人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

文字の大きさ
18 / 99
人との出会い

 人見知りには拷問なので回避します…

しおりを挟む

 引き取ってくれる人など現れるはずもなく、私は謎の彼を家に連れて帰ってきた。客間に寝かせてどうするか話し合う。

「どうしよう?目が覚めないままあの森に置いとくわけにもいかなかったから連れて帰ってきちゃったけど…」

「俺は別に置いてきてもいいと思うが…主が気にするのなら仕方ないな。だが主?主は人見知りだろう?こいつが目覚めたらどうするんだ?」

「どうするって…」

「ディアルマの言う通りです。彼が目覚めたら話をしなければなりません。失礼ながら、主様に見知らぬ人と説明するほどの長時間話せるとは思えないのですが…」

……ぐうの音もでない。確かに無理だろう。今こうして近くにいても平気なのは、ひとえに相手の意識がないからだ。こうして連れてきてしまった以上、相手は説明を求めるだろう。当たり前だ見覚えのない場所で目覚めて、しかも気絶する前は戦闘していて崖の上から落ちたのだから。
 でも本当に無理だ無理。映しの湖で町を見ていた時に人の姿を一緒にみていたとはいえ知らない人と話すのは実に1年ぶりだ。重度の人見知りでなおかつブランクのある私にとって、それは試練ではなく気持ち的には拷問に近い。大袈裟だって?いやいや大袈裟ではない。お忘れかもしれないが、私のあだ名は失神姫だったのだ。そんなやつにいきなり知らない人にわかりやすく説明しろなどできるはずがない。無言で首をブンブン横に振る私にノワール達が提案してくれる。

「では主様、彼が目覚めた時に何か口にできるようスープを作ってきて頂けますか?彼に説明する役割は私達が担いましょう」

「そうだな。説明が終わったら俺が呼びに行こう。もし呼びに行くまでにスープを作り終えたらそのままリビングで待ってほしい」

…本当に優しい。こんなへっぽこで対人関係ポンコツな私にこんなに気遣ってくれるなんて…!

「2人とも有難う! 是非そうさせて頂きます!何かあったら呼んでね?」

「かしこまりました主様」

「あぁわかった。こいつのことは俺たちに任せておけ」

「うん!彼のことお願いね。じゃあ私は作ってくるね」

 部屋を出てキッチンへ向かう。優しい2人だからきっと彼も大丈夫だろう。彼を気遣ってくれるはずだ。私は安心してスープ作りを始めた。







ーーーーノワールside

 主様の足音が完全に聞こえなくなってから私は口を開いた。

「さてディアルマ、この男どうする?」

「どうするか。まぁ厄介なのは間違いないな」

「全くだ。本当に人間というのは…」

 思わず溜息がでる。この溜息は間違っても主様に対してではない。まずこの森にたった一人でくるところから間違いが始まっているというのに、戦闘で負け主様の手を煩わせるなど許せるものではない。人間というのは弱く脆弱なくせに欲だけは一人前だ。主様には伝えてないが、私達神の眷属は人の心など容易く読める。それに私達にしか使えない 高度解析 という魔法もある。それらをつかえばこの男のある程度の事情はわかる。

「王が呪いに蝕まれ、それを解呪する為の材料を探しに来たんだな」

「あぁそのようだ」

 こいつは帝国の第二王子だ。自国の王、つまり己の父親が呪いに蝕まれた。その呪いはかなり強力なようで並みの薬では解呪できなかったらしい。敵に気づかれぬようにするためにあまり人員を割けず腕に覚えのあるこいつが来たようだが…

「たかだか人間のSランク冒険者一人だぞ?この森の魔物はそこいらの魔物とはわけが違う。Sランクなんてこの森では最低条件にしかならないだろう」

 ディアルマの言う通りだ。Sランクだろうと一人では何の意味もない。せめてSランクが5人はいなければ話にならない。

「要するにこの森をなめすぎた結果だな」

「まぁその通りなんだが…ノワールもう少し興味をもて。せっかく主が俺たちを優しいと思って下さっているんだ。こいつへの対応も少し考えなければ…だろう?」

 そう言ってディアルマが流し目をしてくる。
主様は私達のことを優しいと思って下さるが、それは間違いだ。私もディアルマも主様が大切だから優しいのであって、こいつのことなどどうでもいい。どうでもいいが、雑な対応をして主様に嫌われるのは避けたい。どうしたものかと頭を悩ませていたら起きたようだ。

「ここは…?」

 うわ言のように呟いている。面倒だが答えなければ。

「起きたのか。ここは私達の主様の家だ。傷も主様が治された」

 そういうと奴は身を起こしてこちらを見る。何やら驚いているようだが、こいつの心など今はどうでもいいので読まないことにする。

「何があったか覚えているか?」

 ディアルマが聞くと奴が考えながら口を開いた。

「真っ赤な毛並みの魔物に襲われて…崖から落ちた。誰かいたような気がします。助けて下さり有難う御座います。貴女方の主様にも御礼を申し上げたいのですが…」

「主はそのうち戻って来られる。今でなくともいいだろう? アキュリスタ帝国第二王子 
レンルナード・ヴェア・アキュリスタ」

 ディアルマの言い放った名前に奴は驚いたようだ。それはそうだ。名乗ってもいない相手からフルネームで呼ばれ、しかも動物が喋っているのだから。

「っ! 何故俺の名前を…それに動物が喋って…」

「お前に質問する権利はない。いいか?もしも主様を傷つければお前の国ごと跡形もなく消してやる」

「安心しろ 国ごとなくなるんだ。呪いをかけた首謀者も死ぬぞ?まぁ他の民も死ぬが。そうなりたくなければ主を傷つけるな。無駄なことも一切喋るなよ?」

 ディアルマと脅した。魔力を放出してかなり威圧しておいたからか奴の顔色は悪い。納得はしていないようだが別に構わない。必要最低限のことは説明したし、早く此処から出て行ってもらおう。

「ディアルマ、主様をお呼びしてきてくれ」

「あぁわかった」

 ディアルマは部屋からでて主様を呼びに行く。私は主様の居心地が少しでも良くなるように、椅子を置いたりして待つ。
 奴が胡乱な目をしてこちらを目ているが、全く気にならない。
 
 唯、主様が来られるのだけを待っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...