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【一章】ゴールド・ノジャーの人助け編
閑話 ゴールド・ノジャー
しおりを挟む「この異世界にきてから、今日で凡そ百年かのう……」
どの世界でも変わらない広大無辺な宇宙と、だけど少しだけ元の世界とは違う夜空の月を見上げ、俺こと不老の魔女は感慨に耽る。
俺はこの百年の年月で、何をこの世界に遺せただろうか……。
最初は無人の大森林で魂を循環させるだけの仕事だったが、その役目はもう終えた。
世界を救う大仕事ではあったものの、しかし自身の意思で何かを成したという感覚はなく。
創造神を名乗る者との契約上必要だからその場にとどまっていた、というだけに過ぎない。
では、それ以降はどうだろうか。
まず無人の大森林を出た俺は、マリベスター王国でレオン少年を拾った。
あの頃は大変だったよ。
ただ生きることで精いっぱいの少年の絶望を癒す為、希望を与え。
生きる力を持たせるために武術や文字、社会を教えた。
俺にはアカシックレコードという超能力があるから、孤児の少年を一人育てるなど簡単なことのように思えるかもしれないが、実際には失敗や成功があり、毎日が試行錯誤の連続だった。
いくら万能な知識や技術があったところで、レオン少年を大切に想うこちらの情熱が伝わらなければ、人の心というのは離れてゆくものだ。
一番最初に神々しい魔法のエフェクトで命を癒すという吊り橋効果は確かにあったが、結果的にあそこまで懐いてくれたのは、こちらの真剣さや想いが伝わったからなんだと思う。
そしてそんな少年も徐々に成長して、別れがきて、優秀だけどちょっと不憫な冒険者たちに出会って……。
いまじゃ人助けと称して弟子も三人に増えてしまったくらい、人里に降りてからの人生は毎日の密度が濃く、順風満帆で色鮮やかな景色に彩られている。
「ああ、そうじゃ……。これが、人の営みの中で生きるということなのじゃな」
本当のところを言うと。
俺にとって最初の人助けというのは、さほど大きな動機など無かったのだ。
ただただ、不老の魔女ゴールド・ノジャーとして、悠久に続く人生の暇つぶし程度に考えていた人助けだった。
いや、暇つぶしは言い過ぎか。
だけど、ほんの少しだけでも退屈が無くなればと考えていたのは否めない。
だが、今ではどうだ。
周りには家族であるツーピーがいて、羽スライムがいて。
慕ってくれる弟子たちがいて、冒険者たちや元アウロトーなんていう愉快な男もいる。
こうしてみるとよくわかる。
人々を助けていた俺の方こそが、彼らの優しさに、心の在り様に、救われていたのだということに。
そう、永遠に続くであろう時間の牢獄から救い出され、本当に楽しかったのは俺自身なのだ。
これこそが人の営み。
持ちつ持たれつ、支え合う人間関係の真髄なのだろう。
「久しぶりに酒でも飲むかのう……。前世では嗜んでいた覚えがあるが、こちらの世界にきてからはあまり機会のないものじゃし」
もう夜も遅いので、ちょうどいいことにツーピーも羽スライムも就寝中だ。
たまには一人で夜空を見上げながらリラックスするのもいいものだね。
こうして今までの人生を振り返り、これまであった大切なことを思い出せるのだから。
今日この日までの出来事を端的にまとめるなら……。
そうだな……。
「ゴールド・ノジャーの人助け編、といったところかのう」
うん、シンプルだけどしっくりくるね。
まさにそんな感じの百年だった。
さて、これまでの人生に一区切りがついたところで。
明日からは何をしようかなあ。
人の世というのは持ちつ持たれつであるがゆえに、人助けを続けていくのは確定だ。
だが、これからも変わらずに同じままというのも味気ない。
急な変化は精神が追い付かないが、かといって永遠に不変な状況というのもまた精神を腐らせる。
「まっ、それはおいおい、じゃなあ……。うぃ~、ひっく」
おっと、そろそろ酔いが回ってきたようだ。
まだあまり飲み進めていなかったのだが、案外この肉体は酒に弱いらしい。
魔法で一気に酒精を飛ばすこともできるが、それをやってしまえば風情が無い。
ならば、このまま程よい酔いのまま眠るのも一興だろう。
ツーピーには酒臭いのじゃロリね~、とか言われそうだけどもね。
だが、なんだかんだいってツーピーは賢く優しい幼女なので、きっと状況を察してくれるはず。
不老の魔女とて、ちょっとくらいセンチメンタルな気分になることだってあるのだ。
それじゃ、お休み~。
スピー。
スピー。
◇
そんなこんなで翌日。
「うわっ。なんかめっちゃ酒臭いのじゃロリが寝てるのよ」
「……んあ?」
おっとっと。
おはようツーピーあ~んど羽スライム。
いやあ、昨日はよく寝た。
ちょっとした酔いが回っていたせいで、二日酔いというほどでもなく超絶に心地よい目覚めを体感している。
予想通りツーピーには臭いと言われたが、気分は爽快リフレッシュみたいな感じ。
「ふわぁ~」
「あら? 今日はダラしないのじゃロリなのかしら? しょうがないから、わたちがお着換えを手伝ってあげるのよね~」
おお、さすが賢く優しい俺の家族だ。
昨日思った通りなんだかんだで許してくれたっぽい。
いやあ、たまにはこういう朝もいいね。
というわけで、異世界の皆さんおはようございます。
本日は雲一つない晴天なり。
実に良い気分で一日を過ごせることでしょう。
それじゃ、まあ。
そういうわけだから、今日も一日頑張っていこ~。
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