人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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〜異世界に慣れるまで 2〜

 今日も今日とて教えてもらう

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 翌朝、カーテンから差し込む光で目が覚めた私は羞恥で死にそうになっていた。本当?の姿は薔薇とはいえ男性に髪の手入れをされ、しかも乾かしてもらっている時に眠たくなって頭を撫でられて完全に限界をむかえるとか…私は子供か…本当に恥ずかしい。穴があったら入りたい。穴がないなら掘って埋まりたい。
 しかし、時間はどんどん経っている。早く準備をして、今日こそは魔法薬を調合する方法を教えてもらわなければいけない。私はベットから降りてクローゼットに向かった。開けてみると、見慣れない服ばかりだった。これもルトラス様からのプレゼントだろうか、可愛らしいレースのついた服、落ち着いた雰囲気の服、全体にビーズで刺繍が施されているドレスのような服など種類も豊富だが、ズボンが見当たらない。ワンピースもスカートも、トップスもあるのにズボンだけがないのである。こちらの世界の女性はズボンは履かないのだろうか?ズボンの方が色々と作業しやすいと思うのだけれど…無い物は仕方がないので目についた紺色の胸元に赤いリボンのついたワンピースを着ることにする。
 次にドレッサーに向かって髪を整えることにした。今日は調合を教えてもらう予定なので邪魔にならない髪型がいいだろう。後ろで一つに結ぼう。ドレッサーの引き出しの中には髪飾りも沢山あって至れり尽せりである。洋服の時も思ったが、私好みの物しかない。嬉しさを通り越して恐怖を覚える程に私の好みの物しかないのである。いや嬉しい、嬉しいのは本心だ。まごうことなき私の本心なのだ。だけど、だけど恐怖を感じてしまうのを理解してほしい。というか私は今誰に弁明をしているのだろう…今の私にはドレッサーの引き出しの中身に向き合うことは精神的にできなかったのでそっとしまっておくことにする。
 準備を整えた私は顔を洗いに下に降りる。脱衣所に洗面台があったのでそこで顔を洗い、次に朝ごはんを作りにリビングに向かった。いや違う、正確には向かおうとしたである。脱衣所から出た所で何やら良い匂いがしたのだ。この家には2人しかいない。私が料理をしていないのならしてくれているのは…急いで今度こそリビングに向かう。案の定キッチンに立っていたのはノワールだった。しかも、もう朝ご飯の準備を終えている。昨日のことといい、お世話になり過ぎているだろう私…軽く落ち込んでいる私にノワールが笑顔で声をかけてくる。今朝の彼は人型だった。


「おはようございます、主様。今朝の朝食は丸パンを焼いたものと、畑で収穫したサラダ。オムレツとコーンスープで御座います。どうぞお召し上がり下さい」

 立ち尽くしている私の所までわざわざ歩いてきてエスコートしてくれる。私と歩く時はエスコートするのが彼の通常らしい。椅子も引いてくれている徹底ぶりである。私は椅子に座って目の前に置かれている朝食を見た。テレビで観たレストランのモーニングそのものである。綺麗に盛り付けられており、とても美味しそうだ。
 私は「いただきます」と言って、まず丸パンと呼ばれていたものを口に運んだ。その名の通り丸いパンで、ふわふわとしておりとても美味しかった。サラダはシャキシャキしていて甘く、彩も美しい。コーンスープもとろっとしていて美味しかったし、オムレツはふわふわになっていた。本当に美味しく満足だったが、流石にお世話になり過ぎだろう。

「ノワール、ご馳走様でした。とても美味しかったです。ですが…流石にお世話になり過ぎているのでせめて食事は私に作らせて頂けませんか…?こんなに美味しいのは無理かもしれないけれど、精一杯頑張りますから」

 まずは食事を私に作らせてもらえるように交渉をしてみた。地球でも料理はしていたし、全くできないわけではないから作れるはずである。なのにノワールは申し訳なさそうに首を横に振る。

「主様のお願いでもそれは了承したしかねます…主様のお食事を作ることは既に私の楽しみになっておりまして、今後とも続けていきたいのです。それはそうと主様、サラダに使った野菜が実っている畑気になりませんか?野菜だけではなく、魔法薬の材料の栽培もしております。主様はスキルもお持ちですし、見に行かれませんか?」

…話をすり替えてきた。確かに畑は気になるが、それよりも食事のことである。たった一食作っただけで楽しみになってしまったのか…彼は相当な世話好きなのかもしれない。ここは踏ん張りどころだろう。ここで負けてしまえば私はノワールに頼り切りになってしまう。頑張れ私。負けるな私。よし鼓舞はできた。さぁ戦いだ。

「ノワール話をすり替えないで下さい。確かに畑は気になりますが、ノワール1人に作られせ続けるのは私が嫌なんです。なので一食ごとの交代制にしませんか?そちらの方が私の気が楽なんです。どうかよろしくお願いします」

 交代制を提案してみたがどうだろう?本当は食事は全て私が作りたいのけれど、きっとノワールは納得しないだろう。彼の楽しみを奪いたいわけではない。まだ2日間の付き合いだが、私はノワールが大切なのだ。重度の人見知りの私がこんなに緊張もせずに話せるのはきっとノワールが知らないうちに私のペースに合わせてくれたからだろう。だからこそ彼の楽しみを尊重したい。暫く悩んでいた様子だったが、渋々だけれど頷いてくれた。

「かしこまりました。では、本日の昼食はお願い致します。では畑にご案内致しますね此方へどうぞ」


 座っていた私に近寄って手を差し伸べてくれる。私はその手をとって立ち上がった。そういえば使っていた食器がない。いつ洗ってくれたんだろう。

「あの、ノワール。使っていた食器はいつ洗ってくれたんですか…?」

「あぁ、食器でしたら魔法で洗浄させて頂きました。水の初級魔法で クリーン と呼ばれる魔法です。また今度お教え致しますね」

 そう言って手を歩いていく。教えてもらうことが山のようにあるが、まずは畑に連れて行ってもらおう。どんなところか見ておきたい。玄関へ行き、外へ出ると桜並木のある場所に繋がる扉とは正反対の場所へ向かう。そこには私の腰ほどの高さの柵があった。柵を越えると待っていたのは畑だった。地球でもよく見にする畑そのものだ。植っているのはトマトやレタス、キュウリ、大根など見慣れた野菜が多く、数は少ないが、林檎やオレンジ、レモンといった果物も実っていた。
 畑で止まるのかと思いきや、ノワールはまだ進んでいく。大人しく着いていくとそこにあったのは温室だった。全ての面にガラスのような物がはめられており太陽に反射してキラキラと輝いている。

「先程通って参りました畑には野菜や果物が実りますよ。季節関係なく育ちます。種はルトラス様が気まぐれに送るとおっしゃっておりました。主様がお持ちの[栽培]スキルで通常よりも早く育ちます。水やりは魔法で行い魔法の練習をしましょうね。
 こちらの温室は魔法薬の材料のみが栽培できます。体力回復薬を作るのに必要なキュア草など、あの本に載っている植物は全て御座いますので少しつづ覚えていきましょう。こちらの植物の管理は主様のみが行えます。私は主様の許可があってからしか摘むことも水を撒くこともできませんのでご了承下さいませ」

 なるほど、完璧に分けてあるのか。その方が野菜と間違えて、魔法薬の材料摘んでしまったりする事故が起きないし安全だと思う。ノワールでは温室の管理ができないのも安全面なのだろうか

 
 
 温室の扉は重たいガラスで出来ていた。鍵が二重構造になっており、とてもしっかりしている。中に入っていると色々な植物が青々と茂っていた。蓬のような見た目をしているもの、たんぽぽによく似ているもの、毒々しい赤紫色の葉っぱをもったトゲトゲの植物まで様々な種類がある。その中で唯一見たことのある植物があった。昨日、調合室で見たキュア草だ。蓬によく似ている。それを見ているとノワールが後ろから声をかけてきた。

「主様、お察しの通りそちらはキュア草で御座います。1度見ただけで覚えられたのですね。本当に素晴らしいです!」

 満面の笑顔で褒めてくれた。弟妹達の影に隠れて忘れられがちだったのでここまで褒められたことがあまりなく、とても恥ずかしい。恥ずかしくて俯いているとノワールが笑っていた。ちょっと不機嫌になる私。すると、ノワールは機嫌をとるかのように話しかけてくる。

「主様、大変失礼致しました。ではお待ちかねの調合についてご説明させて頂きますね。調合室に参りましょう」

 私は直ぐに顔を上げた。現金な奴だと思われようが構わない。私は何度も大きく頷いた。自然と顔が綻ぶ。待ちきれなくてノワールの手を引いた。自分からノワールに触れたのは初めてだった。後ろを振り返ると微笑ましそうにこちらを見ている。普段ならこんなことできないが、今の私には些細なことに思える。


 さぁ!待ちに待った調合だ!!
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