巡り声

itokichi110

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巡る声

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「……助けて」
 薄明かりの中、細身の青年がスーツを着て、何かを探し走り回っている。
「……けて……助けて」
 青年はリスの様な瞳をキョロキョロさせてあたりを見回すが、空間が果てしなくあるだけだ。唯一のぼんやりとした明かりに向かって、青年は叫ぶ。
しかしその声が聞こえることはなかった。
 
                          * * *

 飛び起きた俺は、スマホを起動させた。時刻は午前3時。またこの夢だ。最近、毎日この夢で起きる。
「……きもちわるい」
 汗だくで喉もカラカラだったが、冷蔵庫には何もない。俺は外の空気を吸いに行くことにした。
  
(これ買ったら確実に腹、壊すよな……)
 コンビニに入った俺は、200mlのミルク瓶に手を伸ばしながら考えていた。
そう、俺とミルクは相性が悪いのだ。だけど喉の渇きのせいか? 今日はやけに美味しそうに感じる。悩みに悩んだ末、俺は手に添えていたものを、恐る恐るカゴに運んだ。

 このまま真っ直ぐ帰る気はしなかったので、少し遠回りすることにした。
普段は通らない道に出て神社を見つけた俺は、先程のお釣りを賽銭箱に入れ、お参りをする。
 夢がおさまりますように――。
 その時ザワザワと風が吹き抜けた。
「……助けて」
「え⁈」
 俺はまだ自分が夢の中にいるのかと錯覚したが、反射的に声のする場所を探した。必死に探し回り起きた時と同じ位の汗をかいた頃、御神木の基にチョコンと置かれたダンボールを見つけた。
俺は警戒しながら中を覗き込む。
「ミー! ミー!」
 中には二匹の猫がいて、グッタリした一匹を、もう一匹が守るようにして鳴いていた。
「……お前たちだったのか?」
 俺はハッとして先程買ったミルクの蓋を開け、その蓋にミルクを注ぎ、仔猫たちの近くに置いた。
ゆったり、ゆったり。仔猫がミルクに向かって這っていく。
時間はかかったが、ミルクを舐め始めた猫たちを見て俺は心から安堵した。
「これからは夢じゃなくて……」
 ゆったりとした動きの猫たちにつられ、時を忘れる。
「お前たちの世話で寝不足になりそうだな」
 猫たちが再び眠りについた時、空はすっかり明るくなっていた。
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