ゴールド・ノジャーと秘密の魔法

たまごかけキャンディー

文字の大きさ
43 / 52
【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編

041

しおりを挟む

「ゆくぞ、マルクス・オーラッッッ!!」
「…………くっ!」

 目の前の強敵、天才ゼクス・フォースから破壊の魔法が展開される。
 その魔法出力は二大公爵家の家格を超えて、この国でも同世代では最強と名高い、正真正銘の傑物に相応しい圧倒的な威力だ。

 もともと魔力制御が苦手だった僕からすれば、この膨大な魔力を制御する彼の技術に、淀みなく発せられる魔法の展開速度に尊敬の念を抱かざるを得ない。
 そしてそう思うのは、もともと魔法界の落ちこぼれであった僕にとっては必然のことであった。

 昔から魔力量だけは膨大であったものの、その制御がうまくできない木偶の坊。
 そんなことを噂され、けれど見返すこともできない情けない人間こそ、かつての僕だったからだ。

 当時は貴族としての外聞もあり勘当だけはされていなかったものの、幼い頃より感じる家族からの期待と失望。
 それと同時に周囲からの嘲笑がどれだけ大きな絶望で、また屈辱的な挫折なのかを僕は知っている。

 ……だからこそ僕は。
 彼がここに至るまで研鑽し続け、ようやくたどり着いたであろうこの破壊魔法を、どうしても嫌いになれなかった。

 ゼクスだってずっと背負ってきたはずだ。
 貴族としての責任を、身近な人からの期待を、未来への不安を。

 だが、それでもこの天才は挫けることなく前に進み続けた。
 周囲からの重圧を跳ね返すほどの強い意思で。
 誰よりも高い誇りを持ち。
 我武者羅に努力し続けてきたことで、一歩ずつ。

 同じような境遇にありながらも、先生に出会うまでは潰れかけていた僕だからこそ。
 そんな彼が、本当はとても凄いヤツなんだってことを理解しているんだ。

「だけど、だからこそ負けられない……。お前という高みを知っているからこそ、あんな愚かなことをして下らない人間に成り下がるなんて、この僕が認められるわけがない……!」

 量だけは有り余る魔力を一気に放出して、ゼクスの放つ破壊魔法にぶつけて相殺する。
 本当は非効率的でとんでもない魔力のロスに繋がる方法だけど、魔力制御が苦手な僕に破壊魔法レベルから身を守る高次元かつ高速の障壁展開なんて、できるはずもない。

 それも使われたのはただの爆炎弾ではなく、ゼクス・フォースの代名詞ともなった本気の破壊魔法だ。
 一撃の威力だけなら竜の鱗すらも穿うがつとされ、幼少の頃に彼が亜竜を屠ったことでもはや伝説となった超火力の熱エネルギー。

 そんな馬鹿げた威力の魔法相手に、ノジャー先生から杖を受け取ったことで多少マシになった程度の魔力操作が通用するはずもない。
 なぜなら、魔力障壁の展開強度は魔力の制御技術がモノを言うからだ。

 それこそユーナみたいな制御の達人になれば、ただエネルギーで身を守る魔力障壁どころか、魔法として結界を成立させてこの場を潜り抜けられたのだろうけどね。
 でも、僕にその選択が取れない以上はこうするしかなかったというわけだ。

「ふ、防いだだと!? たかが魔力を放出するだけで、障壁を貼るわけでもなく、この俺の破壊魔法を……!!」

 こんなので驚いてもらっては困る。
 まだまだお互いに全力でもないし、切り札だって見せていないだろう。

 お前は……。
 僕の知る魔法の天才ゼクス・フォースは。
 魔法の一つや二つ相殺されたくらいで、後ずさるような弱者などではないのだから。

「は、破壊魔法の使用!? ゼクス・フォースの反則行為により、この試合……。え、あ、あ、なるほど。いえ、失礼しました学園長……。試合を続行します!!」

 開幕早々の破壊魔法に審判が動き、この試合を止めようとするが、無駄だ。
 この試合は僕の弟である謀略の天才エレンと、最強の魔法使いであるノジャー先生が用意してくれた一騎打ちの機会。

 ここまで準備してくれたあの二人が、こんな反則だのなんだのという理由で試合を終わらせるワケがないのは分かっている。
 きっとすでに何らかの方法で暗躍し終えていて、学院上層部への干渉などで審判の行動を制御しているのだろう。

 例えばエレンあたりが事前に学院側と交渉していて、こうなった時のケースでどう動くかを取り決めていた、とかね。
 それに、オーラ侯爵家がその実力を保証しているノジャー先生の魔法で守りに入れば、観客席への被害は有り得ないだろうし。

 事実としてこういった証言を残せば、不意のトラブルなどで責任を取りたくない学院側はすぐに首を縦に振るはずだ。

「本気で来なよ、ゼクス。これで終わりじゃないんだろう?」
「…………まあいい、好都合だ」

 試合を続行したのはノジャー先生とエレンの奴が何かやったんだけど、ゼクスには伝わってない様子。

 ただ、それがこちらの覚悟だと受け取ったのか、僕の挑発を受けてゼクスの目が据わる。
 どうやら小手調べとして出した破壊魔法ではない、本当の実力を披露してくれる気になったらしい。

 確かに先ほどの魔法とて、別に手加減されたものではないのだろう。
 しかし一流の魔法使いにとって、工夫もなく放たれた強いだけの超火力魔法など児戯も同然。

 ノジャー先生は僕に教えてくれた。
 状況に応じて手札を変え、相手の行動を読み切り、そして戦闘中に適切な動きを行える魔法使いこそ、真の魔法使いであると。

 動ける魔法使いを目指すという名目で、授業の最初にダンジョン攻略で経験を積ませてくれたのもそのためだ。

 ただ魔法を使うことだけを念頭に置いていたあの頃の僕にとっては衝撃的な概念だったけど、今ならわかる。
 実戦を経験し亜竜を屠ったこの天才、ゼクス・フォースも同じ次元に到達していると。

 彼が僕のことを舐めたままだったらもう決着はついていたのだろうけど、本気になった彼に、先ほどのような単純行動は通用しない。
 こちらも慎重にならなければそこからほころびが生じ、足元をすくわれる結果になるだろう。

 そして僕が授業の過程で習得し、試合中に安定して扱えるだろう手札は大きく分けて三つ。

 一枚目は、さきほど見せた大魔力の解放によって起こされる攻撃の相殺や、構築中の魔法への妨害。
 二枚目は、この特別な魔法杖の性能によって可能となる、伝説の空間魔法を利用した僅かな距離の転移。
 三枚目は、授業中にこれでもかと練習してマスターした、火風水土による四大元素の攻撃魔法。

 ノジャー先生が用意してくれた魔法杖の効果は、正直伝説の魔法属性によるものだから、できれば使いたくない。
 これを大衆の前で使ってしまえばいらぬトラブルを巻き起こすことが確実なので、いざという時まで使用は控えるつもりだ。

 よって、主に実用的なのは四大元素魔法と、魔力の解放。
 思ったよりも手札が少ないように見えるけど、一応四大元素全てに適性があるのは百年に一人もいないとされる超レアケース。

 伝説の勇者でもなければ実現不可能な魔法適性の数だから、奇襲にはもってこいだ。

 これまで木偶の坊として知られていた僕の魔法適性なんて、誰も知らないだろうからね。
 まだ誰も知らないからこそ最大に活きるメリットでもある。

 既にゼクスの火属性魔法に対する弱点属性、水属性の魔法を発動寸前で待機させている。

 ……さて、ゼクス。
 僕の準備は整ったぞ。

 魔法の力だけなら僕が上、魔法の経験だけならお前が上。

 お前は、僕の目指した魔法使いの高みは、どう動く。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...