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はじまり

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ある夏、七夕中学3-1組にオカッパ頭の眼のギラついた一見ヤバそうな男の子、丸中裕士が登校してきた。
間も無く3人の男子生徒が駆け寄る、久留米拓也、南大地、箱根京の3人でお調子者でクラスのカースト上位である。
久留米は丸中に「完全犯罪思いついたんだけど、試してみていい?」と楽しそうに言う。
丸中は真顔で「うん。説明してみて、論破してあげるから」と言うと久留米は苛ついた様子で丸中の首元を掴み教室を出て行く。
そんな姿を遠目で見つめる女子生徒が1人
叶愛である。彼女はカーストでいえば中盤あたりに属する。何もできないが、心配そうに彼らが出て行った後を見つめている。

少し時間が経って、その日の放課後
3-1の教室で久留米達3人が机に暴言・悪口を夢中で書き殴っている。

次の日、登校して来た丸中は机を見て立ち止まる。表情は常に真顔で何を考えているかはわからない。そんな丸中を見て、久留米達3人が笑いながら寄って来る。
そして「丸中可哀想だな。誰にやられたんだ?」と詰め寄る。
丸中は「これが完全犯罪?」と鼻で笑い久留米を怒らせる。
久留米は胸ぐらを掴み。「誰がやったか証明してみろよ」と挑発する。
丸中は「いいよ」と言い、教室の黒板横に置いてあるペン立てから、おそらく使われたであろうペンを取って自分の席に戻る。
そして「このペンの指紋でも調べればわかるよ」とひと言。
久留米は「教室の備品なら誰もが一度は触れてるだろうな、俺らの指紋ももちろんついてる」「俺らが行事に積極的じゃないから触ってないでしょうとか言うなよ」と畳み掛ける。
丸中は「そうだね、じゃあこのペンのインクとその手に付いてるインクを照合してみよう」と言い、南の手の甲を指差す。
南は慌てて、手の甲を見る。
そして「なんで手は洗ったはずなのに!」
と焦って言ってしまう。
丸中は「証明完了」と言う。

そして担任の福永先生が教室に入ってくる。彼はメガネで痩せ型、気の弱そうな40代後半の男である。福永先生は南の机を見て驚く。なぜなら丸中の机と南の机を入れ替えたようで、南の机に暴言・悪口が書かれていたからだ。福永先生は見なかったかのように出席を取り始めた。

その様子を廊下で見ている教師がいた。
辰巳先生、30代後半で落ち着きがあり爽やか、何処か内に何か秘めていそうな雰囲気がある口数の少ない教師である。

その日の放課後、叶が辰巳先生を訪ねる。
辰巳は理科室で黒板を消していた。
叶は「先生さっき見てましたよね?」と聞く。
辰巳先生は「完全犯罪とは何でしょうね」と言う。福永先生は久留米達3人が机に落書きしているところを影から見ていた。それを辰巳先生は知っていた。
叶は何かを感じる。

それから数年後
七夕中学職員室で、新任の先生が紹介される。「丸中裕士です。今日からまたこの学校でお世話になります。僕を知っている先生も知らない先生もどうぞよろしくお願いします。」と相変わらず真顔で言う。


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