人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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異世界では人攫いの仕方も斬新でした

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 人がいるなんて思ってなかった私達は呆気にとられる。え?二人とも、人はおろか生き物すらいないって言ってたよね?ばっちりいらっしゃいますけども?

「何とか言いなさいよ!!」
 
 何の反応も示さない私達に焦れたのか、女の子は更に槍を近づけてきた。だが…正直言って怖くも何ともない。槍の刃はブレブレだし、持つ手もガクガクと震えている。まるで必死に威嚇している子猫のようだ。
 いやいや、こんなことを考えている場合ではない。

「ごめんなさい。人がいるとは思わなくて、驚いてしまいました。貴方は、此処に住んでいた方ですか?」

 なるべく刺激しないように、優しく聞く。だが、結果として刺激してしまったようだ。キッと睨みつけられた。

「何よ白々しいっあんた達が攫ったんでしょう!?なのに此処に住んでいた方ですか?なんて!バカにするのもいい加減にしてよ!!」

 ものすごい興奮している。とてつもなく気が立っていて、キャンキャンと声が響く。二人とも、煩いという表情を隠しもしない。なんなら この小娘黙らせましょうか? と目が語っている。やばい。二人が黙らせる=女の子にとってやばい未来しか見えない。

「あの…此処には貴方以外に人がいたんですか?」

「攫ったくせに何を!私が子供だからって舐めないでよね!早く質問に答えなさい!さもないと槍で突き刺してやる!!」

…駄目だ。全然話が通じない。攫った?私達はそんなことしてないし、そもそも全員攫われたんですか?

「いい加減にしろ」

 ノワールが低い声で言う。イライラマックスだ。女の子はビクッと身を竦ませる。

「聞かれたことにも答えず、一方的に責め立てるなどお前は何様のつもりだ?攫われた?そんなもの、私達が知るはずがないだろう。たった今此処に到着したところだ。それに、その槍も使えないだろう?」

「えっ?使えないの?」

 思わず口に出た。必死に持っていたから使えるのかと思った…

「えぇ。とりあえず持ってみたは良いものの、使い方は分からないようです。槍を使用する者の構え方ではないですから。槍は突き刺すだけの武器ではありません。それも分からない者が使うなど、笑えるだけですよ」

 ノワール、辛口だ…女の子は涙目でプルプルしている。

「だ、黙りなさい!!使えないですって?使えるもん!!見てなさい!!」

 女の子はそう言うと、ノワールに向かって突進した。勿論手には槍を構えて。真っ直ぐに向かっていき、突き刺す気満々だ。

「ノワールッ!!」

 私は叫んだ。もし、もしもノワールに何かあったら…!急いで防御魔法を展開しようとしたが、ノワールに止められた。

「大丈夫ですよ、主様。お気持ち感謝致します」

 ノワールは優雅に笑い、突進してくる女の子に向き直った。迫りくる槍に恐れもせず、じっと見据える。そして…


「へ?」


 女の子が声を漏らす。不思議に溢れた声だ。それもそのはず。

「ふん。こんなものか」

 ノワールは軽々と槍を受け止めたのだ。持ち手の部分を掴み、女の子の手から槍を取り上げてしまった。

「なんで…」

 呆然として座り込む。

「この程度の力しかないんだ。当然だろう?さぁ、大人しく答えよろ」

 ノワールは容赦しない。冷たい声で女の子を追い詰める。

「の、ノワール。落ち着いて。あんまり女の子には厳しいこと言ったらダメだよ?」

 ノワールを窘めるように言う。

「……かしこまりました。申し訳ありません。主様…」

「謝るのは私じゃなくて…ね?」

 ノワールがプライドが高く、私とディアルマ以外に謝ることが苦手なのは知っている。でも、今回謝るべきは私ではないのだ。私が困っていたから女の子に言ってくれたのも理解しているが、あの言い方は…
 ノワールは嫌そうだ。私にこの顔をすることは滅多にない。それだけ嫌なのだろう。

「ノワール?きちんと謝れるよね?」

「ノワール、今回は負けだ。ちゃんと謝った方がいい」

 私とディアルマに説得されて、渋々女の子の方を見る。

「……すまなかったな」

 小さく、本当に小さくポツリと言った。女の子は目を丸くしている。

「ノワール、よく出来ました!! これで許してくれませんか…?」

 前半はノワールに、後半は女の子に向けて言う。

「うん…私もごめんなさい…」

 女の子が許してくれたようだ。憑物がとれたように素直になっている。相変わらず涙は浮かべているが…

「ありがとう。それで…先ほど 攫われた と仰っていましたが、何があったんですか?」

 私が質問すると、女の子は涙を流す。堪えていた涙が限界を迎え、溢れ出してしまった。屈んで女の子の頭を撫でていると、意を決したように言う。

「た、助けて下さい…!お願いします!!」
 
 泣きながら必死に頭を下げる。ものすごく必死だ。断られるわけにはいかないのだろう。その思いが女の子から伝わってくる。

「あの…頭を上げて下さい」

 私の言葉を聞いて、おそるおそる頭を上げる。その顔は、涙と鼻水で大変なことになっており、縋るような眼差しで私をじっと見つめる。

「力になれるかは分かりません。でも、お話を聞くくらいは出来ますよ。何があったのか話してみて下さい」

 そう言われて、少し迷いながら女の子は口を開く。何を迷っているのだろう?私達のことを信じていいものか迷っているのかな?と思いきや違うようだ。まるで、信じられないものを目にした人が他の人に話す時に、 信じてもらえるのかな? と抱く不安のような雰囲気をしている。



「あのね…私の家族と此処にいた人達全員…



     壺に吸い込まれて攫われちゃったの」



……はい??
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