17 / 97
16 晩餐会へ2
しおりを挟む
会場に到着した姫花と花蓮は、意気揚々と受付へと向かった。
二人の格好を見た受付係は、一瞬ギョッとした表情を浮かべる。
格好は季節外れで流行も外しており、しかも何やら……くさい。
とはいえ、招待状は間違いなく本物だ。
この招待状には神気の識別符が組み込まれており、受付の台座に置かれた照合器に招待状と本人の手をかざせば、持ち主と本人が一致するか判別できる。
実はこの仕組み、姫花の元夫・浅井克己が開発したもので、莫大な使用料が入ってくるという。
もちろん、結果は「一致」。
受付としては断る理由がなく、渋々通すほかなかった。
通した後で、念のため上に報告を入れたのだが。
会場に入るやいなや、親子は早々に別行動を取り始める。
「私、あっちに知り合いがいるから話してくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」
花蓮は、見知った同年代の子弟たちの輪を見つけ、その中へと歩み寄る。
そこは、かつて花蓮が〝頂点〟として君臨していた集まりだった。
花蓮の姿を認めた瞬間、楽しげだった輪の空気は一変する。
警戒の色を浮かべる者、不安げに視線を逸らす者、あからさまに嫌そうな顔をする者――。
おかしな格好をしており、何やら不快な臭いもするが、誰もそれを指摘するものはいない。
沈黙を破ったのは、その中で花蓮に次いで家格が高い、由良家の長女だった。
「……まさか、来るとは思わなかったわ」
「正式に招待を受けたのよ。来てもいいでしょ」
「そう。それで、何か用?」
この大規模な晩餐会で、目当ての人物を探し出せるかは分からない。
時間を無駄にしたくなかったし、歓迎されていない空気は最初から感じ取っていた。
「あのね、教えてほしいことがあるの。教えてくれれば、すぐに行くわ」
「……何?」
「末継家の徹様って、どなたかわかる?」
「聞いてどうするの?」
「みんなもう知ってると思うけど、私、もうすぐ辺境へ行くでしょう? だから……昔、お母様が本当にお世話になった方だから、挨拶しておこうと思って」
子どもながらに、これは黙っておいたほうがいいのではと思った。だが正直なところ、花蓮とはもう関わりたくないし、一緒にいるところを見られるのもごめんだった。しばし迷った末、口を開いた。
「この広い会場で末継様がどこにいるかは分からないけれど……あそこにいらっしゃる方なら、確かご親族よ」
「そうなのね。ありがとう」
礼もそこそこに、花蓮は足早に去って行った。
彼女たちも「また見つかると面倒」と思い、その場を離れた。
花蓮は教えられた人物の元へと向かう。
それは、祖父に近い年齢の、神守らしい威厳を備えた男性だった。この方がご親族ならきっと上位の家格に違いないわと思い、談笑している最中であったが、時間がない。花蓮は躊躇なく割り込んだ。
「お話し中、失礼します」
あまりにも礼を欠いた態度に、男性は眉をひそめた。
「どこの家の子どもだ」
「私は、沼安姫花の娘です。少しお聞きしたいことがあって」
「……ああ、例の女の子どもか。親も親なら子も子だな。それで、何が聞きたい」
この無礼な問題児が何を言い出すのか少し興味湧いた。
「末継家の徹様をご存じですか?」
「徹はわしの甥だが、それがどうした?」
やった。それなら、この場で告げてしまおう。
「大叔父様でしたか! わたしは、徹様の実の娘です」
「……何を言っている? お前は水無瀬家当主の弟君の娘ではなかったと誰もが知っているが、父親は判明していないはずだ」
「母の日記で見つけたのです。私を身籠った当時、付き合っていたのは末継家の徹様だと」
この話が仮に事実でも、甥はすでに他家に婿入りしている。
わざわざ問題児の娘を引き取る義理などない。
もし責任があるなら離縁の時点で水無瀬家から話があるはずだが、それもない。
この娘は母と共に辺境へ行くことが決まっている。
これは単独での暴走――おそらく、辺境で商家の娘になるのが嫌で、自分だけでも神守の社会に残りたいのだろう。
「そのような事実はない。お前の妄想だ。仮に事実だとしても、徹が引き取ることはない。失せろ」
「で、でも……せめて、お父様に会わせてください。お願いします」
「無礼者。誰か警邏を呼べ。こやつの母親を探し、ともにつまみ出せ」
「そんな……」
周囲でこのやり取りを見ていたものたちは、さっそく知人にこのやり取りを伝えに散り散りになった。
やがて警邏が現れ、花蓮は腕をつかまれて会場の外へ連れ出された。
しばらく入口で待たされていると、騒がしくなり――
「ちょっと、離しなさいよ! 何の真似よ!」
と怒鳴る声と共に、姫花が連れてこられた。
花蓮の姿を見つけるなり、姫花は険しい顔で言った。
「こんな会、最低だわ。話しかけても誰もまともに応じようともしないし、挙げ句の果てには招待客を追い出すなんて」
怒られるかと思ったが、母は何も知らされていない様子だった。
花蓮は胸をなでおろす。だが、これで自分の望みは完全に潰えたのだ。
二人は会場の外に出され、冷たい夜気にさらされた。
遠くから、まだ会場の音楽や笑い声が聞こえる。
姫花はぶつぶつと愚痴をこぼしながらも、歩き出す。
「せっかくの晩餐会だったのに……あんな仕打ち、覚えておきなさいよ」
花蓮は黙って歩くしかなかった。
頭の中では、末継徹の顔すら知らないまま終わったことへの悔しさと、冷ややかな拒絶の言葉が何度もよみがえっていた。
そして、勝手に会へ出席し、挙句の果てには参加者の怒りを買って警邏に追い出された――その知らせを受けた沼安家の面々は、般若のごとく怒り、物置部屋の外から鍵をかけた。残りの滞在期間にできることなど何もなく、やがて辺境から迎えに来た馬車に乗せられ、二人はそのまま旅立つこととなった。
二人の格好を見た受付係は、一瞬ギョッとした表情を浮かべる。
格好は季節外れで流行も外しており、しかも何やら……くさい。
とはいえ、招待状は間違いなく本物だ。
この招待状には神気の識別符が組み込まれており、受付の台座に置かれた照合器に招待状と本人の手をかざせば、持ち主と本人が一致するか判別できる。
実はこの仕組み、姫花の元夫・浅井克己が開発したもので、莫大な使用料が入ってくるという。
もちろん、結果は「一致」。
受付としては断る理由がなく、渋々通すほかなかった。
通した後で、念のため上に報告を入れたのだが。
会場に入るやいなや、親子は早々に別行動を取り始める。
「私、あっちに知り合いがいるから話してくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」
花蓮は、見知った同年代の子弟たちの輪を見つけ、その中へと歩み寄る。
そこは、かつて花蓮が〝頂点〟として君臨していた集まりだった。
花蓮の姿を認めた瞬間、楽しげだった輪の空気は一変する。
警戒の色を浮かべる者、不安げに視線を逸らす者、あからさまに嫌そうな顔をする者――。
おかしな格好をしており、何やら不快な臭いもするが、誰もそれを指摘するものはいない。
沈黙を破ったのは、その中で花蓮に次いで家格が高い、由良家の長女だった。
「……まさか、来るとは思わなかったわ」
「正式に招待を受けたのよ。来てもいいでしょ」
「そう。それで、何か用?」
この大規模な晩餐会で、目当ての人物を探し出せるかは分からない。
時間を無駄にしたくなかったし、歓迎されていない空気は最初から感じ取っていた。
「あのね、教えてほしいことがあるの。教えてくれれば、すぐに行くわ」
「……何?」
「末継家の徹様って、どなたかわかる?」
「聞いてどうするの?」
「みんなもう知ってると思うけど、私、もうすぐ辺境へ行くでしょう? だから……昔、お母様が本当にお世話になった方だから、挨拶しておこうと思って」
子どもながらに、これは黙っておいたほうがいいのではと思った。だが正直なところ、花蓮とはもう関わりたくないし、一緒にいるところを見られるのもごめんだった。しばし迷った末、口を開いた。
「この広い会場で末継様がどこにいるかは分からないけれど……あそこにいらっしゃる方なら、確かご親族よ」
「そうなのね。ありがとう」
礼もそこそこに、花蓮は足早に去って行った。
彼女たちも「また見つかると面倒」と思い、その場を離れた。
花蓮は教えられた人物の元へと向かう。
それは、祖父に近い年齢の、神守らしい威厳を備えた男性だった。この方がご親族ならきっと上位の家格に違いないわと思い、談笑している最中であったが、時間がない。花蓮は躊躇なく割り込んだ。
「お話し中、失礼します」
あまりにも礼を欠いた態度に、男性は眉をひそめた。
「どこの家の子どもだ」
「私は、沼安姫花の娘です。少しお聞きしたいことがあって」
「……ああ、例の女の子どもか。親も親なら子も子だな。それで、何が聞きたい」
この無礼な問題児が何を言い出すのか少し興味湧いた。
「末継家の徹様をご存じですか?」
「徹はわしの甥だが、それがどうした?」
やった。それなら、この場で告げてしまおう。
「大叔父様でしたか! わたしは、徹様の実の娘です」
「……何を言っている? お前は水無瀬家当主の弟君の娘ではなかったと誰もが知っているが、父親は判明していないはずだ」
「母の日記で見つけたのです。私を身籠った当時、付き合っていたのは末継家の徹様だと」
この話が仮に事実でも、甥はすでに他家に婿入りしている。
わざわざ問題児の娘を引き取る義理などない。
もし責任があるなら離縁の時点で水無瀬家から話があるはずだが、それもない。
この娘は母と共に辺境へ行くことが決まっている。
これは単独での暴走――おそらく、辺境で商家の娘になるのが嫌で、自分だけでも神守の社会に残りたいのだろう。
「そのような事実はない。お前の妄想だ。仮に事実だとしても、徹が引き取ることはない。失せろ」
「で、でも……せめて、お父様に会わせてください。お願いします」
「無礼者。誰か警邏を呼べ。こやつの母親を探し、ともにつまみ出せ」
「そんな……」
周囲でこのやり取りを見ていたものたちは、さっそく知人にこのやり取りを伝えに散り散りになった。
やがて警邏が現れ、花蓮は腕をつかまれて会場の外へ連れ出された。
しばらく入口で待たされていると、騒がしくなり――
「ちょっと、離しなさいよ! 何の真似よ!」
と怒鳴る声と共に、姫花が連れてこられた。
花蓮の姿を見つけるなり、姫花は険しい顔で言った。
「こんな会、最低だわ。話しかけても誰もまともに応じようともしないし、挙げ句の果てには招待客を追い出すなんて」
怒られるかと思ったが、母は何も知らされていない様子だった。
花蓮は胸をなでおろす。だが、これで自分の望みは完全に潰えたのだ。
二人は会場の外に出され、冷たい夜気にさらされた。
遠くから、まだ会場の音楽や笑い声が聞こえる。
姫花はぶつぶつと愚痴をこぼしながらも、歩き出す。
「せっかくの晩餐会だったのに……あんな仕打ち、覚えておきなさいよ」
花蓮は黙って歩くしかなかった。
頭の中では、末継徹の顔すら知らないまま終わったことへの悔しさと、冷ややかな拒絶の言葉が何度もよみがえっていた。
そして、勝手に会へ出席し、挙句の果てには参加者の怒りを買って警邏に追い出された――その知らせを受けた沼安家の面々は、般若のごとく怒り、物置部屋の外から鍵をかけた。残りの滞在期間にできることなど何もなく、やがて辺境から迎えに来た馬車に乗せられ、二人はそのまま旅立つこととなった。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる