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第二章 大陸冒険編

リーベン島に帰省

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 王都を出て三日、フドウの里に到着した。

「まずは里長の所に行くか」
「そうだね!」

 里の中心部、里長の屋敷に飛んだ。
 門番は顔見知りだ。

「あれ? ユーゴ、おかえり」
「ただいま! 里長は?」
「あぁ、執務室だと思うよ」

 執務室に向かう。

 コンコン

「入れ」
「失礼します。帰りました、里長」
「お主ら……あれだけ盛大に送り出したのに、一月もせず帰ってくるとはの……」
「いや……そうですよね……」
「ユーゴ、右眼はどうした?」
「朝起きたらこうなってたんです」
 
 里長に夢の話をした。

「神眼とな。夢の話を鵜呑みにするのもどうかとは思うが。眼の色が変わっておるのだ、無視はできぬな……で、何か用で戻ったのであろう?」
「あぁ、オレたち仙神国に行ってから、仙王様の孫と一緒に旅してるんです。仙族の戦闘法を練気術に組み込んだところ、とんでもなく戦闘能力が上がりました。仙族も練気術を取り込むと、同様の効果を得ました」
「ほう」

「そして、王都で魔族と出会い、魔族の戦闘法を教わり更に戦闘力が増しました。それを里の皆に伝えれば、里の戦力の増強になると思い戻りました」
「なるほどの。では見せてもらおうか」

 里長と共に庭に出る。
 ずっと修行してた場所だ、懐かしい。

「まず、仙術の基本は呼吸法にあります」

 自然エネルギーの取り込み方を里長に説明した。

「なるほどの。この風エネルギーとやらで浮遊するわけか。練気に混ぜるとすれば、量を間違えてはならんようだ」

 そう言って、里長は普通に浮いた。
 やっぱり凄いなこの人は……。

「遁術に自然エネルギーを混ぜると、更に効果が段違いに上がります」

 里長は右手を見ている。
 自然エネルギーを遁術に込めているんだろう。

「ほう、これは凄いな。こんなところで放つわけにもいかぬ。ナグモ山へ行こう」

 そのまま山へ飛んだ。里長はもう浮遊術を我が物にしている。
 センスの塊だなこの人は……。

「浮遊術は素晴らしいな。しかし、練気でなければここまでの速度は出まい」
「そうですね、仙族もそう言ってました」

 蜘蛛から牛の頭が生えた魔物、懐かしのギュウキだ。

「よし、自然の風エネルギーを風遁に取り込んでみよう」

『風遁 風刃』

 牛鬼が一瞬で真っ二つになった。
 全く見えなかった……凄いな。

「ほう、これは素晴らしい」
「次は魔族の戦闘法です。練気のボールに風遁を詰め込んで圧縮します。それを開放です」
「圧縮からの開放か。なるほど」

 里長は練気のボールに風遁を一気に詰め込んだ。それを前方の牛鬼に放った。

『風遁 鎌鼬』

 オレ達とはレベルが違う。
 一瞬で牛鬼を斬り刻んだ。

「すっごいね……」

「なるほどの、種族間の戦闘法を混ぜるとこうも術の威力が上がるのか。これは良い」

「次は、この全てを用いた魔法剣です。刀に纏った練気を一つのボールだと思ってください」
「そうか、刀身と纏った練気の間に遁術を詰め込むのだな」

 里長の倶利伽羅刀くりからとうが風遁を纏った。

『剣技 剣風』

 とんでもない剣風が木々を斬り倒し、岩山に突き刺さり、岩山の上部が落ちてきた……。

「おぉ……ユーゴよ、これは恐ろしい剣技を作ったものだな……」
「里長のはレベルが違いますねやっぱり……」
「よし、屋敷に戻り、皆を集めよう」

 
 屋敷に戻り、里長は幹部を夕方に修練場に集める手配をした。

「もう一つ、お使いを頼まれて持ってきたんです。仙王様からです」

 通話システムの通信機だ。
 里長に理解してもらえるかが心配ではある。

「何だこれは?」
「離れたところにいる人と会話ができる機械です。ウェザブール王都の女王が開発したそうです」
「ほう、これをなぜ儂に?」
「仙王様が、龍族と連絡を取りやすくするために渡しておけと言われ、オレが持ってきました」

 里長だけだと心配なので、娘のリーファさんに来てもらった。
 軽く仙術の基礎を教え、通信機の概要を説明した。
 

「なるほどね、私は理解したよ」
「ふむ、よく分からぬ」
「仙王様と通話してみますか」

 仙神国に通信を飛ばした。

「はい、仙神国です」
「こちらはリーベン島の龍王です。仙王様に取次ぎお願いします」
「少々お待ち下さい」

 通話機を里長に渡した。

「ラファエロだが」
「おぉ、仙王か。儂だ」
「龍王か、久しいな。これで何かあれば連絡が取れるということだな」
「うむ、儂はよく使い方が分からぬが、娘が理解した」
「心配するな。我も分からん」

 心配するなってなんだよ。

「ユーゴがそちらにおるのだな? ジュリアとトーマスはもうこちらについておる」
「そうですか。オレもまた行きますね、仙王様」
「あぁ、待っている。ではまたな、龍王」
「うむ、何かあれば連絡する」

 これで仙族、龍族、人族が繋がった。
 
「凄いなこの機械は」
「はい、天才ですよね」

 
 ◇◇◇

 
 夕方になり、修練場に里の幹部が集まった。

「エミリー、ユーゴ、えらく早いお戻りだな」
「トーマスはどうした?」
「トーマスは仙族の仲間と二手に別れて、仙神国に行きました」

 続々と皆が集まった。

「皆に集まってもらったのは、ユーゴとエミリーが仙族と魔族の術を持ち帰り、練気術をさらに昇華させたからだ。今から披露するゆえ、持ち帰って部下に展開させて欲しい」

 皆の前で実演した。
 皆が感嘆の声を上げている。
 

「これは凄いな」
「皆が空中戦に参加できるな。空を駆ける龍族は急な方向転換もできるからな。相性がいい」
「遁術や剣技の威力が桁違いだな……」

 
「皆、ある程度は習得できたようだな。では持ち帰って指導を頼む」

 
 皆は帰っていった。
 オレ達の仕事は終わった。

「奥様! さっきの仙族と魔族の戦闘法で、治療の新術ができたんです。SSクラスの魔物にかけたんだけど、魔力障害と意識障害が無くなって凶暴性が収まったんです」
「ほう、凄いなそれは。シュエンもあれは魔力障害ではないかと思っている。それを治せるかもしれんと言うわけか」
「はい、奥様と術の改良ができないかなと思って!」

 確かに、メイファさんと一緒に開発したら更に精度が上がりそうだ。
 
「二人共、泊まって帰るのであろう?」
「そうですね。少しゆっくりして帰ります」
「エミリー。家事仕事はいいからうちに泊まれ」
「はい、みんなと会いたいし!」
「ユーゴはうちに来い、大歓迎だ」
「はい、お願いします」
「トーマスにも、また帰って来いって伝えといてくれよな!」

 
 ◇◇◇

 
 里長の屋敷で食事をしている。
 一月足らずしか離れてないのに、すごく久しぶりに感じる。里長と二人で膳の刺身や煮物を楽しんでいる。

「里長、特殊能力って何なんですかね」
「そうだな、皆が持っているものではない。生まれ持っている者や、突然習得する者もおる」
「里長は持ってるんですか?」
「うむ、一応はな。自ら喋る様なものではない故、普通は言わぬがな」

 里長もあるのか。
 凄いもの持ってそうだな……。

「この眼の色が変わったときに見た夢の中では、オレの龍眼は特殊能力で、時を止められるようになるらしい神眼ってのは、眼の力だって言ってましたね」
「左様か。仙族の青い眼のような物かの。奴らは空間魔法以外にも能力を開眼する者がおる」

「あ、オレこの眼になって空間魔法使えるようになったんですよ。仙人は使えるらしいんですけどね」
「なんと? 仙族に関わる様な眼ということか。まぁ、人族はもともと仙族である。不思議ではないが……なぜ緑ではないのかが分からぬな」

 里長と酒を飲みながら遅くまで話した。
 明日はレトルコメルスに帰る。
 早く寝るか。
 
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