人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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解決!

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 でも相手が寂しがりやと分かれば、話が早い。

「じゃあ、こういうのはどうですか?」

 私の声に反応して、ドラゴムードはこちらを向く。

「ドラゴムードさんがその壷をこちらに渡して下されば、私達がまた会いに来ます。毎日は無理ですが…それか、死の森に来るのは如何ですか?この砂漠ほど暑くはないので、ドラゴムードさんにとっては過ごしにくいかもしれません。出来る限り希望に添えるように頑張ります。だからお願いします。壺を貸して下さい」

 そう言って頭を下げる。するとドラゴムードは考え出したようだ。うんうん唸っている。

「……具体的には?どれくらいの頻度で会いに来てくれるんです?」

 食いついてきた。ここぞとばかりに話を続ける。

「そうですね…2週間に一度は確実に会いに行きます。それでも寂しいのなら、話ができる道具を置いていきましょう。それを使えばいつでも話ができます」

「いつでも…」

 そう言うとまた考え込んだ。心の中の天秤は、揺れに揺れているらしい。もう一押しだ。

「それで満足していただけるなら壺と交換で、話せる道具を今置いて行きましょう。魔道具ですから、魔力を注げば話ができます。かなり頑丈ですから壊れることもありませんよ。何が不安ですか?」

 不安要素は出来る限り取り除く。だから壺を貸して欲しい。

「主様だけではありませんよ。私たちも、話をすると誓いましょう。主様が会いにいかれるのなら、私も会いに行きます。ですから一人ではございません」

「俺の力で咲かせた花も置いていこう。ずっと傍に俺の魔力があれば、少しはマシではないだろうか?」

 二人とも説得を手伝ってくれている。私だけではなく、二人も話をすると言うのが響いたのだろう。
 ドラゴムードは頷いた。

「……分かりました。では貴方の提案を受け入れましょう。ですが、一つ条件が。先に話ができる魔道具やらを見せてください。現物がきちんとあるのだと言うことを示してください」

 彼の言葉を聞いて、急いで準備をする。まさか以前適当に作ったものがこんな時に役に立つとは…作った当初は思ってもみなかった。
 取り出したのは平べったい石だ。透明な以外特に特徴のない石。それを二つ取り出して、彼に見えるように差し出した。

「これです。これにも魔力を注いでいただければ、対になっている物に届くのです。対になっているのは、私が左手に持っているものです。どうです?ちゃんとあったでしょう?」

 ドラゴムードの視線は釘付けだ。

「人間でないといけないと言う事はありません。魔力さえ込めれば、魔物であろうと動きます。不安なら試してみますか?」

 そう問いかけると、彼は頷いた。なので彼に右手に持っていた石を差し出し、魔力を込めてもらうよう頼む。
 すると、ドラゴムードはおそるおそる魔力を込めた。魔力を込められた石が、淡く光りだす。これで準備完了だ。私は左手に持っていた石を握り、魔力を込めて遠ざかった。そこまで広くはないので、声が聞こえないくらいには遠ざかれないが、まぁいいだろう。


『聞こえますか?』


 石に向かって話す。するとドラゴムードは慌てて石を放り投げそうになった。どうやら驚いたらしい。ノワールに指示に従って、石に顔を近づけた。その表情は半信半疑だ。


『聞こえますが…こちらの声は聞こえますか?』


 震えた声。よっぽど不安らしい。その不安を取り除けるように、柔らかい口調で応えてみる。


『はい、聞こえますよ。どれだけ遠く離れていても、魔力さえあれば繋がります。いかがでしょう。不安はなくなりましたか?』

 
 私が問い掛けると、彼は泣き出してしまったらしい。嗚咽が聞こえる。慌てて彼のそばに戻ると、号泣していた。

「ど、どうしたんですか!?痛いところでもあるんですか?泣くほどに不安ですか…?」

 その質問に対し、ドラゴムードは首を大きく横に振る。ブンブンと音が聞こえてきそうな勢いだ。首が痛そう…

「ち、違います!痛くも不安でもありません。ただ…嬉しいです…こんな私に向き合ってくれたことが…本当に…群れの中でも私一人だけが、この姿で生まれてきてしまって、ずっと仲間外れでした。何をするにもひとりで…寂しかったんです。存在を無視されるなんて日常でした。遂に群れを追放されて、此処に辿り着いたんです。でも、私はもともと群れで生きる魔物です。一人では…」

 そう言って声を震わせる。

「だから、集落こと攫ったんだな?そうすれば、一人ではないと思ったんだろう」

 ディアルマの言葉に頷く。攫うのはいけないことだが、群れで生きる生物に、一人になれなんて言っても無理なのだ。群れで生きることしか知らないから…ドラゴムードが不憫に思えてくる。

「でも、貴方達が話に来てくれる。それだけで、満足です。ずっと一緒にはいられないけれど、話はいつでも出来る。それを示して下さったから、もう大丈夫です」

 顔を上げて、私たちを見て笑った。嘲笑うような表情ではなく、心からの笑みだ。 
 そんな笑みを浮かべたドラゴムードは、大事に抱え持っていた壺を私に差し出した。

「あなたが約束を守ってくれたから、今度は私が守る番です。話すことができる魔道具をくれて、本当にありがとうございます。それとごめんなさい。人を攫ってしまって…申し訳ないことをしました。彼らをあの集落で開放して下さい。壺にはめられている蓋をとれば、自動的に壊れます」

「分かりました。ありがとうございます」

 そう言って受け取る。大事に持たなくては…

「さぁ、もう行かれるのでしょう?私は大丈夫ですから、お行きになって下さい。この暑さ、人には辛いでしょうが…どうかお気をつけて」

 とても優しい気遣いに溢れた魔物だ。本気で私を心配してくれている。

「はい、ありがとうございます。気をつけますね、ドラゴムードさんもお元気で。また、お話しましょう」

「助かりました。主様は私達が責任を持ってお守りしますから、大丈夫ですよ」

「体に気をつけろ。此処はお前の生まれた地ではない。慣れないことも多かろうが、頑張ってな」

「えぇ、頑張りますよ。この地で生きていけるように…」


 各々が別れの挨拶を済ませ、私達は集落に向けて出発した。
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