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第一章 リーベン島編
修行開始
しおりを挟む次の日の朝、昨日のお膳に朝ごはんが並んでいる。
エミリーもあとに来て座った。白い米に昨日とは違う汁物だ。焼いた卵料理と一緒に食べる。素朴で美味しい。昨日の炊き込みご飯も美味しかったが、白いご飯もいい。
「おはようございます。昨晩に続いて朝ごはんまで用意して頂いて、ありがとうございます」
配膳してくれたお弟子さんに声をかける。
「良いってことよ。この家の料理は絶品だろ?」
「うん、すごく美味しかった!」
「盛り付けが美しくて、目でも味でも楽しめました」
「そりゃ良かった」
お弟子さんは微笑んで、部屋を後にした。
「そういえば、この家の女の人の服見た? キモノって言うんだって! 私も着てみたいなぁ」
「エミリーが着たら、また違う可愛さがあるだろうね」
「また買ってこようかな!」
そうだ、後日里内を改めて観光しよう。
さて準備して出発だ。
「ヤンさん、おはようございます。昨日の宴会に続き、朝ごはんまでありがとうございます」
三人でお礼を言う。
「おう、おはよう。俺も楽しかったからよ、いいってことよ。ほらよ、刀だ。今日は何するか知らねぇが、革鎧はいいだろ。武器と盾だけ持っていけ」
「ありがとうございます」
刀を抜いてみる。
凄い、全く別物だ。眩しいほど輝いている。
「良し、行くか!」
ヤンさんについて修練場に向かった。
着いた場所は修練場と言うだけあってかなり広い。少し待っていると、里長とメイファさんが来た。
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「はい!」
「里長、久しぶりです。で、なんで俺まで?」
「我が里で盾士と言えばお主であろう。こやつらに教えてやれ」
「買いかぶり過ぎだって……」
里長の前に三人で並ぶ。
「さて、お主らの現状を見るか。ユーゴ、刀に気力を纏ってみろ」
刀を抜いて気力を込めた。薄く丁寧に。
「待て、練気術はどうした」
「レンキ……? 何ですか?」
「おかしな事を言う。シュエンに教わったであろう」
「いえ、父に教わったのは、魔法と魔法剣だけです。気力の使い方も詳しくは……」
「なんだと……? 何故だ」
里長は、怪訝な顔で考え込んでいる。
「まぁよい。あやつの事だ、考えても分からぬ。では他の二人も練気術は知らぬのだな?」
「はい」
「左様であるか、では練気術から指南しよう」
里長は刀を抜き、気力を込めた。
「これが先程ユーゴがした事だ。ただ気力を刀に纏わせただけだ。気力が目に見えるであろう」
気力が薄く安定している。レベルが違う。
「次に、練気術で練った気力を刀に纏わせる」
なんだ? 何も見えない。少し柄の辺りに気力が見えるような……気のせいか。
「何も見えぬか? これならどうだ」
刀を近くの岩に乗せた。
すると、刀が食後のデザートにフォークを入れるように、スーッと岩に吸い込まれていった。
「えっ!?」
「切れ味が段違いであろう。これが練気術だ。更に鍛錬すると」
里長が片手で刀を大岩向かって構えた。
『剣技 剣風』
斬撃が大岩に吸い込まれて行った。
「この通り、斬撃を放つことも出来る」
凄い……これが刀の本来の扱い方か。
「練気術で練った気力を様々な術に使う。基礎の基礎からもう一度言おう。魔力は放つ力、気力は纏う力であることは理解しておるな。練気を魔力に乗せて放つのが『遁術』だ。簡単に言えばな」
船で見たやつだ、とんでもない威力だった。
「次に、魔力を主に使うのが回復術だ。我々は練気を主に使う治療術を扱う。回復は傷を治す力、治療は治す行為そのものだ。予後も治癒の速さも違う。治療術は回復術よりも上位の術である」
エミリーが、口を開けたまま聴き入っている。
「治療術は、全員が使えるに越したことはない、習得するが良い。補助術も練気を使うと効果が段違いだ。我々は強化術と呼んでおる。そこのメイファが我が里で一番の治療術師だ。遁術にも長けておる」
エミリーがメイファさんに羨望の眼差しを向けている。
エミリーの師匠は決まった。
「次だ。先程は練気を刀に纏ったが、盾に纏えば更に強靭な盾になる。それを周りに張り巡らせれば守護術だ」
「トーマスといったか、お主、守護術を張ってみろ」
言われてトーマスが盾を構える。
『守護術 シールドシェルター』
広範囲に張れる魔力の盾だ。
モヤモヤ紫色の膜が張っているように見える。
「では、ヤンガス」
「へぃ」
『守護術 堅牢』
蜂の巣のように六角形の透明なシールドが並んでいる。見るからに硬そうだ。
「練気を自身の周りに張る。見た目から別物であろう。分かるか?」
「凄い……見ただけでレベルが違うのが分かる」
「これは習得するのに骨が折れそうですね……」
「いや、練気術自体はそうでも無かろう。お主らは、もう既に基礎は出来ておる」
基礎が出来ている……?
「よいか、魔法は魔力を属性別にそのまま放つが、『術』と名の付くものは、全て気力を介して発動する」
メイファさんが一歩前に出て説明を始めた。
「例を出そうか。回復術は、回復用に生成した魔力に、気力を練り込んで対象に纏わせて回復する。さっき盾士のお前が張った守護術は生成した魔力に気力を練り込み、周りに形として安定させる」
「言いたいことは分かるな? お主らは知らんうちに、気力を練り込む術を知っておる。気力のみを練り上げ、扱うのが練気術である」
「里長、オレは術を扱えません……」
「魔法剣は扱えるであろう。魔法に気力を練り込んで、剣に纏わせ戦うのが魔法剣だ」
なるほど。
里長は凄く説明が上手い。
「練気術には利点が多い。一番は気力の節約である。練った気力を薄く小出しにして扱う。故にそのまま扱うのとは、使用量が格段に減る。しかも効果が数段高いのだ」
なるほど、気力も有限じゃない。
素晴らしい戦闘法だ。
「では、今までの様に魔力に気力を練り込む要領で、体の中で気力のみを練り上げてみろ」
気力のみを練り上げる……気力を意識して練る。なるほど、魔力とは違う何かが体の中でどんどん大きくなっていくのを感じる。
「出来たか? そうだな、それを右手に集めてみよ」
体中に巡る力を、右手に集めるように意識する。右手にとんでもない力が集まっているのを感じる。
「そうだ。これからその力を、それぞれの術に昇華させる鍛錬を各自ですると良い」
「すごいね……これをぶっ放したらどうなるのか、恐ろしいんだけど……」
「エミリー、これからメイファの屋敷に住込みで修行せよ」
「うん! メイファさん、お願いします!」
おぉ、エミリーが敬語使った……。
「トーマス、お主はヤンガスの家だ」
「はい! ヤンさん、よろしくお願いします」
「おう、俺は厳しいぞ。覚悟しとけ」
本当に厳しそうだ……。
「ユーゴ、お主は儂の屋敷の庭で修行だ。門の近くにシュエンの屋敷がある。定期的に手入れはしてある。そこで寝泊まりするが良い」
「分かりました!」
「今日はここまで。各自明日から励むが良い」
俺たちの修行が始まった。
◇◇◇
里長の屋敷で食事と風呂を頂き、父さんが過ごしていたという屋敷に行く。
一人で過ごすには広すぎる屋敷だ。
一通り見て回ると本棚があった。そこまで本が多い訳では無い。
その中から父さんの日記が出てきた。
オレの知らない父さんの思い出。
その日記を開いてみた。
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