松葉杖の兵士

松葉杖の兵士

「頼む！殺してくれ…」
懇願する声が兵士の口から漏れた
それはあまりにも悲痛な口調だった
聞いていると耳を塞ぎたくなるような
胸を引き裂かれるかのような口調

シベリアから徴兵された兵士
彼は戦場で足を負傷して杖が無ければ歩けない身体になっていた。にもかかわらず前線に戻されて突撃を命じられた哀れな一人の人間であった

松葉杖をついて歩く彼は遮蔽物のない道をのろのろと進んでいく

やがて彼を見つけた誰かが引き金を引くが…彼には当たらない

実際には撃たれているのだが
彼はそこに縛られて今でも
戦場で松葉杖をつきながら彷徨っているのだ

そうして誰かが彼の恐怖心を解き放ってくれのを期待しながら
「お願いだ！誰か！俺を殺してくれ…もう戻れないんだ」
と叫び続けている

彼の後にも木やパイプを杖代わりにして死の後進を延々と続ける者達が怨嗟と嘆きの声をあげ続けていることを忘れてはならない

おわり