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序章 旅立ち
二人の仲間
しおりを挟むオレはもう子供じゃない。
父さんから刀を託されたって事は認めてもらったってことだ、自信を持っていい。
オレはこの刀と共に冒険者として生きていく、次に父さんに会う時にはこの刀に恥じないくらいには強くなっておかないと。
ここゴルドホークは鉱山で栄えた町だ。
北東に広がるオズガード鉱山は、金の採掘で財を築いたオズガード家が管理している。
今は鉄鋼などの採掘が主だが、稀に金が出るようだ。その為、この町は一攫千金の夢を追う者たちで賑わっている。オズガード家に幾らか払えば誰でも夢を見ることができる。鉱物が売れるからそこまでの損はない。
そんな美味しい話にはもちろん危険も伴う。稀に強力な魔物に襲われる事がある。冒険者ギルドの依頼の殆どは、鉱員の護衛や魔物の討伐だ。
今日もギルドは大賑わい。
Bランク冒険者でも上位のオレは若くても一目置かれた存在だ。ギルド内を見回し奥のテーブルでコーヒーを飲んでいる男に声をかける。
「トーマス、久しぶりだな!」
「ん? あぁ、ユーゴ! 久しぶりだね」
トーマスはオレと同い年の18歳でBランクの冒険者だ。
特徴的な赤茶色のストレートヘアを左右に分けている。背はオレと変わらないが体格がいい、片手剣と盾でパーティーを守る盾士だ。
父さんと出かける時以外はいつもトーマスに盾役を頼んでいる。オレの相棒だ。
「オレ達の姫様は最近出てきてるか?」
「数日見てないね、いつもの所にいるんじゃない?」
「そうだよな……行ってみるか」
「僕も行くよ」
コーヒーをグイッと飲み干したトーマスと外に出る。目指す場所はそう遠くない。
町の中心地にある競馬場。
Cランクの馬の魔物、スレイプニルを飼い慣らして走らせる。八本脚の馬のスピードレースはこの町の数少ない娯楽だ。
「ここにいるはずだよね、どこかな」
「隅っこで廃人になってるやつがいたらそうだろ」
見渡すと、馬券売場の隅でしゃがみ込んでいる女を見つけた。
「おい、またやられたのかよ」
顔を上げた女は、目に涙をいっぱいにためて言う。
「ユーゴ、お願い……ご飯奢って……もう二日何も食べてないの……」
「お前もうギャンブル止めたほうがいいぞ。向いてないって。何回言わすんだよ!」
オレ達行きつけの食堂。
目の前の女は、二日ぶりの食事に泣きながらかぶりついている。
「飯が食えなくなるまで金つぎ込むって、どんな生活してんだよ……」
「私の生き甲斐なんだ。口出さないで欲しいね!」
「お前……恩人になんて口の聞き方だよ。もう奢ってやらねーからな」
「いや、ごめんなさい。またお願いします」
「負ける気満々じゃねーかよ!」
「ははっ、エミリーは探しやすいからいいよ」
このギャンブル狂いのエミリーは回復術師。少しウェーブがかった栗色の髪が可愛らしい。
私生活は散々だが、同じBランクの冒険者だ。年齢は知らないが、多分オレ達と同じくらいか下だろう。
「ふー! 食べた食べた! 今朝たまたまクローゼットから出てきた100ブールをスッた時には、さすがの私も絶望したね」
「普通の思考能力の持ち主はその金で飯食うんだけどな……」
コイツ今まで良く生きて来れたな……。
「で? 何か用があったんでしょ?」
「あぁ、トーマスも聞いてほしい」
生き返ったエミリーを待って、話を切り出した。
「そろそろAランクを目指さないか?」
「うん、もう僕たちもこなせる頃だろうね」
「Aランクって言ったら報酬も良いんでしょ? 私は文句無いよ!」
「よし。そうと決まれば、まずは武器と防具の整備だ」
ゴルドホークは鉱山で発達した町だけあって鍛冶屋が多い。鍛冶屋街に武器屋と防具屋が揃っている。その中で、父さんがよく通っていた鍛冶屋を目指す。
「お邪魔します。ダンさん、お久しぶりです。ユーゴです」
「おぉ、久しぶりだね。シュエンは元気かい?」
「父さんは旅に出ました。ここには寄ってないんですね」
トーマスとエミリーがオレを見る。
あぁそうか、二人には言ってなかったな。
「そうか、ユーゴ君も独り立ちか。で、挨拶しに来た訳じゃないだろう?」
「はい、武具の整備をお願いしに来ました」
そう言って、武具をダンさんに渡した。
「ほぉ、これは見事な刀だね。二級品でも上位だな」
「二級品!?」
ダンさんの言葉にエミリーがヨダレを垂らす。
「おい、売らねーぞ! 父さんから譲ってもらったもんだからな!」
「チッ、分かってるよ……」
舌打ちしやがった。
金が絡んだこいつは油断ならない。今後気をつけよう。
「そうそう、気になってたんだよ。シュエンさんの刀だったのか。二級品とはすごいな」
「あぁ、若い頃に使っていた刀らしい。ダンさん、一級品ってやっぱり高いんですか」
「あぁ、こんな田舎では扱えないよ。王都でも滅多にお目にかかれない。それを超える『特級品』もあるよ。見たことも無いけどね」
「僕の剣と盾は三級品の下位だもんな……憧れるね」
特級品か……見てみたいな。
ダンさんの店には修理を頼みに来たが、武具も扱っている。
片手剣、双剣、両手剣、両手大剣が並んでいる。
片手剣は盾を装備し盾役に。
双剣はスピードタイプ。
両手剣はバランスタイプ。
両手大剣はパワータイプだ。
他にも特殊な武器が存在する。
父さんやオレが持つ刀もその一つ、バランスタイプで特に斬ることに特化した武器だ。
「刀は大陸の東にあるリーベン島の特産品だね。シュエンはそこの出身だと聞いたことがあるよ」
「あぁ、そうなんですね」
リーベン島。
父さんの置き手紙に書いてあった島だ。父さんの出身地なのか。
オレは髪が黒い。
父さん以外に、黒髪の人族に出会ったことがない。相当珍しい髪色なのは間違いない。そのリーベン島に行けば、オレのルーツを知ることができるかもしれない。
「トーマス、エミリー。オレ、リーベン島に行ってみたい」
「僕はもちろんついて行くよ。世界を見て回りたい」
「私も行くよ! 世界中のギャンブルが待ってるからね!」
エミリー……こいつは懲りないやつだな……。
「ありがとう。まずはAランクにならないとな!」
「ほぉ、Aランクに挑戦するのかい? じゃ、気合い入れて整備しないとね。明日の朝には仕上げとくよ」
「はい、よろしくお願いします!」
そう言ってオレ達は店を後にした。
◇◇◇
冒険者ギルドの受付カウンター。
ここで依頼の受注と達成報告をする。
「おう、今日は何の用だ?」
「Aランクの試験を受けたくてね」
「へぇ、もうAランクを受けるのか。お前らがCランクのガキの頃から見てるもんな」
「いいのある?」
「Aランクは……この三枚だな」
三枚とも強力な魔物の討伐依頼だ。
採集依頼なんて一つもない。
「依頼の選定が難しいね」
「混ぜてテーブルの上に伏せてよ。私が引くからさ」
「お前はこんな時まで博打かよ! いや……決められないんじゃそれもありかもな。よし、それで行こう」
三枚の依頼書を混ぜて、テーブルに並べる。
「これだー!」
一枚をエミリーが裏返す。
ロックリザード。
こいつが俺たちの相手だ。
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