16 / 52
【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編
016
しおりを挟む暢気な顔をしてこちらへと手を振り、のほほんとした顔の少女がこの侯爵邸から遠ざかっていく。
……どうやら本当に行ってしまったようだな。
息子であるマルクスにつけた正体不明の魔法使い、ゴールド・ノジャーなる人物を見送り、ようやく本格的な調査に乗り出せると一息つく。
あの少女の姿をしたバケモノ……。
そう、バケモノと呼ぶに相応しい実力を持った超越者だ。
そんな超越者が本当はなんの思惑がありここから離れるつもりになったのか、その意図は不明だ。
だが、彼女を調べるに足るしばらくの時間的猶予がもたらされたことだけは確かである。
私も一流の魔法使いとして、時には戦術級魔法貴族などと呼ばれた達人の一角だ。
あの美しい少女が、見かけ通りの能天気な性格をしているなどと、そう楽観的に考えるつもりはない。
一流には一流になるための、苦悩や代償というものがある。
息子のように豊かすぎる才能に苦悩した者もいれば、むしろ才能がなく苦悩した者もいるだろう。
もっと別なところでは、一流になるために違法な手段に手を染めるといった、社会的な地位を失う代償を支払った者だって多くみてきた。
であるならば、いったいあの少女は何を代償にこれほどの力を得たというのだろうか。
息子からの報告では、修行に訪れたダンジョン探索において、数十匹にもなるA級からB級で構成される魔物の群れに囲まれつつも、それを瞬殺。
動揺すら見せずに、極限とも言える光魔法により一瞬にして焼き払ったらしい。
そんなことが本当に、人間に可能なのか?
答えは否である。
このような状況でも、生き残るだけならS級冒険者と呼ばれる英雄たちにも可能かもしれない。
だが、彼女は逃げるでもなく、耐えるでもなく、一撃の下に敵を焼き払ったのだ。
バカげている。
いくらなんでもありえないだろう。
だがマルクスが父である私に虚偽の報告をするとも思えない。
……であるならば、真実だと認めるほかないのだ。
しかし真実だとするならば、ゴールド・ノジャーとはいったい何者なのだ?
すでに人間の領域にはおらず、かといって特殊な才能故に苦悩した形跡も、また代償を支払ったような形跡もない。
どうやって、あれほどの力を手に入れた……。
まさか神々の力によって、ある日突然超越者になったとでもいうのか?
いや、それこそ信じがたい話だな。
「……どうやら、私は少し疲れているようだ」
「心中お察しいたします父上。教師として兄上のサポートをした功績は確かに認めますが、アレは危険です。我が侯爵領の脅威となる前に、なるべく早く手を打っておいた方が良いでしょう」
覇気のない私の言葉に、下の息子であるエレンが賛同した。
息子エレンは、マルクスとはまた違った方向でとびきり優秀な人間だ。
魔法や剣術といった武力の方面にではなく、政治的な感覚がズバ抜けている。
確かに魔法によって地位を支えられている大貴族としては、可もなく不可もなく標準的な武威しか持たない。
だがこと政略、謀略、対人における駆け引きといった面では、十二歳とは思えない圧倒的なセンスを持っている。
そういった一部の才能では既に私をも超えているかもしれないほど、次男であるエレン・オーラは別の意味での天才であった。
現にゴールド・ノジャーなる人物を危険であると判定した時から、己の内心を包み隠し徐々に交流を深め、いまではあのバケモノから一定の信頼を勝ち取っている。
まさに貴族の鑑ともいえる、見事な手練手管だ。
次男エレン本人が嫡男であるマルクスの才能に心酔しているため問題にはなっていないが、もしオーラ侯爵家の地位に興味があったのならば、それこそ我が家は血を血で洗うお家騒動になっていたことだろう。
しかもその結果勝つのが、十中八九次男エレンであると思えてしまうあたり大概である。
「兄上は特に気にした様子を見せてはいませんでしたが、アレは明らかに異常です。いままで兄上以外に、実力や才能の底が見えない相手など見たこともなかったのですがね……。正直、私はアレが怖い」
「お前にそこまで言わせるとなると、相当だな……」
あのエレンが怯えるほどか……。
やはり、早急に手は打たなければならないだろう。
この三か月侯爵家の暗部が調査した結果では、嘘か誠か分からぬ荒唐無稽で眉唾な情報しか集まらなかったが、もしかするといくつかは本当のことかもしれぬ。
やれ空を飛んだところを見た者がいただの、瞬間移動しただの、実は巻き角が生えていたのを見ただのと、なんだそれはと言いたくなるような話ばかりだったので、そのほとんどを無視していたのだ。
だが全てが本当ではないにしても、このうちのいくつかが真実であるならば、もはやそれは人類の枠組みには当てはまらないものだと言えるだろう。
その正体は魔族か、それとも別のナニカか……。
やはり現時点では分析材料が少なすぎて真相は分からぬが、せめて敵対だけはしないようにしなければなるまい。
あくまでも慎重に、しかし迅速に。
情報収集や対処の方針として、彼女の機嫌だけは損ねぬよう、徹底して暗部へと伝えるべきだな。
「対処を誤れば地獄、しかし適切な距離を保てていれば天国か……。まったく、厄介な人物が在野に転がっていたものよ」
そう独り言をつぶやき、数か月後に戻ってくるといったゴールド・ノジャーの足取りを追うことに決める。
これから忙しくなるであろうが、まあ最低限我が侯爵領の跡継ぎである嫡男と次男、そして女同士であるせいか、比較的仲が良い長女がいるのだ。
最終的に機嫌を損ねるといった最悪のケースを想定しても、殺されるのは私だけで済むだろう。
魔法の大家として知られるオーラ侯爵家の象徴には嫡男が、そしてそのサポートに次男がつくのだ。
この家そのものが失墜する未来だけは、絶対に訪れないはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる