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第一章 リーベン島編

基礎の基礎 トーマス編

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 ヤンさんは頑固でせっかちな人だ。でも根はすごく優しい。
 お弟子さん達もヤンさんをすごく尊敬し、慕っているのが分かる。ヤンさんは面倒見がいいんだろうな。

「おう、トーマス! お前ぇも今日からここの一員だ、戦闘の技術は教えてやる。しかしだ、大陸の鍛冶の技術、ありゃ駄目だ。お前ぇに刀の研ぎ方を叩き込む。シュエンの倅の刀、お前ぇが責任を持って整備しろ!」
「分かりました。お願いします!」
「とりあえず今日のところは休め。おい、トーマスを部屋に案内してやれ!」
「へいっ!」

 お弟子さんに部屋に案内してもらう。
 四人部屋だ、ここには七人のお弟子さんが居る。僕を入れて八人、二部屋に別れているのか。
 
 ここは、鍛冶場とヤンさんの屋敷が隣接している。ヤンさんの弟子はここに住込みで修行をしている。
 他の屋敷は女中さんが家の世話をするようだけど、ここでは弟子が家事を担当している。
 
 でも、ヤンさんはグルメだ。
 料理は奥様が指揮をとり、数人の料理人を雇っているらしい。この島の料理には興味がある。頼んで手伝わせてもらおう。

「トーマス、 相部屋のよしみだ、よろしく頼むよ!」
「はい、よろしくお願いします。分からない事ばかりなので色々教えてください」

 昨日の宴会で少し仲良くなった人達だ。

「よし、飯が出来上がる前に掃除だ!」
「「おう!」」

 屋敷内の掃除は弟子の仕事。
 部屋、廊下、トイレ。広い屋敷だ、丁寧にはできないが、毎日掃除しているから綺麗だ。
 風呂掃除だけは当番制で、最後に入った者達が掃除する決まりらしい。

「よし、配膳に行くか!」

 魚料理や肉料理、小鉢の一品料理などを膳に並べる。盛り付けが本当に美しい。
 キッチンの料理人さんに声をかけた。

「お疲れ様です。今日からお世話になっています、トーマスといいます。よろしくお願いします」
「あぁ、トーマス君ね! あの人から聞いてるよ!」

 ヤンさんの奥様だ。

「この島の料理は本当に美しいですね。僕も興味があるのですが、また調理に参加させていただくことは出来ませんか?」
「綺麗だろ? 盛り付けはここの料理の命だよ! 興味があるのかい? いつでも厨房に来るといいよ!」
「ありがとうございます」

 配膳を終え、今日も宴会が始まった。
 毎日がパーティだ。二日酔いには気をつけよう。

  
「今日の風呂掃除担当は俺達だ! 最後に入って、ササッと済ませて早く寝よう」

 風呂で一日の疲れを癒やす。
 良い香りだ。
 
「ユウロンさん、この湯船に使われている木は何ですか?」
「こりゃヒノキだ、いい匂いだろ?」
「はい、本当に落ち着く香りです」
「俺もこの時間が一番の癒やしだ……」

 さっき知ったんだけど、同部屋のユウロンさんはヤンさんの息子らしい。
 息子とはいえ特別扱いはしない。
 ヤンさんらしい。

「よし、風呂掃除して出るか!」

 ヒノキの浴槽にお湯を張ったままだと、ヌメリの原因になるらしい。その為、最後に入った者が掃除する決まりになっている。
 女風呂もそういう決まりだ。

 一日が終わった。
 明日からは修行に鍛冶仕事、屋敷の掃除に大忙しだ。
 

 ◇◇◇
 

 弟子の朝は早い。
 鍛冶場の準備をしてから、朝ごはんの配膳だ。僕達はその後に朝ごはんを頂く。

「よし、トーマス! 少ししたら準備して修行だ! 派手な事はしねぇからウチの庭でいいだろ」
「へい! 分かりました!」
「お前ぇ、ウチの弟子らしくなってきたじゃねぇか!」

 ヤンさんはガハハと笑って準備に行った。
  

 
 ヤンさんの屋敷の庭だ。
 見たことのない綺麗に整えられた木が美しい。とても広い庭だ。

「昨日の里長の話は覚えてるな? 里長は刀に練気を纏ったが、お前ぇは盾に纏うだけの話だ。俺ぁ細けぇ話は苦手だ、話しぃ思い出してとりあえずやってみろ」

 よし、まずは体中の気力を練り上げるんだったな。
 それを盾を持つ左手に集める……よし、いい感じだ。

「よっしゃ、それを盾に練り込む様に纏うんだ。薄く伸ばすように盾全体に纏わせろ」

 盾に練り込む様に……体の中で練り込むのとは段違いだ。体の外に出すのがすごく難しい。
 ゆっくり盾に練り込むイメージで体から出す。

「駄目だ……これは一筋縄じゃ行かないですね」
「あぁ、これさえできりゃ、守護術なんて出来たも同然だ」
「頑張ります!」
「今頃ユーゴの奴も手こずってるだろうよ。あんまり気張り過ぎんじゃねぇぞ。じゃ、俺ぁ鍛冶場に居るからな、何かあったら声掛けろ」
「分かりました!」

 これを盾に張ることができれば、僕はもっと強くなれる。
 

 ◇◇◇

 
 夕方なった。
 駄目だ……少しはマシになった気もするけど、まだまだ遠い……。

 気力を使いすぎてヘトヘトになったとき、ヤンさんが見に来た。

「何だお前ぇ、まだその程度かよ。それの他にも刀研ぎが有るんだからよ、サクッと習得しちまぇよ。まぁ、今日は安め。ご苦労さん」
「はい!」

 僕は才能無いのかな……。
 頑張らないと二人に迷惑がかかる。

 疲れていても関係ない、今から家事仕事だ。

 一通り仕事を終え、食事を済ませ風呂に入った。今日は、お風呂掃除の当番じゃないから早めの就寝だ。

「トーマス、どうだ? 修行に家事仕事に大変だろ?」
「ユウロンさん……僕は元々、盾士の才能がなかったのかもしれないです……Aランクになって調子に乗っていたのかもしれません……」
「お前……何言ってんだ……? 俺なんて練気術を習得するのに二ヶ月かかったんだぞ……更に練気を盾に纏うのに半年だ。お前言われただけで直ぐに練気術出来たんだろ? だったら俺は相当な能無しじゃねぇか! 勘弁してくれよ!」

 慰めてくれる人が居るって心強いな……。

「ユウロンさん……ありがとうございます」
「……ん? いやいや、慰めてるんじゃねーんだよ!」
「僕、頑張ります!」
「ぉ、おぉ……がんばれよ……」

 ゆっくり寝て気力を回復させないと。
 明日から頑張ろう!
 
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