聖剣と歩む最果てまで

わさび醤油

文字の大きさ
12 / 17
始まりの一歩目

揺られながらの束の間

しおりを挟む
 いきなりのクリアさんの言葉を受けて、回さなければいけない頭がいまいち活動しきれないのがわかる。

 質問時間。それ自体は喉から手が出るくらいにはほしかった物だが、こんな急に言われても何を聞いて良いかもわからないのだ。
 大体質問とか、何でも聞いても良いとか言っておいてほとんどのことは地雷でしかないなんてざらだ。小学生の時の教師なんて、お気に入りじゃなかった俺が勉強聞いても嫌な顔を隠しきれずに、適当に答えてきた事もあった。

 正直何を聞くかを考える所から、あたまをぐるぐる回転させて馬鹿みたいに悩まなければならないのだからやってられない。

「どうした? なければないで構わんが」

 駄目だ。今は少しでも情報が欲しい。
 情弱が鴨にされるのなんて世の常。この考え方で行くなら、確実に俺が、この世界で一番知識を持っていない最底辺に位置しているであろう。

 どうせ、どこかで聞かなきゃいけないことはごまんとある。ならせめて、他の人よりは信用できるこの人に聞いた方が良いに決まっているか。
 ……まあでもその前に一つだけ、絶対に聞いておきたいことがある。

「あの、どうしてずっと鎧を着てるんですか?」

 ちらちらと相手を伺いながら、勢いのままに気になっていたことをようやく質問できた。
 そう、ずっと気になってはいたのだ。なんせこの人、俺と一緒にいるときはずっとこの格好で一度も素顔を見たことがない。
 男なのか女なのか、若いのか老いているのか。はたまた本当に人間であるかすら、俺は知らないのだ。

「……ああ、これか。別に理由はないぞ。強いて言えば、あまり顔を出したくないだけだ」

 腕を組みながら、特に悩むことなくあっさりと答えるクリアさん。
 とりあえずと質問してみたが、これ聞いていいのかと若干心配だったので答えてくれて本当に助かった。

「それで、他にはないのか? どうせ着くのは夕方だ。聞きたいことは、すべて聞いておくべきだと思うが?」

 どうやら時間はたくさんあるらしい。ならいっそ、今ある疑問すべてに包み隠さず答えてもらおうではないか。
 ポケットに入れていた日本から持ってきていた数少ない所持品であるメモ帳とシャーペンを取り出す。今度は仲介所ギルダの時みたいに聞き流すのはNGだ。

「じゃ、じゃあまずは仲介所ギルダに向かった理由についてです」
「ほう?」
「登録だけで依頼を受けないのなら、別に急ぐ必要は無いと思うんです。予定が詰まっているなら、優先すべきことではなかったはずですが」

 クリアさんは俺がこの世界に生きる上で警戒が足りていないことを身をもって体験させるために連れてきたと先程は言っていた。
 けどそれは、俺がどうなろうとも構わないと言っている人の行動ではないと思えた。そもそも、俺が生きていれば王からの依頼は達成されるらしいのだから、鍛えずとも一応は問題無いはずなのだ。

「……確かにそうだ。貴様のお気楽さは度を超えてはいたが、それだけならあそこに行く意味は薄い」
「なら一体?」
「これだ。これを作るためにあそこに赴いたのだ」

 見せてきたのは小さく細い板。仲介所ギルダでもらったプレートである。
 ……これを作るため? これがそんなに大事な物なのだろうか? ……実は高値で売れるとか?

「こいつがあれば、己を証明することができる。どこぞで名を名乗らなくてはならないとき、偽っていないことを証明することが出来るのだ」
「?」
「登録の際、紙に触れるように言われただろう? あの紙は魔道具マギルの一種で、書いたことが嘘ならば紙が襲ってくるようになっているのだ」

 ……紙が、襲ってくる。それはまた、随分と想像しにくい現象だ。

「更に言えばこの証明石ナンブル。自身の以外には反応せず所持者の魔力で輝きを放つことできる。故にこれは、ある種の身分証明に使えるというわけだ」

 自分のプレートを取り出して眺めてみる。相変わらず、このよくわからない模様が、なんて書いてあるのかはわからない。
 一つだけ付いている白色の宝石。魔力があればこれが光るらしいのだが、残念ながら魔力という単語を今日初めて聞いた俺には関係のない話だ。
 
 そもそも魔力って何だろうか。ファンタジーとかで良く聞くあの魔力でいいのだろうか。
 それなら残念ながら、尚更俺には縁はないことだ。そんなのがおるのなら、もっと人生ウハウハだったろう。
 
 ……そういえば、知らない言葉と言えばそろそろ聞いておきたいことがあった。流石に知らないかもしれないがここで聞いておきたいことではある。

「じゃあ次ですけど。言葉は通じるのにどうして字を読めないんですか? そもそもなんでしゃべれるんですかね?」
「……どちらもはっきりとは知らん。それでも良ければ教えるぞ」

 予想していた後ろ向きな答えよりも斜め上な返しに、少しほっとしながら首を縦に振る。

「そうか。では言うが、会話が通じる理由は主に二つとされている。勇者を呼ぶ際に使う召還術式の影響と聖剣の力。この二つが大きく挙げられている」
「聖剣?」
「ああ。過去の召喚事例で、聖剣を呼び出せなかった異世界人とは言葉が通じなかったという例が三百環ほど前にあったらしい。そのことがきっかけで、召喚儀式の際に知識が付加されている訳ではなく、聖剣によって意思疎通が可能になっていると言う説が生まれたのだ」

 ……なるほど。確かに王も、まず言葉が通じるかについて知りたがっていた。
 あれは俺と会話がしたかったのではなく、召喚が失敗してないかの確認の意味合いも強かったっぽいな。

「……ちなみに俺って聖剣持ってるんですか? あるならぱっと出てくると思うんですけど」
「………………あるぞ。ただ、今のお前では呼び出すことは出来ん。それこそ命が潰える瞬間でも無い限りはな」

 ……何だ、今の間は。別に隠さなくても良さそうなのに、なんで言うのを躊躇ったんだ。
 その珍しく釈然としない態度が若干心にとげが残ったが、今は気にすることでもないので話を進めることにする。

「じゃあ字は? その理屈なら読めるはずですよね?」
「そこは知らん。聖剣が作られた時代と今では言語体系が異なる故、その聖剣ではアールスデントの言葉は読み取れないと言っている者もいるが、結局の所、憶測に過ぎん」

 あれか。現代語辞典を頭にぶち込んでも古典の知識は零……みたいなものだろうか。で、現地の言葉的な知らない単語については、インストールした辞書には載ってない的な感じか。
 ……やっぱり勉強しなければだめかぁ。会話できるだけでもありがたいのだが、どうせならそこまで対応してくれていると嬉しかったんだが、そう上手く行くはずもない、か。

 それにしても、何か一つを聞いたとき、解説のために更に知らない言葉が出てくるのが本当に辛い。
 環ってなんだ。話の流れ的に年的な何かだろうか。……聞いてみようか。あー、辛い。

「……環って何ですか?」
「……そうか、世界が違えばそこも違うのだったな。まず──」

 そうして始まった二人だけの質問会。僅かな揺れと共に話は進んだのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...