星の軌跡の描く未来で

美月藍莉

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第1章 A-Side 成瀬奏汰

Episode.3 「写真の中の女性」

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「あの子が星宮琴葉さん......だよな......?」

   後日、バイトが休みの日に俺は、SNSや高校時代の友達など、様々なツテを駆使して星宮琴葉の情報を探った。

   もちろん、俺にストーカーの疑いが掛けられたことは言うまでもない。

   星宮琴葉、年齢は俺と同い年の25歳。

   現在は都内の睦小路駅前のカフェのスタッフとして働いているとのこと。

   俺はこの珍妙な生物、ルビーをトートバッグに入れて、怪しまれないようにスマホを耳に当てて通話をしているフリをしながら1人で店内に入り、窓際のテーブル席に座って星宮琴葉と思わしき女性店員を目で追う。

「んに!間違いなく星宮琴葉にゃ。でも、思っていたよりあるじの雰囲気を感じないにゃ......。」

「おいおい人違いとかよしてくれよ?」

「だとしても!お前の記憶の相違が起きている鍵は間違いなくあの子にゃ!......自信はないけど。」

「ないんかい。」

   俺は勇気を出して、星宮さんが隣を通るタイミングで注文を装って彼女を呼び止める。

「あの...!」

   俺の声に反応して、彼女は振り返る。

「ご注文でしょうか?」

「あ...いや...はい...。えっと...ウインナーコーヒーを1つと...。」

(おいバカ!なに普通に注文してるにゃ!聞くことは沢山あるにゃ!)

トートバッグの中から小声でルビーが捲し立ててくる。

   うるせえ分かっとるわボケ!と小声で返しながら軽く2回、トートバッグをばしばしと叩く。

「......???」

   困ったように笑みを浮かべながら星宮琴葉は

「ウインナーコーヒーが一点......以上でよろしいでしょうか?」

「ああいや...えっと...星宮琴葉さん...ですよね?」

「ああ...えっと...はい...?」

「あれ...?」

「ええっと...!そうですけど...どこかでお会いしましたか?」

   星宮さんは警戒心を抱いたのか、空のトレンチを胸の前で腕を交差するように抱えながらそう返す。

(めっちゃ警戒されてて草。)

「ああ~。ほら、俺のこと分からない?三浦高校の成瀬奏汰。同い年で、クラスは違うんだけど...。覚えてない...?」

「...成瀬奏汰.....はっ...!」

「思い出した!?」

「いえ!全然!」

「なんやねん。」

「......でも...。貴方にずっとお会いしたかったのはわたしもです。」

「...え?......それってどういう...?」

「部屋の整理をしていると、貴方と2人で撮った写真が何枚も見つかりました。携帯のデータを見ても、卒業アルバムにもです。すごく不思議でした...わたしは貴方と話したことすら一度も...。」

「無い...。」

「はい...。もしかして成瀬さんも...?」

「ああ...。無いんだ。そんな記憶1ミリも無いんだよ。」

(にゃ...写真気になるにゃ...。)

   うっせえ分かっとるわ黙ってろ。と言いながらまた俺は、トートバッグをバシッと叩く。

(痛いにゃ!)

   うるせえ。

「ごめん、悪いんだけどさ、今日って何時上がり?この後時間作れたりするか?」

「は、はい!!今日は17時までです...なのでそれまでお待ちいただく事って出来ますか?」

「...おけ!分かったよ。」


   そうして俺は星宮さんとコンタクトを取ることに成功、そのまま退勤後に話す機会までゲットできた。

   17時まで少し時間があったので、近くの店をぶらぶら回ったり、トートバッグに入ってるヘンテコマスコットから訳の分からない説教をされたりしながら時間を潰し、17時...彼女が上がる時間に俺は再び店の前へと戻ってきた。

   制服から私服に着替えて、デニムにシャツというラフな姿で登場した星宮さん。
   結んでいた髪を解いた事で、卒アルの写真と近くなり、彼女が星宮琴葉であることを再認識する。

「遅くなってごめんなさい...!」

   申し訳なさそうに、彼女は紙袋を俺に手渡してくる。中にはカフェで売られているクッキーとコーヒーが。

「え、貰っちゃっていいの?」

「あ、はい!待たせちゃいましたし...。」

   申し訳なさそうにそう言うものだから、逆に貰わないと失礼な気がした俺は
「お、そっか!さんきゅ。つか、敬語じゃなくていいよ俺タメだし。」
   と言って紙袋を受け取る。

「そっか...そうだね!うんわかった!えっと...それで...。」

「うん、そう。俺も君と、星宮さんと全く同じ。記憶がないんだ。こんなこと絶対におかしいと思って、一度星宮さんと話をしたかった。それでさ、写真なんだけど今もまだ持ってたりするのかな?」

「うんあるよ!.........すごく不気味だったけど。」

「不気味とか言うなし。」

「あはは!ごめんごめん!」
   なんて彼女は冗談を言いながら笑ってくれて、初対面なのに少し緊張が解れる。

「んじゃ見に行ってもいいかな?」

「あー.........うん!いいよ!.........いいけど、家にあるからなぁ...。」

「あー、さすがに家に行くのはまずいか。」

「いや、嫌とかいうわけじゃなくてね!!」

「うん!うんわかってるよ!あー、じゃあどうしよう?」

「そしたらー.........取りに行こうか?家まで10分ちょっとだし、ここで待っててくれたらすぐ戻るけど」

「え、いいの?そしたら待ってたほうがいいよね?」

「うん!おっけ、じゃあちょっと急いで取ってくる!」

「気をつけてな。」

「あーりがと!」

   なんて言いながら、彼女はカフェの脇に停めてある自転車に乗って、そのまま商店街の方を走り去ってしまう。

「これでおけ...?」
   俺はトートバッグの中に潜めるルビーに言う。

「ナイスにゃ!...でもやっぱりあるじの雰囲気はあんまり感じなかったにゃ...写真を見た時はすごくビビビってきたんだけどにゃぁ...?」

「ま、それもあの子が持ってくる写真を見たら分かるんじゃね?でもさ、やっぱ変だよな。あの子も記憶に無いって。」

「まあ、普通じゃないにゃ?なにかが起きてることは間違いにゃいと思うにゃ。」

「くぁ~。ったくなんなんだよ本当に。信じられないことばっかりだよ。」
   俺はそう言って近くのベンチに腰掛ける。

「ほんと全くだにゃ。」

「お前の存在が1番信じらんねーよ。今んところな。」



   俺たちはこうして、星宮さんが戻ってくるのをそのベンチで待ち続けた。

   しかし、30分経っても、1時間経っても彼女は戻ってこず......そのまま21時まで待ち続けたものの、彼女はここには戻ってこなかった。

   このまま待っていてもどうしようもない俺たちは、彼女はもう戻ってこないと判断して、そのまま彼女の持つ写真をお目にかかることなく...。

   まあ、星宮さんにも卒アルの記憶がなかったということが分かっただけで収穫か~?とか、おまえあの一瞬で嫌われるとかある意味すごいにゃ。働かないからこうなるにゃ。だとか。
   そんなことを言いながら俺たちは帰路に着いた。

───彼女が夕方17時過ぎごろ、大型トラックに跳ねられて死亡したのを知ったのは、その晩帰宅してテレビをつけて、ニュースを見た時だった───

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