ウォッカと命の交換

ライム(こげ茶)

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ウォッカと命の交換

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鈍い音がしてすぐ頬に衝撃が伝わり
口の中に鉄の味が広がった。
舌の上に違和感があると感じ
確かめて見ると折れた奥歯だった


「お前今なんと言った?出撃しないだとォ
もう一度同じことを言ってみろ」

「………」

「特別軍事作戦は絶対に成功させねばならん。お前たちはその為の肉の壁なんだよ」

血走った目付きで俺を睨みつける上官。
これまで何度見たことだろう。ジャンキーと同じ狂った目付き、大嫌いな目付きだ

「ほれには、ひところしなんててきません」

殴られたせいではっきりしない言葉のまま言う。酷く頬が痛く口の中の感覚も麻痺している。だが何故か頭の中だけははっきりしていた。人殺しをしたくないと言う気持ちも本音だった

「あぁん?本気で言ってるのか!下っ端の癖に!!!」

胸倉を掴まれ揺さぶられる。
上官の血走った目に更なる狂気が宿った

「戦場に来て人殺ししたくないだと貴様は腰抜けか?それとも雌犬《スーカ》かぁ?そんなに戦いたくないなら死ね」

MP-443を片手に上官は言うと銃口を俺の眉間にぴたりと突き付けた。怖い、引き金が引かれたら確実にしぬ。

「おまへはあくまたな」

「減らず口をまだ叩くか余裕だなあ」

眉間に当てられていた銃口が腹の方へ向けられる。

「なら、嬲り殺しにしてやる」

乾いた音がし、腹に熱が走る。熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!
そして熱くなった腹部に手を当てると濡れていた。血、水のように際限なく腹から流れ出す血を茫然と俺は見ていたが、遅れて鋭い痛みが走る。撃たれた…。畜生!本当に撃ちやがった

「ぐ…」
苦痛に身を折り曲げ腹部を抑える俺を楽しそうに上官は見ていた。

「次はどこがいい?肩か?それとも足か?」

上官は拳銃を手で弄びながらまた狙いを定めてくる。もうやめてくれと叫びたくても激痛で呻き声しか出せない。

血が腹から大量に流れていきだんだんと意識が遠のきそうになる。

(おいアントニオこれ以上は言うな、お前ほんとにやばいぞ)
今までじっと様子を見ていた兵士が隙を見て横から囁く。

「なんだぁ?お前も同じ目に遭いたいのか」

「同志少佐違います…こいつ昨日の戦闘でビビって士気が落ちてるんです」

「それで?」
泥棒を見るような眼差しを少佐は向けた
だが彼は怯まず続ける

「だから景気付けに一杯やりませんか?酒でも飲めば戦う気力がまた湧いてきますよ…なっ!お前もそう思うだろ!」

「あ…ぁあ」

俺は痛みに耐えながらなんとか返事をする
何を聞かれたかもよくわからない。

「ほう、確かにそうかもな」

上官の目から怒りの色が消えていく
殺意もなくなり拳銃をしまった。

「ここのところ前線で、我々の軍は押され気味だ。だから士気をあげる必要がある。
酒で景気付けするのはいいかもな
ウォッカを持ってきてくれ」

「同志少佐了解であります。酒を持ってきます!こいつにも手伝わせますね」

言って無理矢理俺をその場から連れ出すと

「あんな馬鹿なことは二度言うんじゃない。
上官に逆らえば死が待ってる」
小さな声で説教をしだした

「どうへ、とつへきすれはひぬ」

「おまえなあ…今殺されかけたのと突撃で死ぬとどっちがマシだと思う?
俺はどっちも嫌だね!

どれ腹の止血をしてやる見せてみろ」

奴は手早く俺の腹の止血をすると
一安心したのかふうっとため息を吐いた。

「弾は貫通してるが止血はしておいた。なんとかなるだろう。あとはこまめな消毒と包帯の交換をすれば大丈夫」

「すまなひ」

「なあにいいってことよ!俺はなここで生き延びて隙を見て脱走するつもりだ!お前もこんな地獄みてえなところ長居したくないだろ」

そんなことできるはずがない
脱走なんてもし見つかったらただではすまない。そう口をついて出る前に奴は言う

「いいや…チャンスはいくらでもあるさ
お前も生きるチャンスを見つけるんだ」
やけに自信満々に言う姿を見て思わず

「いきて、ははおやにあひたいな」
と言葉が漏れた。故郷の母親は元気だろうか時折思い出してはホームシックになる。
母親の作ったポンチキが無性に食べたい。

「だろ!俺も嫁に会いたくて新婚なのに徴兵されて散々だ!お互い再会したい者の為に頑張って生きようぜ!」

「ああ…」

「おっと早く酒を持ってこないとな」

「おまへなまへは?」

「ん?俺の名前ダニールだよ」

名前を聞いて俺は確信した。ロシアはこの戦争で勝てないだろうと。
そして母親に生きて会うことを誓った。
家族の為に俺は生きるんだ肉でなく一人の人間、一人のロシア人として




おわり


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