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ミラージュファーマシー開店
開店です!
しおりを挟む「主様、いよいよですね。心の準備は如何ですか?」
「う、うん…緊張してドキドキしてる…」
「大丈夫だ。今日のために準備してきたんだから」
「そ、そうだよね。それにこれから始まるんだから、頑張らないと!」
時が経ち、遂にミラージュファーマシーを開店させる日が来た。あれから商業ギルドに戻り、グオベルさんと話を色々とした。細かく売り出す商品の名前を書いたり、看板を作ってくれる工房にいったり…とにかく沢山したのだ。その工房の工房長さんがとてもいい人で、開店祝いだといって家具もくれたのだ。商談に使えばいいと、店内の大きな窓のすぐそばにテーブルを作って、それとセットになる椅子もくれた。木製で細かく蔦が彫られている。看板も木製で ミラージュファーマシー と彫られたすぐそばには猫の模様と、黒薔薇の模様を入れてもらった。この模様のモチーフは、ディアルマとノワールだ。一緒にお店をきてもらうから、絶対に入れたかったので工房長に無理を言った。なんでもお店の看板にそんなことをするのは珍しいらしい。
カランコロンッ
ドアに取り付けられた、来客を知らせるベルが鳴る。
「おはようございます」
やって来たのはグオベルさんだ。
「グオベルさん。どうされたんですか?」
「開店祝いを持って参りました。どうぞお受け取り下さい」
そう言って差し出されたのは、大きな包みだ。両手に抱えて持つくらいの大きさがある。
「有り難う御座います!開けても?」
「えぇ。どうぞ、気に入って頂けると良いのですが…」
開けていいと言われたので、開けることにする。本人がいる前で包装紙を、ビリビリに破ったりはできないから慎重に行う。慎重に包みを開けると、中には黒板のような物と、ペンがあった。カフェなどで見かける、外置かれていてメニューの書かれた黒板にそっくりだ。
「これば魔道具です。この板に専用のペンで書いた文字は、擦ると消えるという優れものです。セーレ様のお店は魔法薬屋ですから、仕入れ状況によって商品も異なりますよね?その時にお使い下さい」
なるほど。紙に書いてわざわざ新しい紙を用意して書き直すのではなく、この魔道具に書いてってことだよね。それは画期的だ。手間が一つ減る。
「有り難う御座います!早速使わせて頂きますね」
ありがたく受け取ろう。幸い開店までは時間がある。売り出す物を書く時間くらいはあるだろう。
「喜んで頂けて光栄です。それでは私はこれで。頑張って下さいね、ギルド職員一同応援致しております」
「本当に有り難う御座います。応援に応えられるように頑張りますね!」
グオベルさんは綺麗な礼をして帰って行った。あっさりした人だ。
「主様、せっかく頂いたんですから、使いましょうか」
そう言ってペンを渡してくれる。ありがとうとお礼を言って受け取り、私は早速書き始めた。
『 ミラージュファーマシー 取り扱い商品一覧
体力回復薬 1000ドル
魔力回復薬 1300ドル
毒消し薬 700ドル
麻痺治し薬 700ドル
石化解除薬 900ドル
魔物撃退薬 900ドル
魔法の軟膏 1200ドル
本日限定、お買い上げ頂いたお客様にはお好きな魔法薬一本差し上げます。数量限定ですので、ご了承下さい』
「これでよしっと!」
書き上げてから時計を見るが、まだ少し余裕がある。それにしても…
「私の魔法薬、高すぎないかな…?グオベルさんが、これ以上値段を下げちゃダメって言ってたけど、相場の2倍って高すぎない?」
幾らで売り出すのかを相談した時に相場を教えてもらって、その値段にしようとしたのだが、猛反対された。何でも私の魔法薬は最高品質らしく、2倍でも安いくらいなんだとか。市場を狂わせない為にも宜しくお願い致します…!! と頼み込まれた。そして、高すぎると難癖をつけられたら、自分の所に来させてほしいらしい。グオベルさんが、説明してくれると言っていた。
「いえ、高すぎるなんてとんでもないですよ。あのギルド長の言う通り、効能を考えればこれでも格安です。それに…これしき買えなくては。私達の目当ての人には辿り着けませんよ」
「え?何で?」
何故高い回復薬を買えないといけないんだろうか。
「私達が求めているのは、神の息吹の異変を知る者です。その者は世界中を旅する冒険者や、貴族の可能性が高いとは聞きましたね?」
「うん」
「こういった情報を持っているのは、冒険者の中でも比較的裕福な者や、貴族でもお金を持っている者が殆どです。彼らは情報を売ったり、逆に情報収集する為に行動するものですが、それにはお金が必要不可欠です。それもかなり高額な。ですから、これくらい買えないと厳しいんですよ」
「へぇ~…」
勉強になった。確かに私達の目的は情報集めだ。そして神の息吹を復活させる。その為にお店も開いたし、私も神の竪琴を練習しているのだ。
「主、もうそろそろ時間だ。早く開けよう」
ディアルマが呼びに来てくれた。猫の姿の彼は相変わらず可愛らしい。今も尻尾を優美にくねらせて、私の足に巻きつけている。
「ディアルマ、ありがとう。じゃあ最後の開店準備をしようか。お客様来てくれるといいなぁ~」
「大丈夫だ。きっと来る。グオベルがコソコソと宣伝していたようだしな。きっと高位冒険者は来るだろう」
「えっ!グオベルさん宣伝してくれてたの!?全然知らなかった…」
「表立ってするわけにもいかないしな。知らないのも無理はない」
器用に私と肩に登ったディアルマが頬にすり寄ってくる。あぁ…癒される…
「主様。そういうことでしたら早く準備なさいませんと。さぁ!」
そう言って手を取ってエスコートしてくれる。構ってほしいならそう言えば良いのに…素直じゃない。
「……どうかなさいましたか?」
不貞腐れたようにノワールが聞いてくる。おそらく、彼は私が気づいてるのを知っている。だからこんな複雑な表情なんだろう。
「ふふふっ…なんでもないよ。開店準備をしよう!」
店内に入り、最終確認をする。魔法薬は出した、電気はつけたし…よしっ!準備は出来た!
「ノワール、ディアルマ!開店するよ~!!」
「はい!お願い致します」
「遂にきたな。頑張ろう」
二人の返事を聞いて扉を開ける。するとそこには待っていてくれたお客様がいらした。先ほどまではいなかったのに、中に入って確認作業をしている間に来て下さったようだ。
「いらっしゃいませ。ミラージュファーマシーへようこそ」
そう言って店内に招き入れる。挨拶は至ってシンプルに。それでも心を込めた。
「あの…体力回復薬が欲しいんだけど」
「はい。ございますよ、こちらです」
初めての接客だ。ここから始まるのだ、神の息吹を復活させて、ダンタリオンを大切な人と再開させる。それを絶対に達成したい。
私は私の目標に向かってスタートした。
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