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第二章 大陸冒険編

一年ぶりの依頼

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 次の日の朝。
 里の中心地、里長の屋敷の前。皆がオレ達三人をわざわざ見送りに来てくれた。
 トーマスは刀を砥ぐための砥石を受け取り、エミリーに渡した。エミリーはお女中さん達と何度も抱き合って泣いている。


「お前ぇらの戻るところはここだ。いつでも帰ってこいよ!」
「そうだな、私達はお前らの家族だ」
「うむ、気をつけてな。ほれ、仙王への手紙だ。門番にでも渡せば話が通るであろう。前も言うたが、里の一大事には手を貸してくれ。では行って来い!」

「はいっ! 行ってきます!」

 手を振る皆を背に港まで駆ける。エミリーは泣きながら走っている。一年前は馬でここまで来たが、今は走ったほうが速い。
 里の思い出を噛み締めながら走った。すぐに港に着いた。

「エミリー、まだ泣いてんのか……」
「だって……あんなに家族みたいに仲良くしてもらった事無いんだもん……」

 そうだな。
 エミリーは幼少期から周りを気にしながら生活してきたんだ。楽しい一年間だったんだろう。

「さて、どうする? 船に乗るか、駆けて行くか」
「空中散歩で行ける距離だとは聞いたけど、方向は分かる?」
「方向は分かるよ。ほら、見えてる」
「あ、ホントだ」

 三人で空に駆け上がった。

「たまに海竜が顔出すね! 懐かしいな」
「ほんと、あの術を自分たちが習得するとは思わなかったよ」
「お、見えたな。一年ぶりのルナポート。エミリーはボートレースか?」
「あったりまえよ! 賭場お預けだったんだからね!」

 思ったよりもすぐに着いた。

「ボートレースいってきまーす!!」
「おい! せめて昼飯!」
「前回忘れてたもんね……二人でお昼にしようか」

 一年前と同じで今は初夏だ。

「やっぱり里とは捕れる魚が違うんだなぁ。こっちはこっちで美味いな」
「うんうん、醤油も味噌もあるから里の料理はいつでもできるよ。魚以外だけど」
「オレも厨房に入って色々教えてもらったんだ。また作ろう」

 さて、エミリーはいないけど今後の予定を立てよう。

「まず目指すはレトルコメルスだね。そこから南に行けば『仙神国オーベルフォール』だよ」
「オレ達の脚なら、レトルコメルスまでは三日もかからないか?」
「そうだね。三日あればつくと思うよ」
「まずはレトルコメルスで、Sランク冒険者に昇格しとくか!」

 一年間ですっかり変わった味覚にルナポートの料理は新鮮に感じた。海の幸を腹いっぱい楽しんだ。

「そう言えば、エミリーと待ち合わせ場所決めてないね」
「ボートレース場に行ってみるか」

 ボートレースは小さな湾で開催されている。この為に作られたかのような綺麗な楕円形の湾内。口が狭く波も少ない、周りを囲むように客席が設けられている。

「オレも賭けてみようかなぁ?」
「良く分からないけど、エミリーがハマるくらいだし、やってみようか」

 ここが舟券売場か。
 んー、サッパリ分からん。

「オッズってなんだ?」
「倍率かな? 賭けたお金がこの倍率で増える感じじゃない?」

 なるほど、百倍超えてるのもあるな。
 2と6が人気らしい。
 
「二連単ってのに一万ブール賭けてみよう。2ー4だ! 11倍だって」
「僕は一万ブールを6ー3だ! 13倍か」

 舟券を勝って観客席に。
 一万ブールって賭けすぎたかな……まぁいい、金はある。

 各船が走り出した。スタートラインに向けて加速する。
 凄い、各船ほぼ同時にスタートを切った。

 おっ、2が先頭に出た。これと4が来ればいいのか。変わらず2が先頭、6と3が続いて4が来ている。
 お? 6と3が接触して4が出てきた!
 トーマスが頭を抱えてる……。
 そのまま2ー4でゴール!

「ぃよっしゃー!! 11万ブゥール!」

 ビギナーズラックというやつだ。

「今晩はオレが奢るわ!」
「凄いねユーゴ。有り難く頂こう」
「さて、いい時間だ、エミリーの魔力は……向こうか」
 

 三角座りでうずくまってる…… いつものやつだ。

「エミリー、聞かなくても分かるけど……」
「私のお金……返して……」
「いくらやられた?」
「無一文に……なりました……」
「え……? 50万ブール以上持ってたよな? どんな賭け方したら半日で一般労働者の10年分無くせるんだよ!」

 オレ達もやってみたから分かる。
 コイツの賭け方は異常だ……。
 
「まぁ、晩飯奢ってやるから元気だせよ。オレは10万ブールのあぶく銭を手に入れた」
「え!? 勝ったの?」
「おう、勝者からのアドバイスだ。賭けるのは少額にしなさい。1万ブールを少額と言うのはどうかとは思うが……」
「晩ごはんとホテル代、お世話になります」

 エミリーはオレに平伏した。

 晩飯は贅沢に。
 大きなエビや高級魚を高級なワインで流し込み、高級ホテルに三人で泊まってあぶく銭を使い果たした。
 特にギャンブルにハマる事はないかな……たまにでいい。

「無一文も二日三日の我慢だよ。Sランク試験で儲かるから」

 島の外での一年ぶりの就寝、イグサの匂いのない寝床に少し違和感を感じたが、すぐに眠りについた。
 

 ◇◇◇


 次の日の朝、高級ホテルの高級朝食を食べて出発だ。美味しいご飯とお金の当てが出来て、エミリーの機嫌も戻った。

 
 次に目指すレトルコメルスまでは、今のオレ達の脚では三日もかからないだろう。
 明後日の昼前後にはつく予定だ。

 朝から練気術の高速移動で走り続ける。
 懐かしい馬の魔物、スレイプニルがいる。

「今晩は馬肉にするか!」
「そうしよう! 生レバー!」

 練気銃で眉間を撃ち抜いた。
 練気銃は空を駆ける練習でたまたま出来た術だ。オレのオリジナルだが下位の魔物には使い勝手がいい。

 一日走って夜になった。いい感じの河原で野営だ。
 トーマスに晩飯の準備、エミリーに就寝用のテントの設営を頼み、一年ぶりのテントサウナに火を入れる。さっきたまたまトレントを見つけて薪をゲットした所だ。

「サウナが温まったぞ。水着に着替えて入ろう!」
「もう着替えてるよ!」

 エミリーはテントの設営を水着でしていたらしい。まぁ、暑いからな。

「おい、エミリー……」
「ん、何?」
「お前……胸大きくなったんじゃないか……?」
「あぁ、そうなんだよ。ロックリザードの革鎧が日に日にキツくなってきたから、コカトリスの鎧になって良かったよ。ヤンさんがエロい目で採寸してたけどね」
 
 何てことだ……たった一年でここまで成長するとは。
 そう言えばヤンさん、エミリーみたいな女が好みだって言ってたな……。

「やっと私の魅力に気付いたようだね! 二人共、鼻の下伸ばして見るがいいよ!」
「いや、そこまででは……」
「なんでだよ!」

 うん、そこまでではない。
 
「僕ら偶然にも同い年だもんね。同じように成長していくんだね。エミリーがミオンさんを超える日が来るよ、多分……。コカトリスの革は修理用に貰ってるから、サイズの変更は任せてよ」
「ふふっ、背も少し伸びたからね。お母さんはおっぱい大きかったしね!」

 威張って張った胸が膨らみを帯びている。
 オレ達、長寿命族は人族よりも成長速度が遅いのかもな。エミリーは幼女期を脱したのかもしれない。
 
 一年ぶりのサウナと馬肉料理を楽しんで、トーマスと代わりで見張りをして一夜を過ごした。


 ◇◇◇ 
 
 
 早朝に出発してもう一泊野営を挟み、予定通り昼前には到着した。
 

 交易都市レトルコメルス。
 一年ぶりだ、苦い思い出が蘇る……。

「疲れもなくいい感じだ。旅の進度が全然違うな」
「まずは予定通り、ギルドでSランク試験を受けようか」
「私にお金を! カジノの軍資金を!」

 そういえばゴルドホークを出てから冒険者ギルドに入るのは初めてだ。規模が違う、冒険者の数が多い。その分依頼も多い。

「これは悩むなぁ」
「あ、ロックリザード三体討伐ってのがあるよ?」
「簡単過ぎるのもなぁ。張り合いがないなぁ」
「お? SSランクだって。そんなのあるんだね。ゴルドホークでは見なかったな」

 なんと、Sランクの上があるのか。
 その称号、是非欲しい。

「内容はどんな感じ?」
「フェンリルだって。神話の魔物だよこれ」
「達成条件は?」
「フェンリルの牙、爪、毛皮だね。人数は……書いてないな。カウンターで聞かないとだね」
「三人で討伐するような魔物じゃないのかもな……」
「いいんじゃない? 私はどこでもついていくよ!」
「今から腹ごしらえして、往復と討伐しても夜には戻れるね」
「じゃ、それにするか」

 受付カウンターに依頼書を持っていった。

「おい……あんたら見たところ若いが、本当にフェンリルでいいのか? コイツぁやばいぞ?」
「ヤバいとは?」
「東北の森に居座ってるんだが、討伐に行ったやつが全員帰って来ねぇんだ。もう十年以上そのままの依頼だよ」
「だからこそのSSランクなんだろうな。アドバイスはありますか?」
「俺みたいな受付が言えることなんてねぇよ……」

 そりゃそうか。
 まぁ、ヤバかったら逃げよう。

「じゃあ、SSランクのランクアップ試験もお願いします」
「あぁ、試験なら全員Sランク以下で五人以下のパーティでの討伐だな。まさか三人で行くのか……?」
「まぁ、三人しか居ないんでね」

 ランクアップ試験の受付を終えた。 
 
 
 軽く腹ごしらえして依頼の場所に走って向かった。少し遠いがオレ等の脚では大したことはない。すぐに着いた。

「えぇぇ……とんでもない魔力がダダ漏れなんだけど……」
「どこにいるかなんて目をつぶってても分かるね……」
「気を引き締めるか、こんな獣に手こずるようじゃこの先が思いやられる!」

 前方に巨大な狼の魔物を発見した。鼻と口から禍々しい魔力が漏れ出ているのが目に見える。
 あれがフェンリルだな。

「よし、強化術はいいか? 武器と防具にも練気は纏ったな?」
「大丈夫」
「中距離攻撃と治療はまかせてよ」

「行くぞぉー!!」

 SSランクの魔物との戦闘が始まった。
 
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