人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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人との出会い

 帝国では…

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 湖に飛び込めと言われ意を決して飛び込んだら、見慣れた帝国の父上の部屋にいた。いきなり俺が現れたからだろう。皆目を見開き驚いて固まっている。

「まさか本当に戻ってこれるとはな…」

 俺は思わず呟いた。その呟きで硬直状態が解けたのか兄上と母上、ルシェ、宰相が駆け寄ってくる。

「レン…!無事だったのか…!お前を一人で行かせてしまい本当にすまなかった…怪我はないかい?」

 真っ先に駆け寄ってきたのは兄上だ。
レオナルド・フォン・アキュリスタ。アキュリスタ帝国の皇太子であり俺と同じ銀色の髪、瞳の色は紅玉のような赤色をしている。

「あぁ兄上、怪我はない。……後で話がある」

 最初は皆に聞こえるように、後半は兄上にしか聞こえないように言う。アイコンタクトで了承の意を示してくれたのでひとまず安心できるだろう。

「あぁレン…ヴァンの為に本当に有難う…!大変だったでしょう?」

 そう言って涙を流しながら抱きしめてきたのは母上である レミレア・ルル・アキュリスタ。銀色の髪に深い青の目の皇妃。ヴァンとは俺の父上の愛称だ。美しい人なのだが…隈ができていたり少し窶れてしまっている。

「確かに大変ではあったが、こうして月夜の花を手に入れることができた。それより母上、大丈夫か?あまり寝れていないのでは…?」

「心配してくれて有難う。私は大丈夫です。こうして、レンも怪我なく無事に帰ってきてくれました。これほど嬉しいことはありませんよ」

 微笑んで俺の頬を撫でる。抵抗もせず撫でられるがままになっている俺の足に妹が抱きついてきた。

「レンお兄様おかえりなさい!これでお父様は助かるのね!」
 
 そう言って輝くように笑う俺の妹。
ルシェリーヌ・ラル・アキュリスタ。たった一人の皇女で燃えるような赤い髪に、明るい青い瞳をもつ可愛い妹だ。ルシェの頭を撫でながら伝える。

「ただいまルシェ。あぁそうだ。これでお父様は助かるぞ」

 伝えると安心したのだろう、泣き出してしまう。慌てて抱き上げるも涙は止まらない。いつもならこうしたら泣き止むというのに…

「ルシェリーヌ様、レンルナード様を困らせてはなりませんよ?泣き止んで下さい」

 次に声をかけてきたのは宰相カエサル・トルザード。真っ直ぐなこげ茶の髪を背中まで伸ばし、黄緑色の瞳にモノクルをかけている。

「レンルナード様、無事のご帰還心よりお喜び申し上げます。そちらの瓶の中にあるのが月夜の花でしょうか?」

「あぁ礼を言うカエサル。その通りこれが月夜の花だ。すぐに薬を作らねば」

「そうですね すぐに取り掛かりましょう。薬師長を呼んで参ります」

 足早に部屋を出て行く。カエサルは父上の幼馴染みで今回の呪いの件、ひどく後悔していた。自分がもう少し早く気づけたらと。侍女や執事任せにせず、自分から呼びに行くとは…親友を助けることができそうなのが余程嬉しいらしい。
 



 薬師の件はカエサルに任せ、寝台に伏せる父の元に行く。意識は既になく、顔色も悪い。力は入っていないがまだ温かい手をとった。

「父上、レンルナードただいま戻りました。もう大丈夫だ。必ず呪いは解ける。また父上の元気な顔を見せてくれ…」

 普段ならこんなこと死んでも言わない。言わないが今だけは言いたくなった。だいぶ窶れた父。見事な赤い髪だったのに、かなり傷んでいる。目は力に満ち溢れた赤だったが、今は力なく閉じられている。そのどれもが父の命が危ないことを突き付けてくる。余程俺が悲痛な顔をしていたのだろう、兄上と母上は俺を撫で、ルシェは抱きついてくる。そうして寄り添っていると、ドタバタと足音が聞こえてくる。皆で扉の方を向くとバンッ!と音を立てて扉が開いた。




「お待たせ致しました。薬師長を連れて参りました」

「お、お待たせ…致しまして…誠に申し訳…ございません…」

 カエサルは涼しげな顔をしているが、ザルトの方は息も絶え絶えだ…ザルトは宮廷薬師長だがもう年だ。ザルトの方が倒れそうだな…

「ザルト来てくれて有難う。レンが月夜の花を手に入れてくれた。これで作れそうかい?」

 兄上が瓶を渡す。するとザルトが目の色を変えた。

「はい。これだけ上質なものなら確実にお作りできます。急いで作らせて頂きます。今から1時間程で作ってみせます」

 そう言うや否や部屋を飛び出して行った。凄まじい勢いだ。
 とにかくあの様子なら任せても大丈夫だろう。兄上に話さねばならないことがある。

「母上、俺は兄上と少し話をしてくる。1時間後までには戻ってくる」

「わかったわ。ヴァンのことは心配しないで。私とルシェとカエサルがいるわ」

 手を振る母上に会釈をし、兄上を伴って自室に向かう。俺の部屋に着くとすぐに結界を張った。それを待っていた兄上はソファーに座り、俺に話を促す。



「それで、話ってなんだい?」

「実は…死の森で人に会った、その人から月夜の花を譲ってもらったんだ」

「なに?死の森で人に?あそこは人が生きられるような場所じゃないはずだけど…」

 兄上が驚くのも無理はない。あそこに生息している魔物はとんでもなく強い。同じ個体でも、あの森を生息地としているかいないかだけで強さが異なるのだ。それに加え魔素がかなり濃い。並の人間ではすぐ魔素にやられてしまう。そんな森を散歩するなどどう考えてもおかしい。

「俺が魔物にやられて崖から落ちた所を助けられたんだ。あの森に住んでいるのではなく、よく散歩する場所らしい」

「魔物にやられた!?大丈夫だったの??」

「あぁ その人に助けてもらったからな」

「そうなのかい…本当に良かった…!ところであの森を散歩?どんな人なの?」
 
 兄上の目が好奇心でキラキラしている。まぁ兄上らしいが…

「真珠色の髪に新緑のような緑色の瞳をもつ儚げな美しい女性だった。セーレ・ホルピスと名乗っていた」

 そう本当に美しかった。思わず見惚れた。真珠色の髪は光を浴びて様々な色に輝き、新緑の瞳は吸い込まれそうな程の透明感。色は太陽に当たったことがないのではと思わせるほど白い。人が苦手だからかおどおどしており、華奢な体と相まって庇護欲を唆るような女性だった。彼女を思い出していると兄上がくすりと笑った。

「ふふふ レンはその女性のことが気になるの?」

「なっ……そんなんじゃない!唯あんなところで出会ったからだ!」

「そうかな?レンのそんな顔見たことないよ?」
 
 確実に揶揄われている…

「第一、彼女とはまた会えるかどうかもわからないと言われたんだぞ?だからそんな揶揄ったって無駄だ」

「へぇ~会いたいとは言ったんだ?」

…しまった墓穴を掘った…思わず頭を抱えると兄上が揶揄うのをやめてくれた。

「もう一つ聞きたいんだけど、なんで急に父上の部屋に来れたの?帰ってきたなんて報告来てなかったよ?」

「それは彼女の家の近くにあった湖から来たからだ。映しの湖というらしく、湖面に父上の部屋が映ったかと思えば飛び込めと言われ、飛び込んだら父上の部屋だった」

「なにそれ…そんなものがあるの?それに覗かれているのか…」

 確かに危惧すべき事態だ。いつでも覗けるということは国の国家機密も見放題ということ。国としては許せるものではない。だが…

「彼女は父上を救うためにしてくれたと思うんだ。だから…」

 言い淀んでしまう。兄上の方が正しい、それがわかっているからこそ言葉にできない。
 俺の気持ちなど兄上には手にとるように分かるのだろう。安心させるように微笑んでくれる。

「罪に問うつもりはない。だから大丈夫だよレン。今回は王を救ってもらったんだ、恩人を罪に問うことはない。 
 それにしても…本当に大切なんだね?セーレさんは?」

「それは…」

 顔が熱くなる。きっと赤くなっているだろう。兄上がニヤニヤしている。兄上に誤魔化しはきかないだろうし、白状するか…

「確かに俺は会いたいと思っている。が…大切かどうかはわからない。もう直ぐ1時間だ。早く戻ろう」

 逃げるように立つ。兄上も頷きながら立ち上がるがまだ顔はにやけている。これは暫く揶揄われるだろうな…




 部屋に戻ると父上に薬を飲ませるところだった。ザルトが飲ませるのを固唾を飲んで見守る。父上の喉が動き薬を飲み込んだ瞬間、光が満ちる。治癒魔法をかけた時のような柔らかな光。
 暫く待っていると父上が目を覚ました。駆け寄って父上の顔を見る。窶れてはいたが目に光が宿っている。良かった…父上が生きているということをやっと実感できた。

「ヴァン…!良かった本当に良かった…!苦しいところはない…?」

 母上が泣きながら駆け寄っていく。普段気丈な人だから泣き顔なんて見たことがなかった。父上はまだ目覚めたばかりでぼーっとしているが、無事目覚めてくれた。兄上もルシェもカエサルも皆泣いていたり涙目だ。



 セーレ、お前のおかげで父上が目覚めた。やっと、家族に笑顔が戻りそうだ。本当に有難う。また会えるかと聞いた時困っていたな。もう会う気はないのかもしれないが、俺は会いたい。会ってどうするのかもわからない、そもそも彼女が何処に住んでいるのかも知らない。会える可能性は低いだろう。



 だが絶対に見つけてみせる。また会おう。

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