番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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28章 穢れと鬼

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「いやぁ。まいった。まいった。流石、竜人というところかのぅ」

 立ち上っている砂ぼこりの置くから、フォッフォッフォッと笑いながらイスラが出てきた。

 降参を口にしているものの、まだ余裕があるようだ。年老いてもクロードと並ぶ存在であっただけはある。

「イスラ。音波攻撃が綺麗に無効化されたなぁ」
「クロードよ。アレが効くのはひよっこぐらいじゃ」
「最後の技も打ち消されていたしな。なすすべがなかったな」
「フォッフォッフォッ」

 まるでイスラが惨敗したように言うクロード。それに対していつも通りに笑っているイスラ。

 そんなイスラを見て首を傾げる陽子。

「なぜ、降参する。まだ戦えるだろう」

 そこに皮膚を鱗化したカイルが割って入ってきた。カイルとしては、物足りないと言うよりは、イスラが降参をして逃げたという感覚なのだろう。

「老人はいたわるものじゃよ」
「よく言う。最後の技。不発だっただろう」
「フォッフォッフォッ」

 カイルの指摘にイスラは答えずに笑っている。これは答える気がないのだろう。

「あ!っあ~!!」

 そこに陽子の叫び声が聞こえてきた。それも笑ってことを済まそうとしているイスラを指している。

「陽子さんのダンジョンに縦穴を貫通させた技!」
「陽子さん惜しい。最後の技は三人の合わせ技じゃないと完成しない」
「わんこ君は黙るよ!一番頑丈に作った地上の要塞の地面に穴を開けたのは、蜘蛛のおじいちゃんだよね!」

 陽子の叫びに惜しいというクロードだが、その後に続く言葉は耳を疑うことだった。いったいどういう経緯で、黒狼クロードとシュピンネ族のイスラ。赤猿のフラゴルの三人が力を合わせようという流れになったのだろうか。
 そもそも三人が揃わなくても、一人ひとりが超越者なのだ。

 力を合わせなければ、太刀打ちできない敵を想定してのことなのだろう。しかし、普通はそのようなことはしない。

 何故なら彼らは獣人で、種族もバラバラ。個の強さまたは種族の強さを求めるところだ。

「最初何が起こったのかわからなかったけど、地面に地雷を仕掛けたよね」
「はて?ジライとはどのようなものかのぅ」


 陽子の指摘に言葉が理解できないとイスラは返答する。確かに『地雷』と言ってしまえば、ここではない別の世界にある兵器になってしまう。

「地雷かぁ。確かにそう見えるかもしれないな」

 クロードは、陽子の言葉に納得するも厳密には違うと匂わせているが、種明かしをするつもりはないのだろう。
 わざわざ己の奥の手を、嬉々として言う馬鹿はここにはいない。

「蜘蛛の糸による陣形術式ですか」

 そう答えたシェリーに視線が集まった。

「目に見えない糸で術式を描き、発動も糸を伝って行うので、普通では感知できない。気がつけば相手の術式の中央におびき寄せられ、複数の陣による総攻撃……なるほど」

 自分の考えをまとめているのか、シェリーは途中から独り言になっていた。
 シェリー自身の足りないところを補うために、使えないのか考えているのだろう。

「事前に仕掛けておくというのは、面白い」

 そこにこの場に居ないはずの人物の声が聞こえてきた。いや、夜型のため地下で寝ているはずのオリバーの声がだ。

「ひっ!大魔導師様!騒がしいのは陽子さんの所為じゃないよ!」

 思ってもいなかった者の登場に、陽子は近くにいるクロードを盾にして、オリバーから身を隠す。
 毎回のことだが、陽子はいったい何をしてオリバーを怒らせたことがあるのだろう。相当トラウマになっているようだ。

「しかし、カイル。君には効かなかったようだが?事前に感知していたのかね?」

 この場にいなかったにも関わらず、この場でカイルとイスラの戦いを見てきたかのように尋ねるオリバー。

「いや。ただ、空気がピリピリしていたから、何かはあるとは感じていた」
「ふむ。何かしらの予兆があると。シュピンネ族の御仁。俺にさっきの技を使ってくれないか?」

 興味津々で、イスラに近づいていくオリバー。最近は何かと新しいことには貪欲に得ようとしている。
 いや、オリバーが知り得なかったことを知る機会が増えたということだ。

「あ?もしかして、グローリアの魔導師長のカークスか?久しいな」

 魔王討伐戦の初期に出陣していたクロードは、オリバーと面識があったらしい。そして、今まで何かとシェリーに使い勝手が良いように喚び出されていたクロードだったが、死人同士では初対面だった。

「ナヴァル公爵。死人に挨拶は不要であろう?」
「それは、そうだ」

 死んだ者に久しいも何も無い。
 ただの世界の記憶から構築されたモノと、聖女に死して隷属されたモノである。
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