人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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〜異世界に慣れるまで〜

 家に着いた!

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「主様!起きて下さい主様!主様!!」

 ノワールが懸命に体を揺すって声をかけている。まさか自分の主が気絶するとは思いもよらなかったのだ。必死に揺すり続けていると、セーレが目を覚ました。彼は心底ほっとしながら声をかけた。

「主様、お気づきですか?突き落としてしまい、誠に申し訳ございません…」

 あまりにもシュンとしながら謝るものだから思わず

「私は大丈夫ですからもう謝らなくていいですよ」

 と言ってしまった。本当は文句を言ってやろうと思ったけれど、どうでもよくなってしまう。 
 
 

 それよりも、今いる場所がとても気になる。私は木に空いた穴に落ちたはずなのに、何故か青空が広がっているのだ。 
それだけではない。なんと辺り一面に桜が咲いている。ソメンヨシノだけではなく、枝垂れ桜まである。私が見慣れている桜と同じで思わず見惚れてしまう。

「主様、こちらの桜はルトラス様からのプレゼントで御座います。アルライトには桜は咲いておりませんが、主様が喜ぶかもしれないと嬉々として準備なさっておいででしたよ。あの木の中を通り抜けた先にはこちらの桜並木が御座いまして枯れることは御座いません。此処を抜けた先が主様のご自宅となっております」

 そうノワールが教えてくれた。これをわざわざルトラス様が…?無理矢理異世界に連れて来られて嫌だったけれど、このプレゼントはとても嬉しい。
 ノワールの案内で桜並木を抜けると、白い木製の扉があった。開けてくださいと言わんばかりにノワールが扉の横に立つ。私はゆっくりと扉を開けた。するとそこに広がっていたのはとても幻想的な場所だった。



 まず出迎えてくれたのは色とりどりの花が咲き乱れる花畑だった。アネモネやガーベラ、薔薇など知っている花も有れば私が見たことのない花もある。こちらの世界の花だろうか?どちらにしても凄く綺麗だった。
 扉から伸びる白いレンガの道を歩いていくと、絵本に出てくる小人が住んでいそうな可愛らしい家があった。白い木でできており、屋根も真っ白だった。丸い窓が気に入ったし、ドアも家と同じ白い木で花が彫刻されておりとても可愛い。いつか自分で家を建てるならこんな家に住んでみたいと思っていた理想の家だ。これもルトラス様が私の好みを調べてわざわざ用意してくれたのだろう。本当にうれしい。 
 その家の横には三日月型の湖がある。キラキラと光っているが、何故光っているのだろう…水面が太陽に反射して光っているのかとも思ったが、それにしては光過ぎているような…それに湖の底から泡がポコポコと浮き上がっている。私が不思議そうな顔をして湖を見つめていたからだろう。ノワールが湖について説明してくれた。

「主様、こちらの湖は 映しの湖と申します。今私達がおりますこの場所は、現世とは違うルトラス様がお造りになられた空間なのですが、この湖は人間達が生きる世界を映しだすことができるのです。これで見て主様が行きたくなった場所に行ってほしいというルトラス様のお気持ちですよ。
 そして映しだした場所にこの湖から行くことが可能で御座います。方法は、まず行きたいなと思った場所を湖に伝えます。主様が思うだけで湖が勝手にその意思を汲み取りますので難しいことは何も御座いませんよ。湖がその場所を映しだしたら後は飛び込むだけです」

 なるほど流石異世界。ファンタジー極まれりである。もう深く考えるのはやめておこう。いつか使う日が来たらその時に考えよう。私はもう諦めの境地に達してきた。
 
 さて、湖のことが一先ずわかったところで家の中を見よう。どんな家なのかワクワクしてきた。 
 扉を開けると、そこにはリビングがあった。茶色い猫脚の木のテーブルには花をモチーフにした白いレースが掛けられている。椅子は2脚あり、背もたれの部分に扉と同じ花の彫刻が施されていた。
 右側の壁には茶色のソファーセットがあり白い暖炉もあった。ソファーはふかふかしていて座りこごちが良さそうだ。
 左側にはキッチンがありこれまた可愛かった。全体的に白い木で作られており、鳥や草花が彫られている。私の身長に合わせて作られておりとても使いやすそうだった。
 唯…スイッチらしき石はあるが火加減を調節したりするものが見当たらない。どういうことなのだろうと思ったが、ルトラス様からの手紙にはノワールに説明してもらえと書いてあった。私がノワールを見ると心得たとばかりに説明をし始める。

「そちらのキッチンはですね、全て魔力で動きます。主様がスイッチだと思われた物は魔力石でして、魔力を貯めておく石で御座います。このように光っているのは魔力がある証拠ですのでこのままお使い頂けますよ。火加減を調節するときは赤い魔力をお使い下さい。弱火が1回、中火が2回、強火が3回魔力石に触れると調節が可能です。
水を調節なさる時はピンクの魔力石と青の魔力石です。ピンクがお湯、青が水で御座います。こちらも先程の魔力石と調節の仕方と同じです。流した水は自然になくなりますよ。お手洗いとお風呂も同じ調節の仕方となっておりますのでご活用下さい」

思ったよりも使いやすそうで安心した。触れるだけで良いようだし、下水の心配をしなくていいのは便利だ。現在お金がないのでお金の心配をしなくていいのも有り難い。 

次にキッチンの横にある廊下を進むことにする。進んだ先には階段と部屋が2つあって、お風呂とお手洗いだった。
 お風呂は脱衣場とお風呂場に分かれており、脱衣場には洗濯機があった。こちらにもあるのかと驚いていたら、これもこの世界にはないものだがルトラス様が用意してくれたらしい…やはりあそこまでチャラいと乙女心を熟知しているのだろう流石の一言である。
 続いてお風呂場に入っていくと猫脚のバスタブがあり、コスモスの花の形をしたシャワーがあった。シャンプーとリンス、ボディーソープ、洗顔する物まである。
 お手洗いも地球で使っているものと殆ど変わらなかったので安心した。やっぱり自分の知っている物は安心するものだ。

 
 階段を登った先には部屋が左右合わせて4つあった。左側には客間とノワールの部屋が、右側には調合室と私の部屋があるようだ。私の部屋に入ってみると可愛く温かみのある部屋が広がっていた。カントリーテイストとでもいうのだろうか、ベージュの小花柄の壁紙にナチュラルウッド色をした家具がある。ベット、テーブル、ソファー、本棚、ランプ、ドレッサー、クローゼットが置かれていた。 そういえば私の容姿を変えたと言われていたんだった。ちょうどドレッサーがあることだし、見てみることにする。
 鏡を覗き込むとそこに映っていたのは儚げな美少女だった。パール色の艶やかな腰まで届く長い髪、新緑を思わせるくりくりとした大きな緑の瞳、肌は抜けるように白くシミひとつない。睫毛は瞬きすると音が鳴りそうな程に長く濃い。唇は淡いピンク色をしている。本当に儚げな触れれば壊れてしまう飴細工のような少女だった。え?これが私?鏡が壊れているのかと思ったが、私が動くと鏡に映る少女も動いているから私なのだろう。美化し過ぎにも限度があるだろう、明らかにやり過ぎである。思わず頭を抱え込んだが、もう気にしないことにしよう。そうしないと私の精神衛生上まずいことになりかねない。 

次はいよいよお待ちかねの調合室だ。どんなところなんだろうと想像を膨らませながら私は扉に手を伸ばした。
 
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