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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編
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しおりを挟む魔法王国ルーベルスと呼ばれる大国の隅っこにある、吹けば飛ぶような貧乏な農村。
それでも村のみんなは日々を必死に生きていて、代々農家をしている我が家庭も質素ながら幸せな生活を送っている、そういう場所に私は生まれた。
もちろん家の手伝いをしながら弟たちの面倒を見るのは大変だし、とある特殊な才能を認められてからは学校に入るための勉強で大忙し。
でも周りのおじさんやおばさん、そして両親は力いっぱい支えてくれるし、村から英雄が生まれたかのように期待を寄せてくれるので、ちょっとくすぐったい。
私ことユーナが育ったのは、そんなありきたりで普通だけど、ちょっとだけ幸せな温かいところだった。
前述したとおり、私には特別な才能があった。
それもこの魔法王国においては地位や権力、身分にも直結する大きな力。
そう、それは魔法使いの才能。
幼い頃から器用だったのか、それとも他の何かが要因なのか。
両親によると、私は誰に教わるわけでもなく魔法の力をコントロールし、小さなそよ風ほどの規模の魔法なら三歳くらいの時に自力で発動できたらしい。
いまとなってはよく覚えてないけどね。
だけど、そのくらい小さい頃から私には魔法というものが身近にあった。
それからは天才だのなんだのとお祭り騒ぎで、将来は賢者になるだろうとか、位の高いお貴族様に見初められてお姫様になるだろうとか。
みんな勝手だなぁと思うものの、ちょっぴり嬉しかったのを覚えている。
そんな感じで周囲から期待されつつ、それでもその大きな期待を裏切らないよう。
時に泣き、時に前向きに、心を強く持ちながらすくすくと育つこと現在十四歳。
村長から借りた魔導書とかいう初心者用の教本をマスターしつつあった今日この頃。
なんと私、魔法学院出身と思われる超凄腕の魔法使い様に師事することになりました。
いやもうね、このゴールド・ノジャーちゃんってば凄いのよ。
まだちっちゃいのに、さらにちっちゃいツーピーちゃんに魔法を教える傍ら、片手間でもすっごい魔法とか実演しちゃうんだから。
もう天変地異みたいな魔法がズドーーーーンで、ドカーーーーーンだよっ!
いや、比喩じゃないよ。
最近なんか、都合悪く雨が降りそうだのうとかいって、お空に巨大なウィンドボールをぶち上げて天候操作までしちゃったんだから。
もう雨雲なんてササーッ、って感じで一網打尽よ!
一瞬で散り散りになっちゃったよ!
風魔法も極めればああなるんだなって、ちょっと感動した。
それに教え方も上手。
初日の授業でボロボロのスライムを見せられた時は何事かと思ったけど、教えられた通りに訓練してみればあら不思議。
約一週間の鍛錬の果てに、なんと私は回復魔法を覚えてしまうのでした。
それもたぶん、相当高位の回復魔法だよこれは。
覚えた魔法の効果を試しに、昔の戦争で傷ついた村のおじいちゃんの膝を治療したところ、なんと古傷が跡形もなく消え去ってしまった。
いやいや、ありえないでしょうと思うものの、これは紛れもない現実。
人の古傷を癒すのなんて、聖国にいるらしい聖女様や、高位の司祭様にしかできないようなとんでもない芸当のはず。
……これ、本当に私が覚えちゃってよかったやつなの?
大丈夫?
変な団体に誘拐されたりとかしない?
ちょっとそんな心配をしてしまうくらい、ノジャーちゃんの授業は驚きの連続だったのだ。
ちなみに本人は既に百歳近いお婆ちゃんだとか何とか言っていたけど、それはさすがに嘘だよね?
え、嘘だよね!?
本当は魔法学院を飛び級で合格しただけとか、そういう感じの女の子だよね!?
ごほん。
取り乱しました。
まあ、それはさておき。
ときどきツーピーちゃんが暴走して山林の一角をパンチで吹き飛ばしたり、それを家族であるノジャーちゃんが宥めていたり色々ありながら。
この奇跡みたいに高度だけど為になる授業を受け続けて一か月。
私ことユーナは回復魔法や解毒魔法、結界魔法や風の大魔法、凄いところだと軽度の蘇生魔法なんかを教えてもらい免許皆伝を言い渡されました。
ちなみに軽度の蘇生魔法っていうのは、肉体の損傷がそれほど酷くなく、死んで直ぐであれば高確率で生き返るとかいう魔法らしいです。
何を言っているか意味がわからないと思うけど、魔法を覚えたはずの私にも意味は分からないから安心して欲しいです……。
でもって。
「め、免許皆伝ですか……?」
「うむ。ほうじゃよ。まだまだ教えることはあるが、予想よりもユーナの覚えがよかったからのう。とりあえず今回はこのくらいでええじゃろ、みたいな」
いや、みたいなって言われましても……。
「うぃ。お前はなかなか優秀な子分だったけど、これ以上はわたちの沽券にかかわるからダメなの。のじゃロリはユーナに色々教えすぎ。子分が親分を超えるのは、まだはやいの」
……確かにツーピーちゃんのいう通りだ。
それくらい、この一か月で私の魔法は飛躍的に成長した。
それだけじゃなくて、魔法学院の入試に必要だという貴族に関係する知識とか、入学してから恥をかかないための礼節や言葉遣いの訓練。
ノジャーちゃんにはいろいろなことを教えてもらったのだ。
これ以上タダで色々してくれなんて、虫が良すぎるよね……。
それに最近のノジャーちゃんはそわそわしていて、よく独り言で聖国に向かった勇者がとか、レオン坊がどうたらとか言っていたし。
きっと彼女にも事情があるのだ。
「そう暗い顔をするでない、我が弟子ユーナよ。今生の別れというわけでもあるまいに」
「……そう、ですけど」
うぅ……。
なんだか寂しくて、意思とは裏腹に感情があふれ、涙がにじんでくる。
私って、こんなに涙もろかったっけ。
これじゃあ泣き落とししてるみたいで、嫌な弟子に見えちゃうよ。
「ふ~む。……ほうじゃな。そうはいってもお主が納得するのは厳しいじゃろうことは、儂にも分かる。では、こうしよう!」
「……え?」
「儂がいまから出す宿題を乗り越えられた時、再び我が弟子ユーナに授業を授けてやらんこともない、と言っているのじゃよ」
そういってノジャーちゃんは小さい子に言い聞かせるよう、ゆっくりとした口調で語る。
曰く、今年の魔法学院には悪い高位貴族たちの権謀術数に立ち向かう、心優しき英雄が入学すること。
曰く、その英雄は私の兄弟子で、きっと右も左もわからない私の力になってくれるであろうこと。
曰く、しかしその兄弟子は、希代の大天才とノジャーちゃんが認めるほどの才能を秘めつつも、現在は周囲の心無き嫌がらせによって酷い状況にいること。
……そして何より。
ノジャーちゃんの教えを受けた今の私なら、その兄弟子を助けるだけの強さが備わっていること。
そしてできることならば、その兄弟子マルクス君の力になってやって欲しいこと。
語り終えたノジャーちゃんは、どこか遠いところを見ていて……。
そう、まるで未来を見透かすような澄んだ瞳で、力になってくれまいかと私の手を取り、お願いしてくるのであった。
……とっても賢いのに、バカだなぁ、ノジャーちゃんは。
わざわざ宿題なんていって恩着せがましくしなくても、大切な弟子のためにそんなに無理をしなくても、私がこんな話を聞いて怖気ずくような女だと思っていたのだろうか。
うん、賢いバカだ。
とってもとっても、優しいおバカさんだよ。
「……ダメかのう?」
「ううん。ダメじゃないよ」
「ほうかほうかっ! やってくれるか! やっぱりユーナは優しい子じゃ!」
そう言って嬉しそうに笑う表情は、どこか肩の荷が下りたように自然だった。
それに優しい子なのはノジャーちゃんの方だ。
どこの世界に、こんなへたくそで優しい取引を持ち掛ける、だけどちょっぴり素直じゃない女の子がいるというのだろうか。
全く、弟子をこきつかうなんて師匠なら当たり前のことなんだよ。
魔導書にもそう書いてあったもん。
辺に遠慮しなくても、このくらいのお願い、むしろ恩返しにもなってないのに。
でも、こうなったらその兄弟子マルクス君のことは、ドーンと任せなさいっ!
魔法使いとしてはまだまだだけど、年齢的にはずっと年上のお姉さんがこれでもかと支えてやるんだからね。
それに、このとっても優しいノジャーちゃんが認めた英雄だ。
きっと素晴らしい男の子なんだろうなぁ。
ちょっとだけ、ドキドキしているのは内緒だ。
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