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人との出会い
人見知りには拷問なので回避します…
しおりを挟む引き取ってくれる人など現れるはずもなく、私は謎の彼を家に連れて帰ってきた。客間に寝かせてどうするか話し合う。
「どうしよう?目が覚めないままあの森に置いとくわけにもいかなかったから連れて帰ってきちゃったけど…」
「俺は別に置いてきてもいいと思うが…主が気にするのなら仕方ないな。だが主?主は人見知りだろう?こいつが目覚めたらどうするんだ?」
「どうするって…」
「ディアルマの言う通りです。彼が目覚めたら話をしなければなりません。失礼ながら、主様に見知らぬ人と説明するほどの長時間話せるとは思えないのですが…」
……ぐうの音もでない。確かに無理だろう。今こうして近くにいても平気なのは、ひとえに相手の意識がないからだ。こうして連れてきてしまった以上、相手は説明を求めるだろう。当たり前だ見覚えのない場所で目覚めて、しかも気絶する前は戦闘していて崖の上から落ちたのだから。
でも本当に無理だ無理。映しの湖で町を見ていた時に人の姿を一緒にみていたとはいえ知らない人と話すのは実に1年ぶりだ。重度の人見知りでなおかつブランクのある私にとって、それは試練ではなく気持ち的には拷問に近い。大袈裟だって?いやいや大袈裟ではない。お忘れかもしれないが、私のあだ名は失神姫だったのだ。そんなやつにいきなり知らない人にわかりやすく説明しろなどできるはずがない。無言で首をブンブン横に振る私にノワール達が提案してくれる。
「では主様、彼が目覚めた時に何か口にできるようスープを作ってきて頂けますか?彼に説明する役割は私達が担いましょう」
「そうだな。説明が終わったら俺が呼びに行こう。もし呼びに行くまでにスープを作り終えたらそのままリビングで待ってほしい」
…本当に優しい。こんなへっぽこで対人関係ポンコツな私にこんなに気遣ってくれるなんて…!
「2人とも有難う! 是非そうさせて頂きます!何かあったら呼んでね?」
「かしこまりました主様」
「あぁわかった。こいつのことは俺たちに任せておけ」
「うん!彼のことお願いね。じゃあ私は作ってくるね」
部屋を出てキッチンへ向かう。優しい2人だからきっと彼も大丈夫だろう。彼を気遣ってくれるはずだ。私は安心してスープ作りを始めた。
ーーーーノワールside
主様の足音が完全に聞こえなくなってから私は口を開いた。
「さてディアルマ、この男どうする?」
「どうするか。まぁ厄介なのは間違いないな」
「全くだ。本当に人間というのは…」
思わず溜息がでる。この溜息は間違っても主様に対してではない。まずこの森にたった一人でくるところから間違いが始まっているというのに、戦闘で負け主様の手を煩わせるなど許せるものではない。人間というのは弱く脆弱なくせに欲だけは一人前だ。主様には伝えてないが、私達神の眷属は人の心など容易く読める。それに私達にしか使えない 高度解析 という魔法もある。それらをつかえばこの男のある程度の事情はわかる。
「王が呪いに蝕まれ、それを解呪する為の材料を探しに来たんだな」
「あぁそのようだ」
こいつは帝国の第二王子だ。自国の王、つまり己の父親が呪いに蝕まれた。その呪いはかなり強力なようで並みの薬では解呪できなかったらしい。敵に気づかれぬようにするためにあまり人員を割けず腕に覚えのあるこいつが来たようだが…
「たかだか人間のSランク冒険者一人だぞ?この森の魔物はそこいらの魔物とはわけが違う。Sランクなんてこの森では最低条件にしかならないだろう」
ディアルマの言う通りだ。Sランクだろうと一人では何の意味もない。せめてSランクが5人はいなければ話にならない。
「要するにこの森をなめすぎた結果だな」
「まぁその通りなんだが…ノワールもう少し興味をもて。せっかく主が俺たちを優しいと思って下さっているんだ。こいつへの対応も少し考えなければ…だろう?」
そう言ってディアルマが流し目をしてくる。
主様は私達のことを優しいと思って下さるが、それは間違いだ。私もディアルマも主様が大切だから優しいのであって、こいつのことなどどうでもいい。どうでもいいが、雑な対応をして主様に嫌われるのは避けたい。どうしたものかと頭を悩ませていたら起きたようだ。
「ここは…?」
うわ言のように呟いている。面倒だが答えなければ。
「起きたのか。ここは私達の主様の家だ。傷も主様が治された」
そういうと奴は身を起こしてこちらを見る。何やら驚いているようだが、こいつの心など今はどうでもいいので読まないことにする。
「何があったか覚えているか?」
ディアルマが聞くと奴が考えながら口を開いた。
「真っ赤な毛並みの魔物に襲われて…崖から落ちた。誰かいたような気がします。助けて下さり有難う御座います。貴女方の主様にも御礼を申し上げたいのですが…」
「主はそのうち戻って来られる。今でなくともいいだろう? アキュリスタ帝国第二王子
レンルナード・ヴェア・アキュリスタ」
ディアルマの言い放った名前に奴は驚いたようだ。それはそうだ。名乗ってもいない相手からフルネームで呼ばれ、しかも動物が喋っているのだから。
「っ! 何故俺の名前を…それに動物が喋って…」
「お前に質問する権利はない。いいか?もしも主様を傷つければお前の国ごと跡形もなく消してやる」
「安心しろ 国ごとなくなるんだ。呪いをかけた首謀者も死ぬぞ?まぁ他の民も死ぬが。そうなりたくなければ主を傷つけるな。無駄なことも一切喋るなよ?」
ディアルマと脅した。魔力を放出してかなり威圧しておいたからか奴の顔色は悪い。納得はしていないようだが別に構わない。必要最低限のことは説明したし、早く此処から出て行ってもらおう。
「ディアルマ、主様をお呼びしてきてくれ」
「あぁわかった」
ディアルマは部屋からでて主様を呼びに行く。私は主様の居心地が少しでも良くなるように、椅子を置いたりして待つ。
奴が胡乱な目をしてこちらを目ているが、全く気にならない。
唯、主様が来られるのだけを待っていた。
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