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24章-2 魔の大陸-魔人が治める国
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「絶対なる神?」
スーウェンの言葉を聞いたリオンが首を傾げる。炎国には女神ルーチェを崇めているので、この世界で崇められている白き神の存在を知らないのだろうか。
「リオン。以前言っていた白き神だ。これで、俺たちが言っていた意味もわかっただろう?」
グレイが首を傾げているリオンに言った。その言葉にリオンは目を見開く。
「あれが?あのような力を持った存在が?」
白き神のことをリオンに説明する機会があったのだろう。驚いているリオンの声を耳にしながらシェリーは目の前のカイルを睨みつける。
「カイルさん。皮膚がヒリヒリするので、もう止めてくれませんか?」
そう今まで、カイルはシェリーの額を布で拭っていたのだ。シェリーの苦言にカイルは手を止めてはくれたが、不服そうな表情をしている。
「ご主人さま。傷は治しましたが、もう少しご自分の体を労って欲しいです。ここまで傷をつける必要はないのでは?」
スーウェンは治療の完了とシェリーの行動に注意の言葉を言った。シェリーは何かと自分のことにはぞんざいだ。今回も軽く止血しただけで済まそうとしたのだ。
それに、血と魔力で陣を描くが、手首から肘まで傷つける必要はないと言われれば、そうだと言える。血を魔力で伸ばして描くのだから、大量の血は必要ではない。
「そのうち治るのでいいのでは?」
適当な返事だった。スーウェンにそう答えたシェリーは頬を掴まれ上を向かされた。先程と同じだった。そして、カイルから額に口づけをされた。
「消毒」
カイルからの言葉にシェリーは死んだ魚の目になる。そんなことで、神からの祝福は消えはしないと。
「あっ!それいい!」
未だにシェリーの背中から抱きついていたオルクスが声を上げ、くるりとシェリーを己の方に向け、額に唇を落とす。シェリーの目は腐った魚の目のままだが、オルクスは満足そうに笑っている。
それに続き、グレイもスーウェンもリオンも同じ行動をする。シェリーはこの意味のない行動は何をしているのかと、自分のツガイ達を腐った魚の目で見ていた。
「6番目、ありがとう」
ロビンと喜びを分かち合っていたラフテリアから感謝の言葉を言われた。その隣には黒い髪になったロビンがいる。
「シェリーちゃん、ありがとう。マリーもありがとう」
ロビンはシェリーと己の体に向かって感謝の言葉を述べた。しかし、神の力というものは存在を作り変えるほどの力があるのかと、思い知らされた。髪の色以外はシェリーの術で成した姿と変わらないように思える。そう、ラフテリアが施した隷属の茨もそのままだ。
ただ、あの謎の生命体は怪しい言葉を発していた。
『理から外れた魔人が元だと、歪んじゃったなー』と。
「ロビン様、体に違和感はないのでしょうか?」
そのシェリーの問いにロビンはニコリと笑った。
「違和感というか、魔力がとても増えたね。それになんだか高揚感がある。剣を持てば全てが支配できるような、今まで感じたことのない感じだね」
その言葉に危険な匂いがした。聖剣の力が歪んでしまったということなのだろうか。
「力に振り回されないようにお願いします」
シェリーに言えることはそれだけだ。しかし、これでこの世界に神の力によって創られた存在が二人となってしまった。奇しくもそれは因縁がある存在。
カウサ神教国の王太子の首を持ち、聖剣ロビンの体を持ったモルテ王。
聖剣ロビンの首を持ち王太子妃であったマリートゥヴァの肉体を創り変えられ、魔人の力を持つ聖剣ロビン。
「それは、大丈夫。ラフテリアと神様を悲しませることはしないよ。それに」
そう言って、ロビンはシェリーの足元に跪く。
「6番目の聖女にしてラフテリアの力を受け継いた聖女シェリー。この聖剣ロビンは君の為にこの力を奮う事を誓う」
ただの言葉だった。ただ、聖剣ロビンが聖女に力を貸すという言葉だったはずだ。しかし、その場に一瞬、契約の陣が形成された。神を承認者に立てて契約するあの陣だ。
あの白き神を喚び出すだけ喚び出して、契約を行わなかった陣が発動したのだ。そして、シェリーとロビンの耳に届く。
『認めよう』
あの白き神の声だ。
契約が成立してしまった。最も古く最も重い契約が成立してしまったのだ。
また、奇しくもモルテ王と同じくロビンもあの白き神を承認者と立てて契約してしまったのだ。
─────────────────
その頃
「どうかされましたか?モルテ王」
国を再建するために執務室にいるモルテ王がいきなり顔を上げて固まったのだ。側で補佐をしていたレガートスは何かあったのかとモルテ王を伺い見る。
「なんだ?今まであった何かを無くしてしまったような虚無感が襲ってきた」
モルテ王は己の心臓が動いていない胸を押さえる。今は国を再建するために邁進し、色々問題行動は見受けられるが、番も得て日々が充実していたのだ。今更無くすものなどないはず。
だが、下を見ると今まで確認作業をしてた書類に赤い水滴が落ちている。いや、落ち続けていた。
己の頬に手をやると、その手は赤く濡れている。
赤い涙を流しているモルテ王の姿にレガートスは目を瞠る。そのような姿を初めてみたと言わんばかりの表情だ。
ふと、窓が開いていない室内に風が吹いたような気がした。
『エフィアルティス様。二人で良い国にしていきましょうね』
「マリー?」
モルテ王の耳にそんな声が聞こえた気がした。
いや、気の所為だろう。マリートゥヴァは魔人となり、この大陸には存在しない。ただ、番を失うということはこういう感じなのだろうかとモルテ王は感じていた。
スーウェンの言葉を聞いたリオンが首を傾げる。炎国には女神ルーチェを崇めているので、この世界で崇められている白き神の存在を知らないのだろうか。
「リオン。以前言っていた白き神だ。これで、俺たちが言っていた意味もわかっただろう?」
グレイが首を傾げているリオンに言った。その言葉にリオンは目を見開く。
「あれが?あのような力を持った存在が?」
白き神のことをリオンに説明する機会があったのだろう。驚いているリオンの声を耳にしながらシェリーは目の前のカイルを睨みつける。
「カイルさん。皮膚がヒリヒリするので、もう止めてくれませんか?」
そう今まで、カイルはシェリーの額を布で拭っていたのだ。シェリーの苦言にカイルは手を止めてはくれたが、不服そうな表情をしている。
「ご主人さま。傷は治しましたが、もう少しご自分の体を労って欲しいです。ここまで傷をつける必要はないのでは?」
スーウェンは治療の完了とシェリーの行動に注意の言葉を言った。シェリーは何かと自分のことにはぞんざいだ。今回も軽く止血しただけで済まそうとしたのだ。
それに、血と魔力で陣を描くが、手首から肘まで傷つける必要はないと言われれば、そうだと言える。血を魔力で伸ばして描くのだから、大量の血は必要ではない。
「そのうち治るのでいいのでは?」
適当な返事だった。スーウェンにそう答えたシェリーは頬を掴まれ上を向かされた。先程と同じだった。そして、カイルから額に口づけをされた。
「消毒」
カイルからの言葉にシェリーは死んだ魚の目になる。そんなことで、神からの祝福は消えはしないと。
「あっ!それいい!」
未だにシェリーの背中から抱きついていたオルクスが声を上げ、くるりとシェリーを己の方に向け、額に唇を落とす。シェリーの目は腐った魚の目のままだが、オルクスは満足そうに笑っている。
それに続き、グレイもスーウェンもリオンも同じ行動をする。シェリーはこの意味のない行動は何をしているのかと、自分のツガイ達を腐った魚の目で見ていた。
「6番目、ありがとう」
ロビンと喜びを分かち合っていたラフテリアから感謝の言葉を言われた。その隣には黒い髪になったロビンがいる。
「シェリーちゃん、ありがとう。マリーもありがとう」
ロビンはシェリーと己の体に向かって感謝の言葉を述べた。しかし、神の力というものは存在を作り変えるほどの力があるのかと、思い知らされた。髪の色以外はシェリーの術で成した姿と変わらないように思える。そう、ラフテリアが施した隷属の茨もそのままだ。
ただ、あの謎の生命体は怪しい言葉を発していた。
『理から外れた魔人が元だと、歪んじゃったなー』と。
「ロビン様、体に違和感はないのでしょうか?」
そのシェリーの問いにロビンはニコリと笑った。
「違和感というか、魔力がとても増えたね。それになんだか高揚感がある。剣を持てば全てが支配できるような、今まで感じたことのない感じだね」
その言葉に危険な匂いがした。聖剣の力が歪んでしまったということなのだろうか。
「力に振り回されないようにお願いします」
シェリーに言えることはそれだけだ。しかし、これでこの世界に神の力によって創られた存在が二人となってしまった。奇しくもそれは因縁がある存在。
カウサ神教国の王太子の首を持ち、聖剣ロビンの体を持ったモルテ王。
聖剣ロビンの首を持ち王太子妃であったマリートゥヴァの肉体を創り変えられ、魔人の力を持つ聖剣ロビン。
「それは、大丈夫。ラフテリアと神様を悲しませることはしないよ。それに」
そう言って、ロビンはシェリーの足元に跪く。
「6番目の聖女にしてラフテリアの力を受け継いた聖女シェリー。この聖剣ロビンは君の為にこの力を奮う事を誓う」
ただの言葉だった。ただ、聖剣ロビンが聖女に力を貸すという言葉だったはずだ。しかし、その場に一瞬、契約の陣が形成された。神を承認者に立てて契約するあの陣だ。
あの白き神を喚び出すだけ喚び出して、契約を行わなかった陣が発動したのだ。そして、シェリーとロビンの耳に届く。
『認めよう』
あの白き神の声だ。
契約が成立してしまった。最も古く最も重い契約が成立してしまったのだ。
また、奇しくもモルテ王と同じくロビンもあの白き神を承認者と立てて契約してしまったのだ。
─────────────────
その頃
「どうかされましたか?モルテ王」
国を再建するために執務室にいるモルテ王がいきなり顔を上げて固まったのだ。側で補佐をしていたレガートスは何かあったのかとモルテ王を伺い見る。
「なんだ?今まであった何かを無くしてしまったような虚無感が襲ってきた」
モルテ王は己の心臓が動いていない胸を押さえる。今は国を再建するために邁進し、色々問題行動は見受けられるが、番も得て日々が充実していたのだ。今更無くすものなどないはず。
だが、下を見ると今まで確認作業をしてた書類に赤い水滴が落ちている。いや、落ち続けていた。
己の頬に手をやると、その手は赤く濡れている。
赤い涙を流しているモルテ王の姿にレガートスは目を瞠る。そのような姿を初めてみたと言わんばかりの表情だ。
ふと、窓が開いていない室内に風が吹いたような気がした。
『エフィアルティス様。二人で良い国にしていきましょうね』
「マリー?」
モルテ王の耳にそんな声が聞こえた気がした。
いや、気の所為だろう。マリートゥヴァは魔人となり、この大陸には存在しない。ただ、番を失うということはこういう感じなのだろうかとモルテ王は感じていた。
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