見鬼の陰陽師は鬼の嫁である

白雲八鈴

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第2話 使役する代償は割に合わない

「私は追い詰めるのに三日間もかかったのに、瞬殺ってどういうこと! 割に合わなくない?」

 私は鬼頭におんぶされて文句をいう。
 これは三日間がんばって追い詰めたのだから、歩くのが疲れたと私が駄々をこねたからだ。

「なんか眼鏡っ娘に取り憑いていたのを祓って追い出して、依代に移そうと思えば、邪魔が入って逃げられたし! それから三日間追いかけっこ! 私だけ凄く大変だった!」

 私と鬼頭は元々は依頼を受けて、一週間この高校に潜入していた。

 ここ半年ほど学校内で怪奇現象が起こり、生徒たちが面白可笑しく囃し立てだしたので、学校側が動いたのだった。

 生徒の誰かが原因というところまでは突き止められたのだけど、それ以上がわからず、私と鬼頭が潜入調査することになって三日目。
 やっと、とある女生徒に狐が取り憑いていると判明したのだ。

 あとは追い出して依代に狐を移せばよかっただけだったのに、見た目がいいだけの鬼頭につきまとう者たちに邪魔をされて失敗してしまったのだ。

 いや、鬼頭は人じゃないからねとは言えず、今日までかかってしまったのだ。

「俺は潜んでいるヤツは見えないから仕方がない。見るのは見鬼である真白の役目で、闘鬼である俺は戦うのが役目だ」

 わかっているけど、理不尽だ。

「鬼頭真白様。お疲れ様でございました。後始末はこちらで承ります」

 グチグチと文句を言いながら鬼頭に運ばれている私に向かって、頭を下げている者が声をかけてきた。黒スーツの男。名前は藤宮明。

「よろしく。それから今から里に帰るでいいんだよね? 藤宮」

 私は十八歳だけど、二十六になる藤宮にはタメ口で名前は呼び捨てだ。

「今からですと到着時間が夜中を過ぎてしまいますので、陰陽庁が用意したホテルにお泊りください」

 陰陽庁。それが彼が所属している組織である。全ての国家機関が東京に移されたけれど、陰陽庁だけは本部が京都に残されている機関だ。私は陰陽庁に所属しているというよりも、まだ成人していないので見習いという感じで、簡単な依頼を請け負っている。

「駄目だ。里に戻る」
「……」

 そして彼らは鬼頭の言葉には答えない。
 鬼頭は畏怖すべき鬼であり、人としては認識されていない式神。

「藤宮。運転が大変だと思うけど、里に帰るよ。都会ってどうも肌に合わないんだよね」
「かしこまりました。真白様。お車を回しておりますので、こちらにどうぞ」

 そうして藤宮は頭を上げて、車が停めてあるところに案内してくれる。藤宮はここ一年ほど私につけられた陰陽庁の職員だ。
 今までで一番もっていると言っていい。

 普通は陰陽庁の職員の担当は、そうコロコロ変わるものではない。だけど、私の担当は耐えきれずに変更されるのだ。

「しかし、藤宮。今回の依頼は本当に私でなければいけなかったのかな? 別の者でも良かったと思うのだけど? ほら、捕まえるだけなら、イタコの高裏こうりでもよかったとおもうけど?」
「高裏すずめ様も候補には上がっておりましたが、ご性格を考慮されたようです」

 ああ、人見知りってことね。

「生徒として潜入ができて、今依頼を受けていない方が真白様ぐらいしかおられなかったということです」

 はい。私は暇人ですからね。他の人のように頻繁に依頼は受けないからね。

 黒いワゴン車に案内され、一番後ろの席に座る。車内の窓にはカーテンが敷かれ、外の光が遮られていた。

 日光が遮られると、鬼頭の金色の瞳に光が宿る。あやかしは闇に生きるモノ。その能力は日の光によって抑えられ、本来の力は出すことができない。

 それは他のあやかしにも言えること。だから日が落ちる黄昏時までには決着をつけたかった。とはいっても、鬼頭からすれば、野狐如きでは大差なかっただろう。

「腹が減った」

 その鬼頭からポソリと声が漏れる。丁度運転席に座った藤宮の肩が大きく揺れた。

 まぁこの一週間我慢したほうだと思う。だから、陰陽庁が用意したホテルに行くことを鬼頭は拒んだのだろう。

「藤宮。悪いけどまた汚すよ」
「……はい。後で清掃はしておきます」

 そう答えた藤宮は、運転席と後部座席との間をカーテンで仕切り、車を発進させた。

「腹が減った」

 同じ言葉を繰り返す金色の瞳に見下される。
 私はため息を吐きつつ、左腕を持ち上げ、フッと息を吹きかける。

「『痛覚無効』」

 私が言い終わると同時に、鮮血が私の顔に飛び散った。そして先程まで私の肩から先にあった白い腕に噛みついている鬼頭。

 骨が砕ける音に、むせかえる鉄の匂い、肉を咀嚼する音が狭い空間に響き渡る。

 鬼は人を食らうモノである。

 そして鬼頭真白は鬼の『』として鬼頭の側にいる者である。

 私は車内に用意されていた保冷庫から栄養ドリンクを右手で取り出す。そのドリンクの蓋を左手・・で開けて、一気に飲み干したのだった。


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