42 / 99
皇都騒動
そんなことまでしちゃいますか…?
しおりを挟む「何だと!?全て無くなっていたのか!?生前愛用していた物の中には金属製の物も入っていたはずだ。それすらもなかったというのか?」
「あぁ。遺体も供養の品も全てだ」
父上は考え込んでいる。金属製の物は解けたり、欠けたりしない限りはあるはずなのだ。錆びてボロボロになっていたりは有り得るだろうが。
「レン、バンを呼んでくれ。少し話を聞きたい」
「わかった。外の者に伝えてくる」
部屋の外には執事や侍女が控えている。その者達に、呼んできてもらうように頼めば急いで呼びに行ってくれた。それを父上に伝えると頷いてまた考え込んでしまった。
「父上。いつまでもルシェの部屋でこんな話をするのはやめないか?執務室に行って、話した方がいいと思うんだがどうだろう?」
ルシェにこんな暗い話は聞いてほしくない。本人の意識がないのはわかっているが、それでも嫌だった。
俺のそんな気持ちを汲んでくれたのだろう、父上はすぐに了承して執務室に向かう。俺と兄上と父上は執務室に、母上はルシェについていることになった。バンにも執務室に来てもらうように伝言を頼み、俺達は執務室に向かった。
暫く待っているとノックの音が聞こえてきた。バンが来たのだろう。
「入れ」
父上が許可を出す。やはり部屋に入ってきた人物はバンだった。茶色の髪に茶色の瞳。顔立ちも平凡な男だ。あまり印象には残らないだろう。
「失礼いたします。陛下、両殿下方、お待たせしてしまい誠に申し訳ございません。お呼びだと伺ったのですが…」
皇族に対する礼をとりながら用件を聞く。ここだけ見れば平凡な男だが…
「バン、シューベルの墓について聞きたい。何か変わったことはなかったか?」
「変わったことと仰いますと…?」
「シューベルの遺体が消えたのだ。それだけではない。一緒に入れられていたはずの品も消えている。無論、他言無用だぞ」
「遺体が消えたのですか!?あぁ…なんて酷い…」
そう言って泣き崩れる。まだ職務に忠実で正義感が強いだけで通せるかもしれない。だが、この男は…
「私の愛おしき遺体を盗むなど…!!許せません!どこの不届き者ですか!遺体を…私の恋人を盗むなんて…!!」
根っからの遺体愛好家なのだ。性別年齢問わず、遺体なら誰でも恋人だと言って憚らない。バンの職は墓守だ。皇族の墓を守り、手入れをするという誰も付きたがらない仕事に、率先して手をあげたのがバンだ。
『墓守やりたいです!それをやる為だけに皇宮に来ました!!』
そう満面の笑みで言い放ったのが忘れられない。なんでも遺体が大好きで、遺体の住処である墓を常に綺麗に保つことが生きがいらしい。
今も泣き続けているが、話が進まない。兄上もそう思ったのか宥めるような声で話しかけている。
「バン。例えばなんだけど、シューベルの墓に誰かが近づいていたとか、そんなことはなかったかい?」
泣き続けていたバンが顔を上げた。顔が涙やら鼻水やらで大変なことになっている。
「グスッ…誰かが…あの、人ではないのですが、ここ最近シューベル陛下のお墓に鳥がよく止まっていたのです。見たことのない鳥でした。食べ物をお供えしているわけでもないのに…と不思議だったのです」
「鳥…?野鳥の類ではなく?」
「はい。私は仕事柄外にいることが多いのですが、あんな野鳥は見たことも御座いません」
「バンよ。それはどんな鳥だった?見た目を教えてくれぬか?」
「かしこまりました陛下。…あの鳥は近づくと逃げてしまうので、私も近くで見たことはないのです。それでも宜しいですか…?」
「構わぬ。鳥は飼われていない限り近づけば逃げるものだ。何も問題ない」
「有難う御座います! あの鳥は漆黒の羽をもっていました。他に色はなく黒一色です。大きさは…小鳥ではありません。小鳥より二回りほど大きいかと思います。目は黄色でした」
「皇宮で飼ってる鳥じゃなさそうだな…」
父上の言う通り、皇宮で鳥も飼われているが、そのどれもが鮮やかな色をしている。純黒の鳥なんていないはずだ。
待てよ…純黒の鳥?
「バン、その鳥はいつも決まった場所にいたんだよな?時間も決まっていたか?」
「はい。いつも現れてから1~2時間でいなくなるのです」
「1~2時間…」
これは…もしかして…
「レン、どうかしたのか?」
「陛下…確信は持てないのですが…」
「それでもいい。何かの手かがりになるかもしれん。言ってみてくれ」
「はい…おそらく黒い鳥は魔法で造られたもので、野鳥ではないかと魔法使いが黒い鳥を造って自分の目の代わりとしてるのでしょう」
「魔法使いが…?それとシューベルをどう結びつける?」
「魔法使いがシューベルを使ってある魔物を造ろうとしているのだとしたら、結びつくのです」
「魔物だと…?そんなことができるのか?」
「はい。可能です。その魔物は遺体を使うのです。その遺体に負の感情が強ければ強い程強い魔物になります。シューベルは処刑されてしまっていますから、尚のこと強い魔物が見込めるでしょう」
「ほう…してその魔物は?」
「その魔物は…アンデットです」
10
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる