人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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ミラージュファーマシー開店

それを人は拉致といいます…

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ーーーーーノワールside

「失礼する」

 そう言ってレンルナードの部屋に入る。顔を上げたレンルナードは、驚いたように口を開けた。間抜けづらもいいとこだ。

「な…どうして此処に…!?」

 奴は執務机に向かい、書類仕事をこなしていたようだ。私達が来たことで慌てて立ち上がり、書類の山が崩れていった。

「用事があったからに決まっているだろう?」

「主がお呼びだ。来るよな?」

「いや、ちょっと待って下さい!流石に何も言わず、いなくなることなんてできません。それに、何故セーレが私を呼んでいるんです?」

 連れて行こうとしたのに、抵抗された。何故主様がお前を呼んでいるのかだと?

「そんなもの、主様にお聞きすればいいだろう?とにかく急いでくれ」
  
 腕を掴んで引っ張る。勿論、力加減は気をつけている。人間は脆く、腕が引っこ抜けることもあるからな。そんな気遣いを、してやっているのに奴は抵抗するのだ。本当に何様だ?

「ですから、何も言わずに行くことはできません。少しお待ち下さい。父に言って来ますから」

 そう言って奴は部屋を出て行った。

「ふんっ生意気な奴だ。主様方をお待たせするなど…」

「まぁ確かにな。だが、説明をしないで連れて行くと、主に叱られるぞ?ちゃんと待った方が良くないか?」

 ディアルマに背中を叩かれる。尾で、ぽんぽんと叩かれているが、そんなもので落ち着いたりはしない。
 苛立ってると廊下ならバタバタッと音がする。人間の足音だ。

「なんだ…?」

「さぁな。襲撃ではなそうだが」
 
 ディアルマは、そう言って毛繕いを始めた。呑気なものだ。まぁ何があっても負ける気など微塵もしないが。
 足跡の主がこっちに近づいてくる。そして今私達がいる部屋で立ち止まり、扉を開けた。



「失礼する。息子の恩人は貴方達か?」
 


 入って来たのは男だ。赤い髪に赤い瞳。こいつは…

「アキュリスタ帝国皇帝か」

「その通りです。私がアキュリスタ帝国の現皇帝 ヴァンルード・ドル・アキュリスタ。貴方達が以前に息子を助けた方でお間違いないか?」

「そいつを助けたのは主様が望まれたからだ。私達が進んで助けたわけではない」

「だとしてもです。本当にありがとうございました。貴方達のお陰で息子は助かったのです」

 ありがとうございましたと頭を下げられるが、はっきり言ってどうでもいい。

「父上、もうその辺で。執務を放り出されたのですから、早くお戻りにならないと。側近達が探します」

「そうだな。もうそろそろ戻らねば。息子を御所望だとお伺いしましたが?」

「あぁ。主様がお呼びです。終わればきちんと送り届けよう。連れて行っても?」

「えぇ。送り届けて頂けるのなら。それでは、私はもう戻ります。では、またいらして下さい」

 そう言って皇帝は出て行った。対するレンルナードは複雑そうだ。親が自分を貸すと言ったからだろうか。

「レンルナード。これで行けるな?」

 皇帝の前では黙っていたディアルマが声をかける。

「えぇ。父に許可は取りましたから。それで何処に行くんですか?」

「黙っていたら分かる」

「は?」

 奴の疑問を無視して、転移術を発動させる。やっと帰れるのだ。疑問に答える時間が勿体ない。
 さぁ。早く主様の待つ家へ帰らなければ。






ーーーーーセーレside

「ノワール達、時間かかってますね…」

「そうだね~まぁもう少しお茶をして待とうじゃないか☆」

 そう言って、ルトラス様はティーポットを持つ。カップを見ればカラだ。もう飲んだのか…早いな…

「セーレ!君の淹れてくれた紅茶、美味しいね!それに、このクッキーも最高だっ!!」

「喜んで頂けて嬉しいです。ルトラス様は、普段食事はしないんですか?」

 以前、私の作ったフレンチトーストを食べていた時も、美味しいと言ってくれていたから、食べることが嫌いではないはずだ。

「普段は食べないかな~。僕とって食事はね、娯楽なんだよ。供物として捧げられた物を口にすることはあるけど、それ以外は殆ど食べない。食べるのは、神達と一緒に呑むときくらい☆」

「神様の宴会みたいなものですか?」

「そうだね!それが近い!!僕達は忙しくしているからね、集まれるのが少ないんだ」

「へぇ~」

 こんな感じで雑談していた時だった。

「主様、ルトラス様、ただいま戻りました。レンルナードはまだ目覚めておりませんが、如何致しましょう?」

「ありがとうノワール、ディアルマ。僕は隠れているよ。見られても困るしね」

 そう言っていそいそと隠れに行く。ちゃっかり紅茶とクッキーを、持って行っているのがルトラス様らしい。

「行って来てくれてありがとう!レンルナード様、寝ちゃったの?」

 目覚めてないってどういうことだ?

「主、ただいま!レンルナードは気絶しただけだ。どうやら、転移の衝撃に耐えられなかったらしい。此処はルトラス様の加護で覆われているから、転移をするときに負荷がかかるんだ。それでだ」

 ディアルマが頭を擦り付けながら説明してくれる。転移に負荷がかかる?知らなかった…此処に住んでいる人にはかからないけど、住んでいない人にはかかるのかな。

「ディアルマ、おかえり。レンルナードさんを起こしてくれる?」

「あぁ分かった」

 そう言ってレンルナードさんの元に近づき、尻尾で攻撃を仕掛けた。尻尾なので、レンルナードさんにダメージはないだろう。ぽふぽふと叩かれたレンルナードさんは目覚めたようだ。

「此処は…?セーレの家…か?」

「はい。そうです」

「せ、セーレッ!?」

 レンルナードさんは飛び上がって驚いた。

「お、お久しぶりです。あの…二人から話って聞きましたか?」

「話…?」

 あ、この反応は聞いていませんね。

「すまない。何も聞いていない。お二人からは、セーレが呼んでいるから、とにかく来いと言われただけだ。用件はセーレに直接聞けと」

「…」

 その言葉を聞いて、無言で二人を見る。二人は私と目があった瞬間、すぐに目を逸らした。私が怒っているのは分かったようだ。

「ノワール、ディアルマッ!!」

 私が呼ぶと、二人ともビクッとした後、すぐさま頭を下げた。

「も、申し訳ありません!」

「すまない…!」

 二人とも謝ってくる。レンルナードさんはそんな二人の様子に驚いている。ということは…

「二人とも、何の事情も説明せずにお連れしちゃダメじゃない。レンルナード様にだって用事もあるんだから。それにね?こういう了承なく、人を連れてくるのってなんていうか知ってる?」

 問いかけると目を逸らすどころか、顔を逸らす二人。どうやら知ってるが、とぼけているらしい。

「拉致っていうんだよ…!あのね、私は二人がそんなことして、捕まっちゃったら嫌なの。だから、今度からちゃんと事情を説明してからにしてね?」

「はい!必ずそう致します!!」

「あぁ約束する!」

 二人とも必死だ。私が怒ることなんて滅多にないせいだろうか。まぁここまで反省していたら大丈夫だろう。

「怒ってないよ。大丈夫だから!次から気をつけてね」

 二人とも頷いてくれたところで、レンルナードさんに戻ろう。

「すみません…お話聞いて頂けますか?」

「あぁ。俺で良ければ喜んで。なんだ?」

「あの…」

 レンルナードさんの目を見て言う。あまり人の目を見て話すのは得意じゃないのだが、今回はレンルナードさんだけが頼りだ。精一杯お願いしなくては

「商業ギルドのギルド長さん、紹介していただけませんか?」

「商業ギルドの…?」

 レンルナードさんは不思議そうだ。

 さぁ!お話するぞ…!!
 
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