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僕の天使には羽がない 8
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湿気で額から汗が垂れる。
湊はいつものように1人美術室でキャンバスに向かっていた。
1人で教室を使うのにエアコンを付けるのは何だか気が引けて、ある程度涼しくなったから止めてしまった。
夏休みに入った学校は、静かだと思いきや、案外そうでもない。
開け放した窓からは風と一緒にいろんな音が流れ込んでくる。運動部の掛け声や吹奏楽部の音楽、演劇部の発声練習。補講帰りの生徒たちの笑い声。
自分には関係ないはずの雑音が、なぜか心地よくて筆が乗る。
夢中になって描いていた絵を一度冷静になって見返すため、キャンバスから離れて見る。
デッサンが狂ってないか、構図は変じゃないか。
目を細めたり首を傾げて確認し、再びキャンバスの前に座る。
(少し休憩するか)
近くに置いておいたペットボトルのお茶を一口飲む。この夏の暑さでぬるくなったお茶は、優しく湊の喉を潤す。
「はぁ……」
息をつきながら、描きかけの絵に視線を戻した。
最近、颯真に会っていない。
颯真は、数少ない友達のひとりだ。
付き合いも長く、大きな試合前はバレーボールに集中して遊んでいる暇もない事は充分知っている。
今年は特に力を入れているのも分かっている。
颯真にとって、3年生にとって最後のインターハイだからだ。
2ヶ月前、毎日のようにバレー部の様子をスケッチさせてもらいに体育館に通っていたが、もう行けなくなった。
(頑張ってるのかな……大翔くん……)
心の中でそう呟いてから、ハッとした。
(なんで大翔くん?颯真のこと考えてたと思ったのに)
頭を振ってからもう一度お茶を飲む。
もちろん大翔にも頑張って欲しい。
2ヶ月前の体育館。
ほぼ毎日見ていたバレーボール部。何十人もいる部員の中でも、一際目を引いていた。
彼の動作や行動が派手で目立つのもあるが、何故か視線は彼を自然と追ってしまうのだ。
ネット際で高く跳ぶ姿、ボールを追いかけてレシーブを受ける姿、真剣な瞳、誰よりも大きな声、少し太めの眉毛、キリッとした瞳、大きな口を開けて笑うと、まるで太陽のように眩しい。
どうしてこんなにあっけらかんに笑えるのだろう、こんな笑顔なんだろうとつい引かれるように見てしまう。
(それに……)
事故だけど、頬に唇が当たった。
ぶつかりそうだったボールから庇ってくれた時に抱きしめられた。
慰められように保健室で頭を撫でられた。
壁ドンされた。
それらを思い出して、身体の奥がざわつく。
彼の体温が熱いのが分かるほどの距離。
自分より大きな身体に包まれて、鼻をくすぐる彼の体臭。
汗と石鹸の混じったような匂い。
(いやいやいや)
そもそも、男同士だ。
部活の仲間同士ならハグくらいするし、距離が近いこともある。
そう、普通のことのはずなのに。
(なんなら彼にとっては日常茶飯事なのかもしれない)
それに、バレーボール部には女子のマネージャーもいるし、教室に行った時も男女問わず輪の中の中心にいた。
あの性分だ、女子の人気だってありそうだ。
(そうだよな、モテそうだし、たぶん彼女もいるかもしれない)
遠くから聞こえる運動部の声に耳を傾けた。
湿気の混じる一人きりの部屋の中で、聞こえる遠くの大勢の声。
不思議な感じだ。
あの中に大翔の声があるのだろうか。
声が大きいから聞こえるかも、と思わず口元が緩む。
(って、なんかずっと大翔くんのことばっかり考えてる……)
なんだかどうしたらいいのか分からなくなって、もどかしくてたまらない気持ちになる。
彼の何が気になるんだろう。
そんなに引っかかるんだろう。
こんな自分の気持ちに整理がつかないことは初めてだ。
「あーあー」と無意味に声を出して気を紛らわしてキャンバスにむかい直す。
(とりあえず!今は絵!)
湊は絵に逃げ込むように筆を取った。
湊はいつものように1人美術室でキャンバスに向かっていた。
1人で教室を使うのにエアコンを付けるのは何だか気が引けて、ある程度涼しくなったから止めてしまった。
夏休みに入った学校は、静かだと思いきや、案外そうでもない。
開け放した窓からは風と一緒にいろんな音が流れ込んでくる。運動部の掛け声や吹奏楽部の音楽、演劇部の発声練習。補講帰りの生徒たちの笑い声。
自分には関係ないはずの雑音が、なぜか心地よくて筆が乗る。
夢中になって描いていた絵を一度冷静になって見返すため、キャンバスから離れて見る。
デッサンが狂ってないか、構図は変じゃないか。
目を細めたり首を傾げて確認し、再びキャンバスの前に座る。
(少し休憩するか)
近くに置いておいたペットボトルのお茶を一口飲む。この夏の暑さでぬるくなったお茶は、優しく湊の喉を潤す。
「はぁ……」
息をつきながら、描きかけの絵に視線を戻した。
最近、颯真に会っていない。
颯真は、数少ない友達のひとりだ。
付き合いも長く、大きな試合前はバレーボールに集中して遊んでいる暇もない事は充分知っている。
今年は特に力を入れているのも分かっている。
颯真にとって、3年生にとって最後のインターハイだからだ。
2ヶ月前、毎日のようにバレー部の様子をスケッチさせてもらいに体育館に通っていたが、もう行けなくなった。
(頑張ってるのかな……大翔くん……)
心の中でそう呟いてから、ハッとした。
(なんで大翔くん?颯真のこと考えてたと思ったのに)
頭を振ってからもう一度お茶を飲む。
もちろん大翔にも頑張って欲しい。
2ヶ月前の体育館。
ほぼ毎日見ていたバレーボール部。何十人もいる部員の中でも、一際目を引いていた。
彼の動作や行動が派手で目立つのもあるが、何故か視線は彼を自然と追ってしまうのだ。
ネット際で高く跳ぶ姿、ボールを追いかけてレシーブを受ける姿、真剣な瞳、誰よりも大きな声、少し太めの眉毛、キリッとした瞳、大きな口を開けて笑うと、まるで太陽のように眩しい。
どうしてこんなにあっけらかんに笑えるのだろう、こんな笑顔なんだろうとつい引かれるように見てしまう。
(それに……)
事故だけど、頬に唇が当たった。
ぶつかりそうだったボールから庇ってくれた時に抱きしめられた。
慰められように保健室で頭を撫でられた。
壁ドンされた。
それらを思い出して、身体の奥がざわつく。
彼の体温が熱いのが分かるほどの距離。
自分より大きな身体に包まれて、鼻をくすぐる彼の体臭。
汗と石鹸の混じったような匂い。
(いやいやいや)
そもそも、男同士だ。
部活の仲間同士ならハグくらいするし、距離が近いこともある。
そう、普通のことのはずなのに。
(なんなら彼にとっては日常茶飯事なのかもしれない)
それに、バレーボール部には女子のマネージャーもいるし、教室に行った時も男女問わず輪の中の中心にいた。
あの性分だ、女子の人気だってありそうだ。
(そうだよな、モテそうだし、たぶん彼女もいるかもしれない)
遠くから聞こえる運動部の声に耳を傾けた。
湿気の混じる一人きりの部屋の中で、聞こえる遠くの大勢の声。
不思議な感じだ。
あの中に大翔の声があるのだろうか。
声が大きいから聞こえるかも、と思わず口元が緩む。
(って、なんかずっと大翔くんのことばっかり考えてる……)
なんだかどうしたらいいのか分からなくなって、もどかしくてたまらない気持ちになる。
彼の何が気になるんだろう。
そんなに引っかかるんだろう。
こんな自分の気持ちに整理がつかないことは初めてだ。
「あーあー」と無意味に声を出して気を紛らわしてキャンバスにむかい直す。
(とりあえず!今は絵!)
湊は絵に逃げ込むように筆を取った。
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