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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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「はぁ。すみません。この術で私の魔力はほとんど使い切ってしまいました。2体とも攻撃するつもりでしたが、外れてしまいました」

 と、疲れ切った感じでスーウェンが口にした。一撃必殺というものだったのだろうか。高魔力を誇るエルフ族の魔力を使い切るとは、相当な術だったのだろう。

「いや、いい」

 そう言って、リオンが立ち上がる。その刀には青い炎がまとわりついていた。そして、体制を立て直される前にと、黒い巨体に向かっていった。


 グレイは戸惑っていた。ここで出しゃばっても、邪魔になるだけだと。しかし、何もしないのもどうなのか。

 そして、グレイは迷いに迷った挙げ句、スーウェンに一つの小瓶を渡すのだった。

「スーウェン。魔力回復薬を飲むか?」

「嫌ですよ」

 即答だった。それもすごく嫌そうな顔をしている。

「でもさぁ。俺じゃ。全く刃が立たなさそうだし、リオンも致命的な一撃を入れるのは難しそうだし」

 4人の中で一番レベルが低いグレイでは、オルクスのようにふっ飛ばされて終わりだということはヒシヒシと感じている。終わりというのは人生がという意味だ。

 そして、リオンはというと、巨体に傷をつけてはいるが、太い腕すら切り落とせないでいる。それでは強靭な躯体に致命傷を入れることなど不可能だ。それも普通の生き物なら、頭部と肉体を切り離せば生命活動を止めるが、そもそも次元の悪魔にはその頭部がないのだ。
 カイルかシェリーにでも次元の悪魔の弱点を聞いておけばよかったのだろうが、そんな暇すらなかったのだ。

 背に腹は代えられぬと、スーウェンは差し出された小瓶を受け取る。王都メイルーンで一般的に販売されている【カークスの劇薬】と呼ばれている回復薬だ。

「中和剤も」

 グレイはオレンジ色の液体が入った小瓶も差し出す。これは、数種類ある【カークスの劇薬】と共に販売されている事が多い、ただの果実酒だ。

 スーウェンは魔力回復薬を一気にあおり、中和剤をグレイから奪い取り飲み干す。が、そのまま地面に撃沈する。 

「吐きそう」

 中和剤と言っても劇薬の味を軽減させるが、味が無くなるわけではない。しかし、スーウェンの魔力が全回復したのも確かである。高魔力のエルフ族の魔力でさえ全回復させるオリバー作回復薬はさすがと言っていいだろう。
 味の改善さえされれば。




 その頃、ぶっ飛ばされたオルクスはというと。

「団長。こんなところで何をやってるんっすか?」

 傭兵団の者たちに囲まれていた。
 強靭な腕の一撃によって、ふっ飛ばされたオルクスは国境の山の中腹まで飛ばされてしまっていた。それでも痛いと言葉を漏らしただけで、普通に立っている。

「ああ、今【次元の悪魔】と戦っていたんだけどなぁ。ふっとばされた。で、お前たちは何してんだ?」

「え?次元の悪魔っすか?」
「俺たちはゴブリンの集落があるって情報を得て駆逐に向かう途中ですよ」
「悪魔ってやばいじゃないですか」
「マリア団長は一撃でしたよ?」
「いやー、あのケリは今思い出しても身震いものですね」

 意外な情報が出てきた。

「鉄牙のマリアか!その話を詳しく教えろ!悪魔の弱点ってどこだ!」

 弱点がわかっても刃が通らなければ意味がないものだと思うが。

「核っすよ。でも、個体ごとに核の場所が違うって言ってたっすよ」

 個体ごとに核の位置が違うとなれば、何らかの方法を使って核の場所を調べないといけないようだ。
 今すぐできることではなさそうだと、感じたオルクスは鈍色の剣を強く握り込む。
 オルクスの中でマリアに対して、教えを請わなければならないと決意した瞬間であった。

「俺は戻るから、お前らも気をつけろよ。俺は昔のことはよく知らないが、30年前と同じになるらしい」

 それだけ言い残して、オルクスは雷撃をまとって、地面を蹴った。

 残された者たちは一様に困惑の表情をしている。

「お犬様が団長じゃ俺たち死ぬんじゃないか?」

 その言葉にこの場にいる者たちは首を縦に振る。
 なぜか彼らの中で現傭兵団長の呼び名が『お犬様』で定着していた。



 雷撃をまとったオルクスは進行方向に目的の黒い物体を視界に捉えた。そして、その勢いのまま己をふっ飛ばした腕に剣を突き刺す。そこは幾度かリオンが刀を振るい傷をつけた場所であった。バキッという音とともに強靭な腕の骨が砕かれた。
 リオンはオルクスの剣ごと斬るが如く同じ場所を斬りつける。そして、黒き腕の一本が体を離れ地面に落ちていく。

 ヒュドラの鱗で作られた毒をまとう刃で皮膚を切り裂き、雷狼竜の牙で骨を断ち切ることで、やっと腕一本を落とせたのだ。

「お前ら離れろ!」

 グレイがリオンとオルクスに呼びかけた途端、黒き巨体の腹の中央に光の刃が突き刺さる。そして、その光の刃が光り輝き、黒き巨体が爆散し、高熱をおびた爆風が吹き荒れた。何もかも燃やし尽くす【エクリクシスの厄災】と呼ばれる魔導術だ。それは悪魔の中にある核でさえも燃やし尽くし、存在そのものを消滅させた。

 カイルが言っていた通り、彼らの中で唯一悪魔と対抗できたのは、ただ一人だけだった。魔導師であるスーウェンザイルだけだったのだ。

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