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皇都騒動
何もできません…
しおりを挟む「治せない…?」
レンルナードさんがポツリと呟いた。信じたくないというように。
「はい。申し訳ありませんが…私には治すことができません」
しっかりと目を見て伝えた。いつもなら、親しくない人と目を見て話すなんて絶対に避けたい。でも、今回はそんなこと言っていられない。きちんと目を見て伝えたかった。
「何故ですか…?貴方様は以前、酷い怪我を負っていたレンルナード様を治すことが出来たと聞いております。なのに何故!?」
フォルさんに詰め寄られる。余りの勢いに思わず身を竦ませてしまったが、すぐにバロンさんが抑えてくれた。
「フォル!落ち着け、気持ちは分かる。だが落ち着くんだ。セーレ殿、怖がらせてしまって本当に申し訳ない。セーレ殿が治すことは無理だと仰る根拠について、聞かせて頂けないだろうか?」
「はい。まず、魔法薬も万能ではない。それを踏まえた上で私の話を聞いて頂きたいのです」
私がそう言うとバロンさんは頷いてくれる。呆然としていたレンルナードさんも、復活して頷いて話を聞こうとしてくれているし、フォルさんも我に返って真剣にこちらを見ている。
言葉に詰まったりしないようにしなくては…しっかり伝える為に頑張らないと。
「レンルナード様のお怪我を治すことが出来たのは、外傷だったからです。魔法薬は大抵の呪い、毒、外傷は治すことが出来ます。ですが、体の内側を蝕んでいく病には効かないのです。呪いも、治せないものもあります。
今回の皇女様の人形化はその治せない部類のもののようです。王様に使われた解呪薬は効果はなかったんですよね?」
「あぁ…薬師長ですら治せなかったんだ。魔法でなら治せるのかと色々と試したが…どれも結果は思わしくはなかった。だから魔法薬に賭けたんだ。だが…それも無理となると…」
レンルナードさんがとても苦しそうに言う。あぁ、本当に最後の賭けだったんだ。だからこそ、こんな場所まで来て素性の知れない私に頼んだ。でも私には治せない。ならこんな場所に長居してもらうべきじゃない。早く帰って皇女様を治す手段を探すなりした方がいいだろう。
「お役に立てなくてすみません…あの、もう帰られた方がいいと思います。私には治すことができませんし…ノワール、送って行って差し上げて?」
私が頼むと、ノワールは不本意そうな顔をしながら かしこまりました と言った。申し訳ないが、一刻も早く帰った方がいいだろう。人形化については知らないが、時間が経つ程まずい気がする。仮にもし、呪いだったのなら時間が経つ程解けにくくなったり、解けなくなったりするのだ。だから早く。これが私に出来る精一杯のお手伝いだ。
「待ってくれ!流石にそこまでしてもらうわけには…」
「私でしたら一瞬で送り届けて差し上げますよ?転移魔法を使えばすぐですから」
「転移魔法ですか!?あの使える者が世界にも数人程度しかいないと言われるあの!?」
いきなりフォルさんのテンションが上がった。そ、そんなに珍しいのか…ノワール達は気軽につかっているから知らなかった。レンルナードさんが咳払いをしたからか慌てて取り繕った。どうやら魔法のことになるとテンションが上がるらしい。
「あの…ノワールに送ってもらって下さい。その方が早く帰れますから」
ノワールを見ると心得たとばかりに頷いて魔法を発動させる準備をし始めた。と言ってもすぐに終わってしまうのだが。
ノワールの発動させた魔法によってできた光に、三人が包まれていく。もうすぐで転移できるというところでレンルナードさんに声をかけられた。
「セーレさん!いや…セーレ!気にしなくてもいい、治せなかったのはセーレの責任じゃない。元はと言えば自国のことを満足に解決できないこちらが悪いんだ。だから気にする必要はない。また会おう!」
そう言ってレンルナードさんは転移して行った。残ったのは私とディアルマだけだ。暫くぼーっとしているとディアルマが私の手に擦り寄ってきた。
「主、帰ろう。帰ってノワールを待とう。疲れただろう?紅茶でも飲んでゆっくりしよう」
そうディアルマは気遣ってくれる。此処にいてもしょうがないのだが、何故か足が動かない。
そんな私を見かねてディアルマが魔法を発動させた。転移魔法だ、家へと連れ帰ってくれるのだろう。
その間、私の心はずっと無力感で締め付けられていた。
ーーーーレンルナードside
ノワールの転移魔法によって国に帰ってきた。出て行く時は必ず治す方法を持ち帰ってみせると意気込んでいたのに…たった一人の大切な妹を治すことすらできないでいる自分に腹が立つ。二人も同じ気持ちなのだろう。その顔色は浮かない。
「おい」
ノワールに声をかけられた。なんだとノワールの方を見遣る。
「お前の曽祖父の墓を暴け」
「は?何言って…」
「話はそれだけだ」
言いたいことだけ言ってノワールは消えた。曽祖父の墓を暴けだと…?
「バロン、フォル。一度皇宮に帰り、その後墓を暴く」
「「御意」」
何故そんなことを言ったのかは分からない。分からないが、やるしかない。
ルシェを家族を助ける為なら多少の無茶は押し通してやる。
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