ゴールド・ノジャーと秘密の魔法

たまごかけキャンディー

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【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編

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 どうもみなさん、こんにちは。
 つい最近、弟子二人の入学を見届けて少しだけ暇になった不老の魔女。
 ゴールド・ノジャーです。

 いまの季節は入学式が終わり一週間後の春真っ盛り。
 だいたい日本の四季と似たようなところがあるこの異世界で、現在俺とツーピーは無人の大森林にてお花見を実行していた。

 まあ、この世界には桜なんてないけどね。

 ではこんなことをして何になるのかというと、基本的には最近目まぐるしく動く弟子たちの周辺状況調査とか、そういう事に対する作戦会議の口実作りになるのだった。

 アカシックレコードの更新には一日のタイムラグがあるので、未来演算抜きなら昨日までの情報しか確定していないが、それでもいろいろと見逃せない要素がいくつか浮き彫りになっている。

 たとえば一つ例をあげるとすれば、問題となっているのは勇者ノアたちが追っている謎の事件。
 聖都セレスティア上空で爆発した謎の大規模魔法についてだ。

 これについて原因を探ったところ、心当たりがありすぎて冷や汗が止まらなかったね。

 魔法杖を制作していたこちらの不注意で、まさか俺を亡き者にしようとしていた教会の過激派たちが一網打尽にされるとは。
 アカシックレコードで確認するまでは予想もしなかったビックリ案件だ。

 しかもその過激派、空間魔法の暴走により大きな被害を出して一時は反省したものの、喉元過ぎればなんとやらといった感じで、まだまだ勢いを盛り返そうと躍起になっているらしい。
 まったく困ったやつらである。

 こんな奴らのために調査に駆り出される勇者たちに同情を禁じ得ない。
 しかも手がかりが全くない以上、まともに調査して犯人を特定する証拠をつかむ可能性は、ほぼゼロだ。

 嫌になっちゃうよね。

 でも、いま困っているのはそんなことじゃないんだ。
 そもそも、勇者たちはそれなりに安定したパーティー構成をしているから、俺もツーピーもそこまで気にしていない。
 むしろツーピーなんかは、次に勇者ノアに会ったときはどうやって煽り倒そうかと、新たなる路上ダンスを考え抜いていたくらい平和。

 では何に頭を悩ましているのかというと、それは魔法学院に入学した弟子二人の周りを取り巻く権謀術数のもろもろだったりする。
 現在もお花見と称した作戦会議にてもっぱら話題に上がり続け、あーでもない、こーでもないとノジャー親子の議論が白熱していた。

「そもそも前提がおかしいの。魔法学院に行ったわたちの子分たちは賢いから、貴族たちの嫌がらせにはうまく折り合いをつけて、適切な距離感を保っているんだから。なのにあいつらときたら、そういう配慮も無視でやりたい放題なのよね~」

 そう、それだよそれ。
 せっかく弟子たちがうまくやろうとしているのに、よりにもよってヤバイのに目をつけられたものだ。

「ほうじゃのう。しかも昨日はいよいよドンパチ始まりそうな気配じゃったしのう」

 既にマルクス君とユーナちゃんは交流を果たし、魔法学院一年生の中でもトップクラスの成績を誇る。
 弟子たちはお互いにサポートし合って、二人の力で逞しく生きているのだ。

 それに、木偶の棒といわれたマルクス君の汚名は間違いだったと気づく者も出てきているし、二人に味方する勢力だって徐々に育ってきていた。

 だが、そうじゃない勢力もいる。
 その筆頭となっているのがこの国の二大公爵家たる水氷のクライベル家と、火炎のフォース家だ。

 特にアンネローゼ・クライベルはとにかく平民のユーナちゃんのことを敵視していて、日夜嫌がらせに余念がない。
 陰口を叩き教科書を隠したりするのは当たり前で、ひどい時には食事中に手が滑ったとのたまい頭から水をぶっかけていた。

 マジモンのクソ女こと悪役令嬢のごとき活躍っぷりである。
 ここまでくるとむしろ清々しいね。
 将来的にユーナちゃんがコイツをぶっとばすのに、少しの良心も傷まないあたりが特に良い。

 で、次のゼクス・フォースは陰湿な嫌がらせこそしないものの、とにかく傍若無人でわがままなクソガキ。
 学校での成績はともかくとして、実践では自分より優れた魔法使いなど存在しないと自負しているらしく、模擬戦でマルクス君に膝をつけさせられなかったのが悔しいらしい。

 俺がプレゼントした魔法杖の性能も相まって、マルクス君が模擬戦で本気を出すと校舎が崩壊してしまうからね。
 対戦形式の授業では防御に徹していたみたいなんだよ。
 それがまた、ゼクスにとっては舐められたと思い込んでしまった要因みたいだ。

 まあ、ゼクスの感情に関してはわからなくもない。
 男子っていうのは実力の近いライバルに対抗心を燃やす生き物だからだ。
 もはや本能と言ってもいい。

 だが、それを踏まえてもコイツはやりすぎた。

「なのよね~。それにもうそろそろ、マルクスが我慢の限界みたい。ゼクスとかいう奴にユーナが傷つけられかけたって、めっちゃ怒ってたのよ。あのバカ貴族、わたちの大切な子分に失礼しちゃうわ?」

 という訳である。
 いやはや、まさか学院の図書室で白昼堂々実力行使にでるとは思わなかったよ。

 きっといつもマルクス君にべったりなユーナちゃんを暴力で脅して、マルクス君の本気を引き出そうとか思っていたんだろうね。
 今回はたまたま変装して現場に居合わせたノジャー親子がいたから、爆音魔法で騒ぎを起こして事なきを得たけどね。

 ただ、あのときゼクスの狙い通りのことになっていたらと考えると、ゾッとする思いである。

 もちろんユーナちゃんの心配もあるが、問題はそこじゃない。
 なにせ我が三番目の弟子たるユーナちゃんがあの程度の輩にいいようにされるなど、到底、実力的にありえないことだからだ。

 では何が問題であり心配ごとなのか。
 それは当然、マルクス君が本気でキレた時に収集がつかなくなるだろうことについてだ。

 弟子仲間としても異性としても気になる関係になりつつあるユーナちゃんが、こんなくだらない理由で脅迫されかけたのだ。
 マルクス君としては怒髪天もいいところだろう。

 いやはや、本当にゼクスとかいうアホが事を起こす前に止められてよかった。
 爆音によって手を出す前に未遂で終わったからこそ、マルクス君もまだ我慢できている。

「ほうじゃのう。あれはちとやりすぎじゃ」
「あいつバカなのよね~。マルクスが怒ったら、アンネローゼとかいう女もゼクスとかいう男も、一瞬でけちょんけちょんなのよ」

 いやほんとに、おっしゃる通りで。
 
 まあそんな感じの問題がいろいろとあるものだから、俺たちは頭を悩ませているわけだ。
 では見守るだけで解決策はないのかというと、実はそうでもない。

 マルクス君には魔法学院での仲間以外にも、彼のことを第一に考える家族、オーラ侯爵家が味方についているのだ。
 いくら王族に次ぐ権力を持つ二大公爵家とはいえ、大貴族の一角たる侯爵家が本腰を入れれば易々と手はだせないだろう。

 しかしかといって、学院での問題に親であるアルバン・オーラが出しゃばるというのも外聞が悪い。
 だがそこはご安心を。
 なんと都合のいいことに、マルクス君にはこと政争に至っては父親以上に心強い味方がついている。

 それが誰なのかはもう言うまでもないかもしれないが、一応紹介するならば……。

 幼い頃から兄であるマルクス・オーラの才能に心酔している彼のかわいい弟。
 十二歳にしてオーラ侯爵家当主アルバンから、既に自らを超えたと称されている政争の天才。
 エレン・オーラ君のことである。

「ほいじゃ、エレン坊に今回のことを密告しにいくぞえ~」
「イェーーーーーー!」

 というわけで、作戦開始である。

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