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【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編
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しおりを挟む「なにが、向かうところ敵なしの天才だ。愚か者が……」
王族派に身を寄せる筆頭貴族、フォース公爵家に生まれた嫡男。
魔法王国随一と謳われる火魔法を極め、破壊魔法へと昇華させた同年代に敵なしの天才。
亜竜殺しのゼクス・フォースこそが、この俺だ。
……いや、俺だった、というべきだな。
なにせ、今やその魔法への誇りと看板にも傷がつき、いままで自身を形作っていた物全てが瓦解しようとしているのだから。
しかし、結局はこれで良かったのかもしれん。
考えれば考えるほど過去の俺は驕り、周りが見えなくなっていた。
そして何より、暴力で解決することは力を与えられた者の特権であると、そう思い込んでいたのだ。
……違うな。
思い込んでいたのだ、ではない。
ある面では今でも、暴力による改変はこの世界の一面、部分的な真実だと思っている。
だから、本題はそこではない。
俺が真に道を踏み外し、この心を苛んでいるのは────。
「己が誇りを自ら汚し、奴に敗北する最後の瞬間まで、魔法への信念を貫けなかったこと……」
────これに尽きる。
たとえそれが騙されていたことが理由だとしても、なんの言い訳にもならない。
現実として俺は、平民の娘を脅してまで決闘の場に引きずりだしたマルクスを相手に、最後の最期で妙な薬に手を出そうとして、あの決闘の場を汚してしまったのだからな。
故に、俺は敗北を認めた。
だが、たとえ自ら敗北を認め、平民の女に謝罪と賠償を申し出て、当事者やマルクスの奴が全てを水に流したのだとしても……。
どうにも俺は、俺自身を許せそうにない。
先ほど、力はこの世界を変える一面もあると言ったな。
確かにそれは嘘ではないが、だからこそ力には責任が伴う。
なに、別にややこしい話をしているわけじゃない。
弱者を助ける義務があるとか、社会への福祉だとか、そんなクソみたいに甘いことを宣うつもりなど毛頭ない。
ここで言う責任とは、その力を培うに至った、自分自身の過去に対する責任だ。
俺という存在が破壊の魔法を極めるに至った、それまでの執念、才能、感情、思想……。
それら全てに対し向き合うこと。
過去の自分に嘘をつかないこと。
最後まで誇りと信念を貫くこと。
それこそが、責任だ。
そしていざ自分の前に自らを否定するものが現れ、誇りと信念を挫き、打ち砕かんとするならば。
己が誇りに賭けて最後まで抗い、そして散る。
それはまさしく、「責任を取った」といえるのだろう。
「だが、俺はその責任を、全うできなかった……」
それが、何よりも俺の心を苦しめる。
最後まで死力を尽くし、真の天才、怪物マルクス・オーラに敗れるならばそれでも良かった。
なのに、何故……。
何故、俺はあの時、クライベル公爵家の口車などに乗り、魔人薬などという汚物に頼ろうとした……!!
ああ、確かにあの試合の時まではアレが魔人薬だとは知らなかった。
しかしそれが何の言い訳になる?
たとえ身辺にすり寄る間者の口八丁で騙されようとも、決闘を汚したのは俺だ。
俺は奴から聞いたぞ。
あの薬が絶大な能力向上と引き換えに自らの死を誘う汚物であることを。
そして俺は見た。
俺との決闘を汚され、誰よりも憤っていた奴の表情を。
「ク……、ク、ソ、ガァアアアアアアッッッ!!!!!!」
この、俺が!!
ゼクス・フォースともあろう者が!!
よりにもよって、自らの過ちで!!
決闘相手に気を遣わせたばかりか、その顔に泥を塗ったというのかっ!!
その、どこに!!
どこに己が誇りや信念が宿るというのだ!!
……この、痴れ者が!!
「はぁ……。はぁ……。くそ……」
……惨め、だな。
ああ、惨めだ。
だが、それこそが今の俺だ。
「しかし、次は間違えんぞ。今度は必ず、俺は俺の信念を貫く」
マルクス・オーラへのリベンジも。
平民の女への贖罪も。
俺にはこれから為さなければならない事がいくつかある。
そして何より……。
クライベル公爵家に、聖国の教会……。
俺と、俺の周囲を誑かし、クソのような汚物で決闘を汚したその罪。
必ず十倍にして払わせてやる。
「このまま逃げ切れるとか思ってるんじゃあ、ないだろうな……」
俺はマルクス・オーラのように甘くはない。
やられたことへの落とし前は、きっちりつけさせてもらう。
思い知らせてやるぞ。
一体誰を敵に回したのかということをな……。
そうして、自らが真に成すべきことを再確認しているときだった。
突然、高位貴族向けの男子寮の廊下を異常なスピードで駆け回る、よく見知った魔力を検知する。
この底の知れない膨大な魔力と、魔力量に比べて未熟な魔力操作の質は……。
「……奴か」
「ゼクス!! ゼクス・フォースはいるかっ!! 頼む、力を、お前の力を僕に貸してくれ!!! 僕の、僕の弟がっ……!!」
同じ高位貴族とは思えない、誇りも何もない切羽詰まった声を上げる男。
真の怪物、マルクス・オーラが。
何の因果か、この俺の部屋に助けを求めやってきたのであった。
なんだ、急にどうした。
こんな落ち目の元天才なんかに頭を下げるとは、お前らしくもない。
上位貴族に脅されようとも、平民の女が窮地に陥ろうとも、群衆に晒された決闘の時も。
どんな時でもその信念を曲げないお前が、こんな外道に頭を下げるなんてことを……。
この俺が、認められるわけがないだろう。
「話は聞く。だが、その前に────」
「…………」
────顔をあげろ、マルクス・オーラ。
────最強の魔法使いたる誇り高き天才に、その姿勢は相応しくないだろう。
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