キングに炎の塊が向かって行く。その炎を片腕で弾くキング。
私はもう一度、血吸丸を振り下ろす。吐き出された炎はキングに軽く弾かれる。私は何度も繰り返す。何度も何度も。
段々とキングに苛立ちが見えてきた、私の意味のない繰り返しの行動に、苛立っているのだ。
『いい加減にしろ!』
そう言って、キングが一歩踏み出した。怒気と威圧が一歩動いた事により大気が動いた。
一気に炎が膨れ上がる。私達を囲っていた炎が、大気が動いた事により、上昇する。
私が出した炎をキングが弾き飛ばすことで、外側に燃えていた炎に力を加える。動という力だ。
次々に投下される炎と動という力。燃え続ける為に大気の魔素を消費していく。その大気が動いた事で動という力と足りなくなった魔素を補うために炎は回転しながら上昇していく。
火炎旋風だ。それも大気の魔素を消費するように作られた炎だ。魔素はこの世界に満たされた空気だ。消費されていくというのはどういうことか。その中心にいるキングはどうなるか。
炎渦の風に髪を煽られ、共に渦の中にいる私はキングから目を離さず様子を伺う。
最初は、突然炎が上昇した事に驚いていたようだが、徐々に苦しみ出した。今では喉をかきむしりながら、悶ている。
まさか陸の上で息ができなくなるとは思わなかっただろう。
魔素は毒素でもあるが、なくてはならないもの、それはこの世界で生きている全てのモノに共通する。この世界で魔の物として存在しているものなら、特に魔素は己を存在させるためには必要だろう。
そこに私は追い打ちをかけるように、鳴いている血吸丸を振りかざす。掻きむしっている首に向かって一閃。だが、受け止められた。それも一振りの剣が私の血吸丸を受け止めた!
私はその剣を凝視する。見覚えのある剣。いや、片刃の刀だ。
見覚えもあるはずだ、ヴァザルデス師団長の前に師団長を勤めていたものに、退職の餞別として渡した刀だ。
確か彼は、領地を賜ったと言っていた。エルグランの近くの小さな領地で伯爵の地位を与えられたはず。
ああ、彼は最後まで剣を振り続けたのだろう。正義感の強い男だった。民を守るためにこの化け物に向かっていったのだろう。敵わぬ存在と知りながら。
私は剣を弾き、距離をとる。まいったなぁ。私に剣術なんて無いにも等しいから、マトモじゃない状態に持っていったのに、相手も剣を出してくるとは予想外。
これ以上、大技は本当に危険だ。この近くで戦っている騎士たちも巻き込んでしまう。
だが、今の状況が好機であるのも変わらない。オーガの強靭な皮膚が、外皮が魔素の薄くなった大気の影響で炎に焼かれているのも事実。
血吸丸を右手で構え、左手を振るい風の牙を繰り出す。くっ。私の魔力消費量も半端がない。やはり、大気の魔素は必要か。
続いて私も駆け出す。数十という風の牙の猛襲に、先程と同じように腕で弾き返そうとしているが、牙が外皮に食い込んで行っている。よし!
困惑している隙を狙って血吸丸をキングの首に向かって振るう。ノコギリの刃が首に入ったかと思った瞬間、右脇腹に衝撃が走る。視線を向けると私の横腹にも刀が食い込んでいた。
そのまま私は横にぶっ飛ばされる。炎の渦の外まで飛ばされてしまった。飛ばされながら、青い空が綺麗だな。なんて、思ってないからね。
空中で回転し、体勢を整えながら、炎の渦を確認する。威力が弱くなってきている。はぁ、失敗してしまった。これならいけると思っていたのになぁ。
地面に着地を····
視界に赤い色がかすめ、抱えられている私。魔王様、復活されましたか?それともアレのままですか?
私は恐る恐る見上げた。
皮膚にうごめく鱗紋様に深淵を覗き込んだような目が赤い髪の隙間から見える。どちらか判断がつかない!
「アリア、これは何だ?」
魔王様の方ですか。
魔王様は大分弱くなってきている炎の渦を指し示した。火災旋風と言ってつたわるだろうか。
「うーん。試行錯誤して、オーガキングの外皮を脆くする状況に追いやったのだけど、ぶっ飛ばされてしまった」
「ぶっと·····アリア!怪我は!」
慌てたように確認されたが、スパイダーシルクに妖精の祝福がされた戦闘服だ。あの刀ぐらいじゃキズもつけられない。
「ない」
「本当か?」
「無いから下ろしてもらえる?炎が消えた瞬間に切り込むから」
だけど、下ろしてもらえず、逆に圧迫感が増えたような気がする。
「俺がキングの首を」
その先を言わせないと私は彼の口元に人差し指を差し出し、黙るように促す。
「あれはね。私を含めて騎士たちのトラウマであり、仲間の敵でもあり、ここまで蹂躙されてきた民達の敵でもあるの。だから、あれは私の獲物」
それに、鎮めたばかりのアレに出てこられても困る。
やっと下ろしてもらい、血吸丸を片手に炎の壁の際まで行く。恐らくこれが最後の機会だ。戦いが長引くほど、キングの状態は改善していくことだろう。
だから、惜しげもなく魔力を消費する。
魔力を練り上げ術の準備をし、炎の渦を消し去る。
「『寸刻の静止』」
全ての時が止まった。人も魔物も風も大気も何もかもが時を止めた。先程と違い、ここで動いているのは私のみ。
外皮がボロボロになった姿で動かなくなったオーガキングに駆け寄り、首元に血吸丸をそわす。元々は硬い肉体であったキングの肉を削り斬る。
ガガガッという衝撃が手に響いてきた。流石に頸椎は硬いか。魔力をさらに注ぎ込み、血吸丸を動かすが、先程から血吸丸からも嫌な音が聞こえてきている。
くっ。もうすぐ、時を止めている術も解けてしまう。思いっきり血吸丸を引き斬る。
降り注ぐ血の雨。空を見上げながら落ちていくキングの首。斜めに傾いていく巨大。
細切れに砕けながら散っていく血吸丸。その姿を驚愕の顔をして見る私。
「私の血吸丸が!!!!!」
土埃を立てながら沈んでいく巨体に向かっていき、ケリを入れる。
「骨が硬すぎるのよ!血吸丸まで失ってしまうなんて最悪!」
ゲシゲシと蹴り続けていると、後ろから抱えられてしまった。まだ蹴り足りないと魔王様を仰ぎ見る。
「何が起こったんだ?一瞬でアリアが消えたかと思ったら、キングの首が落ちていた」
「秘密」
私が時を止められるとあの王に知られれば、また良いように使われるのは目に見えている。
「アリア!」
「滅多に使わないというか、使えない。魔力の消費も半端ないし、体も疲れる。私がコレを使って消えると思っているのかもしれないけど、現実的に無理」
そう、時を止めた中で体を動かすのだ。負担がないわけじゃない。全力で魔術を施行したぐらいに疲れている。それも今回は2度も行ったのだ。
ぶっちゃけこのまま寝たい。徹夜明けでの時の魔術の施行だ。私、寝てもいいのではないのだろうか。
納得してくれたであろう魔王様に言って、オークキングの首とキングが使っていた刀を拾って、騎士たちの元に向かう。
どうやら、彼らの方も決着がついたようだ。目に見える範囲に魔物はいないようで、ハルドとサーシャが駆け回り怪我人の治療に当たっている。
私は部下に指示を出しているヴァザルデス師団長に声を掛けた。
「ヴァザルデス師団長。こちらもなんとかなったみたいだね」
「リーゼ様のご尽力があってこそのことです」
そう言って私に敬礼をするヴァザルデス師団長。だから、止めて欲しい。その彼の足元にオーガキングの首を投げる。
「それを王の玉座の間に投げつけておいて、今回の首謀者ですとでも言って」
「いや、それは」
オーガキングの首を持ち歩くのが嫌なのだろうか。それから一本の刀を彼の方に差し出す。
先程から仮面を被った魔王様に下ろして欲しいアピールをしているのに、全然下ろしてくれないのだ。
「この剣、ヴァザルデス師団長にあげる。オーガキングが持っていた剣」
そう言って、鞘がない刀を見せると師団長も気がついたのだろう。この刀の持ち主が誰だったかを。
驚いた表情をしたあと、悔しそうに顔を歪めた。この刀の持ち主の末路を想像できてしまったのだろう。
「そうですか。しかし、私にはこの剣がありますので、十分です。師団長の····いえ、尊敬するあの方の思いと共にリーゼ様がお持ちください」
重い返事を貰ってしまった。いらないと言うなら、私がもらおうと亜空間収納にしまい、ここを立ち去るために声を掛けようとしたところで、阻まれてしまった。
「皆さん、よく頑張りましたわ。でもそれは全てわたくしの采配のおかげですわ」
ああ゛?!
お前の戦術を目的を潰したのは私だと。
『小娘。何をした!何をしたか言え!』
さて、どれの事を指しているのかと肩を竦める。私は亜空間収納に右手を突っ込み、血吸丸を取り出す。赤い刀身にノコギリの刃がきざまれた刀だ。
それに魔力を流し、凶悪過ぎると評判の刀を覚醒させる。
「『覚醒せよ。血吸丸』」
血吸丸が不快な音を鳴らしだした。はっきり言って、血吸丸では刃が立たないだろう。前回も斬ることが適わなかった。
だが、魔術を使うとなるとキングクラスに対抗できるものは高位魔術となってしまう。王都の近くではそれを使うにはあまりにも危険過ぎる。
「ふふ」
また、オーガキングに一人で立ち向かうことになるとは思わなかった。なんでも斬れる剣が欲しいと言って、地面に突き刺さって禍々しい呪いを纏っている大太刀を作ってもらったのは、悔しかったからだ。
自分が持っている刀は刃が立たず、騎士たちは次々と倒れて行く。立っているのは12歳の私と2メルはあろうかというオーガキング。
また私は、血吸丸を手にして私のトラウマの前に立つ。あれから歳月が流れ、私も少しは成長したが、目の前のオーガキングも以前と違い、大きさも威圧感も段違いだ。
「ふふふ」
『何がおかしい!我輩の問に答えろ』
「私が滑稽だと思ってね」
そう言って髪と目の色を戻す。そして、3メルの巨体に向かって駆ける。
『小娘!貴様は!』
叫んでいるキングに向かって私の影を螺旋状に歪め、先を槍のように尖らし、回転させながら突き刺す。が、弾かれた。
風の刃を放つ。避けられ弾かれた。やはり、この程度の魔術では駄目か。
炎で私とキングの周囲に囲み、鳴いている血吸丸を上から下に振り下ろす。血吸丸から炎が吐き出され、キングに炎の塊が向かって行く。その炎を片腕で弾くキング。
私はもう一度、血吸丸を振り下ろす。吐き出された炎はキングに軽く弾かれる。私は何度も繰り返す。何度も何度も。
段々とキングに苛立ちが見えてきた、私の意味のない繰り返しの行動に、苛立っているのだ。
『いい加減にしろ!』
そう言って、キングが一歩踏み出した。怒気と威圧が一歩動いた事により大気が動いた。
一気に炎が膨れ上がる。私達を囲っていた炎が、大気が動いた事により、上昇する。
私が出した炎をキングが弾き飛ばすことで、外側に燃えていた炎に力を加える。動という力だ。
次々に投下される炎と動という力。燃え続ける為に大気の魔素を消費していく。その大気が動いた事で動という力と足りなくなった魔素を補うために炎は回転しながら上昇していく。
火炎旋風だ。それも大気の魔素を消費するように作られた炎だ。魔素はこの世界に満たされた空気だ。消費されていくというのはどういうことか。その中心にいるキングはどうなるか。
炎渦の風に髪を煽られ、共に渦の中にいる私はキングから目を離さず様子を伺う。
最初は、突然炎が上昇した事に驚いていたようだが、徐々に苦しみ出した。今では喉をかきむしりながら、悶ている。
まさか陸の上で息ができなくなるとは思わなかっただろう。
魔素は毒素でもあるが、なくてはならないもの、それはこの世界で生きている全てのモノに共通する。この世界で魔の物として存在しているものなら、特に魔素は己を存在させるためには必要だろう。
そこに私は追い打ちをかけるように、鳴いている血吸丸を振りかざす。掻きむしっている首に向かって一閃。だが、受け止められた。それも一振りの剣が私の血吸丸を受け止めた!
私はその剣を凝視する。見覚えのある剣。いや、片刃の刀だ。
見覚えもあるはずだ、ヴァザルデス師団長の前に師団長を勤めていたものに、退職の餞別として渡した刀だ。
確か彼は、領地を賜ったと言っていた。エルグランの近くの小さな領地で伯爵の地位を与えられたはず。
ああ、彼は最後まで剣を振り続けたのだろう。正義感の強い男だった。民を守るためにこの化け物に向かっていったのだろう。敵わぬ存在と知りながら。
私は剣を弾き、距離をとる。まいったなぁ。私に剣術なんて無いにも等しいから、マトモじゃない状態に持っていったのに、相手も剣を出してくるとは予想外。
これ以上、大技は本当に危険だ。この近くで戦っている騎士たちも巻き込んでしまう。
だが、今の状況が好機であるのも変わらない。オーガの強靭な皮膚が、外皮が魔素の薄くなった大気の影響で炎に焼かれているのも事実。
血吸丸を右手で構え、左手を振るい風の牙を繰り出す。くっ。私の魔力消費量も半端がない。やはり、大気の魔素は必要か。
続いて私も駆け出す。数十という風の牙の猛襲に、先程と同じように腕で弾き返そうとしているが、牙が外皮に食い込んで行っている。よし!
困惑している隙を狙って血吸丸をキングの首に向かって振るう。ノコギリの刃が首に入ったかと思った瞬間、右脇腹に衝撃が走る。視線を向けると私の横腹にも刀が食い込んでいた。
そのまま私は横にぶっ飛ばされる。炎の渦の外まで飛ばされてしまった。飛ばされながら、青い空が綺麗だな。なんて、思ってないからね。
空中で回転し、体勢を整えながら、炎の渦を確認する。威力が弱くなってきている。はぁ、失敗してしまった。これならいけると思っていたのになぁ。
地面に着地を····
視界に赤い色がかすめ、抱えられている私。魔王様、復活されましたか?それともアレのままですか?
私は恐る恐る見上げた。
皮膚にうごめく鱗紋様に深淵を覗き込んだような目が赤い髪の隙間から見える。どちらか判断がつかない!
「アリア、これは何だ?」
魔王様の方ですか。
魔王様は大分弱くなってきている炎の渦を指し示した。火災旋風と言ってつたわるだろうか。
「うーん。試行錯誤して、オーガキングの外皮を脆くする状況に追いやったのだけど、ぶっ飛ばされてしまった」
「ぶっと·····アリア!怪我は!」
慌てたように確認されたが、スパイダーシルクに妖精の祝福がされた戦闘服だ。あの刀ぐらいじゃキズもつけられない。
「ない」
「本当か?」
「無いから下ろしてもらえる?炎が消えた瞬間に切り込むから」
だけど、下ろしてもらえず、逆に圧迫感が増えたような気がする。
「俺がキングの首を」
その先を言わせないと私は彼の口元に人差し指を差し出し、黙るように促す。
「あれはね。私を含めて騎士たちのトラウマであり、仲間の敵でもあり、ここまで蹂躙されてきた民達の敵でもあるの。だから、あれは私の獲物」
それに、鎮めたばかりのアレに出てこられても困る。
やっと下ろしてもらい、血吸丸を片手に炎の壁の際まで行く。恐らくこれが最後の機会だ。戦いが長引くほど、キングの状態は改善していくことだろう。
だから、惜しげもなく魔力を消費する。
魔力を練り上げ術の準備をし、炎の渦を消し去る。
「『寸刻の静止』」
全ての時が止まった。人も魔物も風も大気も何もかもが時を止めた。先程と違い、ここで動いているのは私のみ。
外皮がボロボロになった姿で動かなくなったオーガキングに駆け寄り、首元に血吸丸をそわす。元々は硬い肉体であったキングの肉を削り斬る。
ガガガッという衝撃が手に響いてきた。流石に頸椎は硬いか。魔力をさらに注ぎ込み、血吸丸を動かすが、先程から血吸丸からも嫌な音が聞こえてきている。
くっ。もうすぐ、時を止めている術も解けてしまう。思いっきり血吸丸を引き斬る。
降り注ぐ血の雨。空を見上げながら落ちていくキングの首。斜めに傾いていく巨大。
細切れに砕けながら散っていく血吸丸。その姿を驚愕の顔をして見る私。
「私の血吸丸が!!!!!」
土埃を立てながら沈んでいく巨体に向かっていき、ケリを入れる。
「骨が硬すぎるのよ!血吸丸まで失ってしまうなんて最悪!」
ゲシゲシと蹴り続けていると、後ろから抱えられてしまった。まだ蹴り足りないと魔王様を仰ぎ見る。
「何が起こったんだ?一瞬でアリアが消えたかと思ったら、キングの首が落ちていた」
「秘密」
私が時を止められるとあの王に知られれば、また良いように使われるのは目に見えている。
「アリア!」
「滅多に使わないというか、使えない。魔力の消費も半端ないし、体も疲れる。私がコレを使って消えると思っているのかもしれないけど、現実的に無理」
そう、時を止めた中で体を動かすのだ。負担がないわけじゃない。全力で魔術を施行したぐらいに疲れている。それも今回は2度も行ったのだ。
ぶっちゃけこのまま寝たい。徹夜明けでの時の魔術の施行だ。私、寝てもいいのではないのだろうか。
納得してくれたであろう魔王様に言って、オークキングの首とキングが使っていた刀を拾って、騎士たちの元に向かう。
どうやら、彼らの方も決着がついたようだ。目に見える範囲に魔物はいないようで、ハルドとサーシャが駆け回り怪我人の治療に当たっている。
私は部下に指示を出しているヴァザルデス師団長に声を掛けた。
「ヴァザルデス師団長。こちらもなんとかなったみたいだね」
「リーゼ様のご尽力があってこそのことです」
そう言って私に敬礼をするヴァザルデス師団長。だから、止めて欲しい。その彼の足元にオーガキングの首を投げる。
「それを王の玉座の間に投げつけておいて、今回の首謀者ですとでも言って」
「いや、それは」
オーガキングの首を持ち歩くのが嫌なのだろうか。それから一本の刀を彼の方に差し出す。
先程から仮面を被った魔王様に下ろして欲しいアピールをしているのに、全然下ろしてくれないのだ。
「この剣、ヴァザルデス師団長にあげる。オーガキングが持っていた剣」
そう言って、鞘がない刀を見せると師団長も気がついたのだろう。この刀の持ち主が誰だったかを。
驚いた表情をしたあと、悔しそうに顔を歪めた。この刀の持ち主の末路を想像できてしまったのだろう。
「そうですか。しかし、私にはこの剣がありますので、十分です。師団長の····いえ、尊敬するあの方の思いと共にリーゼ様がお持ちください」
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