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ветер свободы(自由の風)
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ウォッカの入ったショットグラスを一気にあおる。この国の娯楽は酒くらいしかない
酒を飲む以外に気晴らしなどできないのだ。
それはこの国特有の日照時間が短く鬱になりやすいことも多少は関係しているかもしれない。
アルコールが脳を麻痺させる感覚
不快感が軽くなり、口も軽くなる
「なぜこうなってしまったのか」
なぜこうなってしまったのか…外交を司る外務省の側近として今日まで勤めてきた中、取り返しがつかない事態になってしまったことがショックだった。
(正直に言えばブリャーチですよこの国は、冷戦から何も学んじゃいない。西側とはうまくやるべきだったのにそれを蔑ろにし、米国さえも小馬鹿にしている)
用意されたメモにさらさらと書いたのは四十代になるかならないかの男。眉間には消えない縦皺が刻まれている。髪は白髪混じりで五十歳後半と言われても不自然ではない見た目だった。
ホテルのVIPルームの豪奢なソファに私とその男は斜めに向かい合うように座っていた。
庶民には到底払えないような値段の部屋だ。
そんな高級な部屋の一角での筆談のやり取りを二人の男が黙々としている様子は他人が見たとしたら異様に映ったことだろう。
(それだけじゃない。侵攻…戦争のせいで経済は崩壊寸前だ。ソ連時代を思わせる荒廃ぶりに涙が出てくるよ。戦時から平時に移行すればバブルが弾けるのは確実だろうな)
テーブルに映る禿頭とたるんだ自分の顔を横目に見ながら私はガリガリとメモ紙に綴る。
盗聴されないよう必要最低限の筆談であった。
携帯やデジタルタブレットもハッキングや会話を第三者から見られる可能性がある。だからアナクロなやり方が一番いい。
ある意味理に叶ったソ連式とでも言おうか
「ウォッカはどうかね」
時には酒の話で箸休めをするのも大事だ。
「私はワインをいただくよ。そういや米国は他国のワインにも関税をかけるらしいな、アメリカファーストをよほど貫きたいらしい」
「ふう…ワインなんてものは色々な国のを手軽に飲めるから楽しいと思うがね…(私は普段ワインを飲まないが)それが気軽にできなくなるようなアメリカの関税のやり方は疑問に思う」
「まったくだ」
(バブルが弾ければ今の政権は交代を免れられないだろう。この国は確実に崩壊する。私や君もただじゃすまないだろう。それよりもだ、今まで築きあげてきた他国との関係、これがどんどん壊れはじめている。このままでは欧州のほとんどは我々と敵対する…いやもうしているな、敵対したままではロシアを立て直すことは出来んだろう。つまりはこの国は生まれ変わる必要がある)
ワイングラスに中程まで注がれたロゼワインを一気に飲み干すと彼はメモにまた書き出した。
(生まれ変わるとは共産主義を終わりにすることだ)
(そんなこと出来るはず…いやしなければならないのだな古のやり方にこだわってきた悪い風習が今のロシアをここまで衰退させてしまった。で、あるなら昔のやり方をすっぱりやめ、今のやり方に変えなければこの国は生き残れない)
生き残れないまで私は書くとペンを握る手が汗まみれになった。紙ナプキンで汗を拭き取りまたペンを持ち直す。我々は何て話をしているんだ。上層部にバレたら政治犯として捕まるような内容だぞ。
ゴルバチョフからエリツィンにトップが代わり一時的に民主主義の風がロシアに吹いたが、ロシア経済を豊かにすることはなかった。
だが、数年前に始まった侵攻による経済衰退により再びロシアに民主主義の風が吹いたらどうなるか…良い方向に風が吹けばロシアも西側のように発展できるかもしれない。それには相当な痛みがともなうだろうが時代がそうだと言うなら従うしかあるまい。
「私にもワインをくれ」
「珍しいな、いつもウォッカかジンしか飲まないのに」
「たまには新しいものを試したいと思ってね」
「いいじゃないか…これは新物だけど美味いワインでね」
新しいワイングラスが用意され、並々とワインが注がれた。
「乾杯!ロシアの発展を願って」
「乾杯」
二つのグラスがカチリと合わさると私達は互いにワインを飲み干した後意味深にニヤリとした。
おわり
「困難を極め、痛みを伴うだろうが、民主主義はロシアで勝利を収めるだろう。ロシアが完全な独裁に向かうことはないだろうが、独裁主義に陥ることはあり得る。 」ミハイル・ゴルバチョフ
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