結婚するとは言っていません

白雲八鈴

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第5話 団長の従騎士とはどういうことです?

 翌朝まだ暗い内に、私は鍵がかかっていない独房を抜け出しました。
 実は行きたいところがあったのです。

 騎士団の敷地内にある慰霊碑。先の戦争で亡くなった者たちの鎮魂のために作られた碑です。

 父から聞いてたどり着いた場所は、人気がない場所。騎士団の敷地でも北の奥まったところにありました。

 高くそびえ立つ慰霊碑。手入れがされているようで、花が供えられています。
 周りが生け垣で囲われているのは、祈りを捧げる者を妨げないということでしょうか?

 何故こんなところにと思いましたが、視線をあげれば高台にそびえ立つ王城が見えました。だから、こんな敷地の端にあるのですね。

 まぁ、ここに来ても何もないのですけどね。
 あの戦いで散った者たちの名が刻まれたただの石というだけのもの。

 遺品も遺体も全てあの戦場に置き去りにされたでしょうから。

 私は胸ポケットから二本のタバコを取り出します。前世の頃から愛用していた安物のタバコです。

 あ、何度もいいますが、父の一族の血のせいで童顔ですが、成人していますからね。

 一本のタバコは咥え魔法で火をつけ、もう一本は火をつけたものを慰霊碑の前に置きます。

「はぁ。ハズメイラの丘で会おうと約束したのに、生まれ変わってしまったよ」

 タバコの煙を吐きながら言いました。
 残念ながら私はハズメイラの丘にたどり着いた記憶を持っていません。

「最後まで付き合ってくれた君たちになんと詫びればいいのか」

 あのあと、生き残った者たちが私と合流し、共に敵陣を攻めたのだ。
 ああ、そう言えば、その前にマルトレディルを後方に下げたのだった。

 後方に下げたはずのレクスが前線にいたからだ。それも左目を負傷してだ。

「はぁ、なぜレクスのやつは、あそこにいた? 何のために後方に下げたと思っている。ファングラン公爵の嫡男が勝利を掲げて凱旋するためとわからなかったのか」

 だから冬に子供が生まれるというマルトレディルに、レクスを押し付けて下がらせたのだ。

 そう言えば、あの時もおかしなことをいっていたな。

 ……はっ! 思考が前世のようになってしまっています。
 ここにくるのは、これで最後にしましょう。

 なにもない慰霊碑に、これ以上かける言葉はありません。

 ただ、私は新たな人生を歩んでしまったという謝罪をしたかっただけです。そう、約束を破ってしまったことへの謝罪。
 懺悔です。

「君たちの来世が、幸せであることを願うよ」

 私は慰霊碑に背を向けて去ろうとすれば、目の前に壁が……壁?

 視線を上に向ければ、朝日を背に私を見下ろす赤い隻眼があるではないですか。……あ、鍵をかけなかったほうが悪いのです。
 だから脱走ではありません。

「私が前線にいたのは、フェリラン中隊長の従騎士だったからです」

 それも私の独り言を聞いているではないですか! 気配を消して背後に立たないでください。
 気づかなかった私も悪いのですけど。

「隊長が命を張って戦っているのに、後方に控えているなど、フェリラン中隊の笑い者」
「あ、……いや、その……団長が私の独り言に答えなくても……」

 あまりにもの予想外の事態に、咥えていたタバコが地面に落ちます。
 これはどうすれば……何故に敬語。

「それに私と結婚してくれるとおっしゃったではないですか」
「誰が婚約者がいるレクスに、そんなことを言うものか!」

 あ、やってしまいました。何故か異様にレクスに慕われていた前世。
 前世の私は一言もレクスと結婚するとは言っていません。

 ジリジリと後方に下がります。退路を探そうにもここは生け垣に囲まれているため、逃げるなら生け垣を飛び越えるしかありません。

 退路に思考を巡らせていると、突然腕を引っ張られ、捕獲され全身を締め上げられて……苦しい。
 身動きが取れないようにホールドされるなど、動揺し退路を気にしていたとはいえ、油断していました。

「隊長が生きていた」
「苦しいわ! それからユーフィア・フェリランは戦場で死んでいますから」

「すみません。隊長。あの時の私では何もお役に立てませんでした」
「……」

 あ? もしかして、それで騎士団に残っているとか言いませんよね?
 十六歳の公爵子息を戦力として考える方が間違っているのです。ただ勝利を掲げて王都に凱旋するという役目があったのです。
 そのことに誰も文句は言わないでしょう。

 それよりも!

「私は隊長という者ではありません」

 バレるようなことはしていないハズです。
 私が昨日見せた力は弟のアルバートが出せる実力に抑えたのですから。

「隊長。あれでバレていないと思っているのですか? 最後のほうはどちらが試験官かわからない状態でしたが?」

 ……そ……そんな……はずは……。

「戦場でのフェリラン中隊長の戦い方でした」

 私は氷姫と言われる戦い方はしていません。これは絶対です。

「敵が一人に対してバラバラで攻撃するなど愚の骨頂。陣形をとり、敵の退路を絶ち、攻撃を仕掛けろと言いつつ、指揮官を瞬殺するのはフェリラン中隊長の訓練と同じでした」

 ぐふっ!
 確かに言った覚えがあります。
 ええ、言いましたわよ。
 私が苛ついて全員でかかってくるようにいいましたよ。このクソガキがと息巻いて攻撃してきた者たちを打ち負かしてやり直しを言い渡しましたよ。
 こういう場合は、騎士として隊を組むべきだと。

 で、息巻いて指揮をとる者を、攻撃しましたよ。
 戦場では指揮官が倒れたからといって、戦いが終わるわけではありませんからね。

 まぁ、結局全員が地面と仲良くなっていましたが。

「ということで、隊長は私の従騎士となりましたから」
「は? ……だから、私は隊長という者ではありません」

 今、なんと言いました? 団長の従騎士?
 そもそも入団して一年目は見習い騎士として、各隊で雑用係をするはずです。

 なのに団長直属? 意味がわかりません。

「ですから、今日から従騎士マルトレディルです」
「見習い期間が抜けています」
「まさか、隊長にそのような雑用をさせるなど、とんでもない。それから私の下というのは、各隊長全員一致の意見ですから」
「そうですか。全員一致ですか。あと部下に敬語を使うのも如何なものかと思います」

 身分も違いますから、敬語は本当に止めてほしいです。
 それから、いつになったら、私は解放されるのでしょうか?

「そろそろ離していただきたいのですが?」
「先程のようにレクスと呼んで欲しいです」

 あれは独り言です。その名を私が口にすると、色々問題なので無理です!


 こうして、アルバート・マルトレディルは団長の従騎士となってしまったのでした。

 アルバート。姉様はこれでも頑張ってみたのですが、初日から色々やらかしてしまったようです。

 しかし、最近の騎士が軟弱なのが悪いのです。あと、私を小さいと馬鹿にする者が悪いのです。

 アルバートなら、入れ替わったあとも団長の従騎士として頑張れると、姉は思っていますよ。
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