僕らの鳥獣戯画

葵田そら

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第五話「何やら面倒な問題があると発覚」

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 お昼休み。こんなはずじゃなかったと、一見して女子たちに囲まれて逆ハーレム状態に見えるけど、警官に囲まれて取り調べを受けている犯人の気分だった。
 机を仲良くくっつけ合って、その上にお弁当箱を広げて、昼食の真っ最中だ。
 会話の話題は、もちろん僕と功兄こうにい──葛斎かさい先生の日常生活だ。その魂胆を丸見えには出さず、遠回しなのが少々鬱陶しい。なんて、口が裂けても言えないし、そこまで悪くも言えない。だって気持ちは分かる。こんな、大好きな担任と一緒に暮らしている従弟が同じクラスに転校して来るとか、何てミラクルなんだ。でも、それが僕だとは……助けを求めるように男子グループの方へ視線を送るも、彼らもやや呆れ返っている様子だった。そんな中で、

「いい加減にしとけよ、おまえら。転校生、いじめてんじゃねぇよ!」

 見兼ねたのか、一人の男子が苛立った風に声を荒げた。

「いじめてるって、何よそれ? 女の子に向かって大声で怒鳴るなんて!」

 女子は一切、怯むことなく言い返す。怯んだのは男子の方だ。この教室では女子の方が権力が強いようだ。男子は一歩引きながら、

「おまえらが興味あんのは、葛斎先生だろ? 従弟の葛斎は親戚ってだけじゃん。根掘り葉掘り、迷惑だろ」
「あんたたちこそ。文也ふみや君、被災して転校して来て不安なのに、もっと親切に仲良くしてあげたらどうよ?」

 女子のあなた達がいるので男子達は遠慮して近づけないでいるのです。と、僕は男子全員の意見を心の中で代弁した。
 さすがにムスッとした男子達が女子達をにらんで教室内の雰囲気が険悪になりかけたところへ、

「ハイハイハイ、お取込み中にすみませーん」

 と、林田はやしだの登場だ。どこからともなく現れるや否や、「葛斎君、お借りしまーす」僕は襟元を掴まれて引っ張られる。

「林田? 何すんのよっ」

 抵抗したのは僕ではなく女子の方だった。

「ちょいと、文也君と部活の話がありましてね」
「あーっ」

 っと僕はここで思い出す。昨日のまんまとしてやられたのを、まだやり返していない。

「部活って? 林田、アンタ、幽霊部員じゃないの? まさか、文也君をあの世へ連れてく気?」

 それは御免だ。

「文也君、こいつと一緒はダメよ! もう何部にするか決めたの? うちに来ない? うちはねぇ……」
「あ、僕、書道部に入部したんだ」

 興奮気味にまくし立ててくる女子達に早々とバラす。途端、

「書道部って……あの正堂美也子せいどうみやこのいる?」

 何故かクラス全員の顔が少し強張って、周囲がひそめき立つ。

「正堂美也子って、いいよなー」
「そうそう、清純派美人だよなー」

 ポツポツとこぼす男子達のつぶやきに女子達は、

「否定しないケドー。てか、書道部は廃部になったんじゃなかったの?」
「え、廃部?」

 何の事か、そんな話を僕はまだ知らない。けど、正堂美也子の有名ぶりは十分に知る得る事ができた。やはり、学校内では一際目立つ存在みたいだ。

「みなさーん、静粛に」

 パンパンと林田が手を叩く。

「正堂美也子の美貌も、部の存続も、共に永遠に不滅です! では!」

 僕は襟元を掴まれズルズルと教室の扉へと林田に引きずられていく。

「「林田ぁー!」」

 背後から女子たちの非難する声が飛んだ。


   ◇


 林田は西館まで僕を強制連行すると、四階にある階段を上り始めた。てっきり部室かと思っていたので、

「どこ行く気だよ? 林田、そっちは……」
「もちろん、屋上だよん」

 扉を開けば、校舎の屋上へと出た。

「本館の方は登れなくなってるけど、こっちはドアノブが壊れてっからな」
「てかさ、ここ……」
「あー、アツいよな、昼間っから」

 手をパタパタ仰ぐ。確かに、そろそろ日中は気温が上がってきて、直射日光を浴びる屋上は暑かった。けど、そうじゃなくて熱い──そこは男子と女子のカップルがキャッキャッとイチャつく愛の巣だった。僕ら二人の存在も目に入ってはいない様子だ。

「……なんか、逆に寒くなってきたかも」

 彼女のいなさそうな林田と、もちろんそうである僕の男二人組。
「仕方ないだろ、おまえをあの場から救出して連れ出すには、ここくらいしか思いつなかったんだよ」
 林田の説明にチュッチュッという擬音が耳に交じって集中できない。一応、健全な男子高生だ。でも、外国って路上でも人前でもこんなのらしいので、ここは異国の地としよう。

「ほら、こっち」

 と、塔屋の後ろへと林田は回る。「こっちは、今日はいないな」
 日陰になっていて、薄暗い。まさか、いつもはこんな所であんなことやこんなことはしていないだろうなと想像してしまったけど、さすがに教師に見つかれば大問題だ。

「文也君。君の頭の中は丸見えだが、一応、ここはセンコーもたまに利用すっからな、タバコ吸いに」

 ニヤリと林田は口の端を上げる。確か職員室内には喫煙禁止と自戒のような張り紙をしていた。その掟破りの証拠を何かあれば林田は持ち出す気だ。もっとも、それ以前に林田はそんなズルな手口を使う奴ではないはずだけれど。

「とりま、座れよ」

 僕はコンクリートの上に地べたに体育座りをした。隣で林田はあぐらをかいた。

「お、ハンバーグじゃん」
「あっ、それ」

 ちゃっかりと、僕の弁当箱を手に持って来てやがった。ハンバーグの具材は、昨日の夕飯のオムレツにも使われたひき肉だ。お弁当用についでに作ったのだろうか。なんて効率の良さなんだ。

「んー、んまっ。葛斎先生のだろ? この卵焼きも、味変わってないなぁ」
「何? 食べたことあんの?」
「一年の時にな。昼食代を親からもらうの忘れてて、金欠で牛乳だけ買って売店を出ようとしたとこ、葛斎先生から手作り弁当もらったんだよなー。代わりに、茶だけ買いに来たらしい先生の方がパン買ってったな。優しい先生だし、弁当もうまいし、感謝感激だったわ」

 お金を借りたり奢られたりするより、手作り弁当を受け取るのが一番気を使わなくて済む。さすが、功兄らしくて、「へぇ」と感心する。

「それはそうと、林田、書道部員だって?」
「何のことだ?」
「とぼけんなよ、明瀬あかせさんから聞いたよ。各部で幽霊部員状態だけど、在籍してるのはうちだって」
「あぁ……チッ、あいつもオレに負けずに情報通だからな、気をつけろよ。弱み、握られんなよ」
「弱み、握られてんの?」
「いや、別に」

 ちょっと言葉を濁したのを聞き逃さなかったけど、今はそれを言及している場合ではない。

「あとさっき、女子が言ってた廃部って?」

 まさかすでに廃部していて、本当に幽霊部になっているのか。

「うーんとですねぇ」

 弁当のおにぎりを手づかみして口に頬張りながら、

「書道部はオレが入部するまで、マジで廃部寸前だったんだ。生徒会にうるさいヤツがいてだな。うちの学校は昨日教えた部以外にも、小規模でマニアックな部がいっぱいあんだよ。それを全部、生徒会の岩村ってヤツが、経費がないって事で潰していった。でも書道部は古くからの伝統もあるからな、うかつに潰せない。新入部員があと一人増えて、三人になれば様子見をしてやるって事で、オレが入って廃部の危機を免れたってワケだ」
「まさかだけど、他の部もそうやって助けて?」
「まぁな」

 と、そのまさかだった。林田が幽霊部員と化している原因と理由が分かった。

「でも、多数の部に所属なんてできんの?」
「いい質問ですねぇ。それですが、そんな事は一切、校則に書かれてありません。そう論破してやれば、顧問の先生方の口も一度は塞がりますね」

 少々、姑息ではあるけれど、すぐに言い返せない顧問も顧問だ。

「でも昨日言ってたけど、〝一つのことに打ち込む〟って精神なんでしょ? この学校」
「はい、その通りです。でも文也君、君は大好きな子とチューだけでガマンできるかい?」
「な、いきなり何の話?」

 急に周りのラブラブなカップルの声が耳についてきて気になる。

「胸だって、尻だって触りたくなるってもんだろう? でも、それらは体に一つずつのみ。そう、元は全て一つに繋がっているのです! 同じです! ならば、わざわざ一つに限定する必要はない。むしろ、色々な部位に触れて、視野と知識と経験を広げるべきです!」

 とんだ、屁理屈だ。

「その力説を、先生に?」
「さすがに、ピザに置き換えてな」
「話、戻すけど、正堂さんってあんなに有名なのに、どうして書道部に入部希望者が募らないの?」
「キミは、あの奇妙な教室を見て、迷うことなく入部を希望したのかい?」
「いや……」
「だろ? 何か霊感強いヤツとか、四階に登ると寒気するってよ。本当か嘘か信じる信じないは自由だけどな。オレはどーもねぇ。正堂美也子も確かに人気だが、あの謎めいた雰囲気は近寄り難いく、気軽に声かけれる勇気のある生徒はごく少数だ」
「確かに謎めいては見えるけど、それは明瀬さんが人見知りって言ってたせいじゃないの? 全然、親切で優しそうだよ」
「それは、君が人見知りを覚えさせるような相手じゃないからだろうな、あっさり後味の良い塩ラーメン」
「逆に林田は警戒されまくってるんじゃない?」

 僕は弁当箱を奪い返すも、中身はすでに空っぽだった。「すまん、コレやるから」と、ズボンのポケットからおにぎり一個を渡される。おにぎり一個で午後からの体育の授業を乗り切れるだろうか。受け取ったそれを遠慮なく食べながら、ふと、

「実は正堂さんとは一度会ってたんだ。いや、向こうは気づいてなくて顔も知らないだろうけど」
「それ、どこでだ?」
「今年の正月、この近くの商店街でだよ。大きな筆で書初めみたいなのやってた」
「あぁ、あれな。うちは廃部寸前のような部だけど、正堂の実力は確かなんだよな。歩くだけでオーラが光るしな、商店街のジジババにも目が止まり気に入られてたりする。それで商店街の活性化にって、自治会に頼まれたんだよ。生徒会に対しても活動してるってアピールにもできるチャンスだったし、引き受けたんだ」
「……もしかしてだけど、正堂さんは乗り気じゃなかった?」

 書き終えた後の、そそくさと退場した姿を思い出す。

「だろーなぁ。写真部がここぞとばかりに集まってたしな。あ、今は新聞部と合併させられてる。これも生徒会のせいでな。おかげで、会議じゃ揉めに揉めてるぞ、写真の掲載スペースが小さいのなんのって。まぁ、結果的にお互い刺激のある部になったからいいとして、正堂は大会とか出たがらないんだよな、頑なに。入賞でもすれば、部としても功績は上がるんだけどな」

 どうやら色々と一悶着あるらしい。

「いいか、うちの部に廃部を言い渡してきた、岩村ってヤツには注意しとけよ」
「僕が入ったから、もう心配はないんじゃない?」
「それが、逆に他の問題が浮上しそうな気配なんですよ、塩ラーメンくん」
「どうゆう意味? 担々麺くん」
「それ、センスないな」
「林田こそ」

 お互い、一瞬の間を置く。僕は残り一口のおにぎりを口に詰め込んだ。

「とりあえず、女子から逃れる時はココが一番だ」
「一応、ありがとうって言っておくよ」

「ごちそーさん」と言って林田は空の弁当箱に手を合わせると屋上に僕を残して去っていくと、すぐに予鈴のチャイムが鳴り、カップルたちが名残惜しんでる横を僕はさっさと通り過ぎて屋上を降りた。
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