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海の王国

もう…

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 遠い目をして黄昏ること暫く。もうそろそろ動き出さなければならないようだ。先程から戦闘が始まっているおり大変な騒ぎになっている。黒い人魚は奥に引っ込んでいるが、連れられている魔物達は続々と攻撃を仕掛けている。対する人魚達も負けていない。持っている武器で戦ったり、魔法を使ったりして応戦している。戦闘を見ていて思ったが、どうやらこの王国には結界が張られているようだ。魔物が捨て身で突撃して来た時に跳ね返されていた。でも…状況は思わしくない。人魚側も善戦しているのだが、いかんせん魔物の数が多すぎる。黒の人魚がどんどん魔物を呼んでいるのだ。これではキリがない。このままでは押し切られてしまう。

「二人とも…この戦い、人魚達勝てるかな?」

「難しいかと。魔物は倒されればあの黒の人魚が補充していますが、兵士達は違います。もう疲弊しているのでしょう。動きが鈍くなっています」

「王国に張られた結界があるから、今すぐ王国に入られることはないと思うが、時間の問題だろう。結界が崩れれば王国ごと竪琴が壊れる」

「それはダメ…!」

 うぅ…人魚達に協力した方がいいのかな…でも、嫌だな…知らない人どころか知らない種族だ。あらゆる意味でハードルが高すぎる。本当にどうしてこうなった。

「グッ…クソッ数が多すぎる…このままでは…!」

「フェスル隊長!!」

「グァァッ!!」

 あぁ!!!リーダーの人がやられた!!これはマズイ…この中で一番強いであろう人がやられたせいで仲間の兵士達が動揺している。何とか生きてはいるが、傷が深そうだ。急がなくては命に関わる。

「アハハハッ王国騎士も大したことないのね!さぁお前達!やっておしまいっ!!!」

 黒の人魚が魔物を一斉に向かわせる。その中にはリーダーの人魚に致命的なダメージを与えた海蛇に似た魔物も大勢いるのだ。このままでは勝ち目はない。




「ノワール、ディアルマ!あの海蛇みたいな強そうな魔物を狙って戦おう」

 本当に気は進まないが、仕方ない。これも竪琴の為だ。それに人魚は人ではないからそこまで人見知りしないで済むかもしれない。頑張れ私やれば出来るよ私!!必死に自分を鼓舞していく。

「かしこまりました、主様。全て主様の御心のままに」

「主の願いは俺達の願い。必ず応えよう」

 そう言って二人は飛び出していく。私も追いかけて行くが、前線には出ない方がいいだろう。後ろに行っていつでもサポート出来るように立つ。その時に後ろにいるリーダーの人魚に向けて、治癒魔法を放っておいたのでそのうち目覚めるだろう。近づかなくても、治癒が出来るようになっておいて本当によかった。
 魔物達は見慣れない生き物に驚いたのか足を止める。黒の人魚も驚いており攻撃の手を止めて嗄れた声をあげる。

「何なのお前達!?こんな生き物見たことない…まぁいい。邪魔をするなら容赦しない!!行きなさい!!」

 攻撃の手を止めたのは少しだけですぐに魔物に攻撃の指示を出す。魔物達はその指示に従って二人に突撃するが…

「そんな攻撃効きませんよ。1匹ずつ相手をするのは面倒ですから一度に来て下さい」

「雑魚だなお前ら。本当にやり甲斐がない。数だけしか面白みがないな」

 全然相手にされていない。魔物達が決死の覚悟で攻撃を仕掛けても、二人は軽く躱してアッサリと倒していく。物理攻撃が効かないならと魔法を使っている魔物もいるが、繰り出した魔法は無効化されてお返しとばかりに魔法を食らって倒れていく。あんなにいた魔物達が二人によって、あっという間に3分の1にまで数を減らされている。

「クソッ本当に何なのお前達はっ!!魔物達、前にいる二人よりも後ろにいる女を狙いなさいっ!!!」

 え??私ですか!?私サポートしていただけで何にもしてないんですけど!?
 黒の人魚の指示に従い魔物達は次々と私の所へ来ようとする。が、その前に二人によって阻まれて倒されているので実際に私の方へ来た魔物は5匹だ。




「危ないっ!!さっさと逃げろっ!!!」

 あ、さっき治癒したリーダーが起きたようだ。魔物に襲われそうだというのに不思議と怖くない。シューベルに襲われた時に頭のネジが飛んだのだろうか…?
 いやいやこんなことを考えている場合ではない。

「だ、大丈夫です…皆さんは私の…後ろにいて下さ…い」

 詰まりながらだが何とか言えた。
魔物の話だが、何も私が倒さなくてもいいのだ。二人が倒してくれればいい。
    
         『水の鎖』
 
 私が何をするのか分かりやすいように詠唱をした。この魔法は文字通り、水で鎖を作って逃げられなくする魔法だ。周りは海で、水が溢れかえっているからとてもやり易い。私の作り出した鎖は、音を立てて魔物達に絡みついていき、魔物の動きを完全に封じ込める。逃げようともがくが逃さない。
 私が動きを止めていると、魔物を倒し終えた二人が駆けつけてくる。そして一瞬で倒してしまった。相変わらず強い。

「主様!!ご無事ですか?お怪我は?」

「主!痛いところはないか?」

 魔物が倒れたのを確認するとすぐに私の所へ駆け寄ってくる。ノワールは私の体を見て傷がないか確認し、ディアルマは擦り寄ってくれる。本当に二人とも優しい。

「うん。怪我もないし、痛いところもないよ。ありがとう。それよりあの黒い人魚は?」

「私達が戦っている隙に逃げたようです。申し訳ありません主様…」

「主すまなかった…つい戦いに夢中になってしまった…」

「ううん、大丈夫だから気にしないで!二人とも戦ってくれてありがとう、今回復するね」

 そう声をかけてから治癒の魔法を使う。見たところ怪我はなさそうだが、念のために。私が治癒魔法を使うと二人とも気持ちよさそうに目を細める。あぁ可愛い…!


「取り込み中申し訳ないが、少し話をしてもいいか?」


…復活したリーダーに声をかけられる。振り返ると警戒の滲んだ目をしたリーダーと兵士達が此方を見ていた。
 
 うぅ……試練の始まりだ…
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