上 下
78 / 177
第二章 大陸冒険編

王都の厳戒態勢

しおりを挟む

 冬が終わり、春が来た。
 オレ達は二人の王に呼び出されている。

「珍しいな、なんだろう」
「そろそろ出ていけとか……?」
「とりあえず、レオナードの所に来いってことだ」

 王の間に向かう。
 扉を開けると、玉座の隣の部屋に案内された。
 二人は紅茶をすすっている。しかし、その表情は固い。

「あぁ、来たね。うちのローシーの住み心地はどうだい?」
「おはようございます。すみませんレオナード王、長いこと居座ってしまって……」
「いや、いいよ全然! うちに来いって言ったのはちゃんボクだからね」

「で、何か用があるんだろ?」
「まぁ、とりあえず座ってよ」

 オレ達の前に紅茶が運ばれてきてから、レオナード王が話し始めた。

「鬼国ソウジャが落ちたよ」
「え……?」
「例の魔人達が、鬼王イバラキを討った」
「たったの三人でですか……?」
「いや、鬼人の封印を解いたらしい」

 レオナード王が普通に喋ってる。
 事の重大さが分かるな。

「鬼国は魔人達にくだった。残った鬼族は魔人達の傘下にあるってことだ」
「これから奴らは、本格的に動き始める可能性があるね。みんながウチの軍隊を鍛えてくれてて良かったょ」
「そうだね、部隊長を中心に相当戦力が上がっているよ。練気術は人族の戦闘を変えたね。今じゃ普通に仙術を使っている。もちろん、ちゃんボク達も習得したよ」

 ドアが開いた。

「あれ? モレクさん?」
「失礼するわね」
「あぁ、ウチが呼んだんだょ。モレクは対魔族の戦闘指南をしてくれてるょ」
「えぇ、マモンを止めたいの。その為なら協力は惜しまないわ」

 モレクさんにとって、マモンは自分の子のような存在だ。協力を願い出てたのか。

「ラファさんも呼んでいるよ。数日すれば着くだろう。龍族にもラファさんから連絡してもらった」

 里長の所にも連絡がいってるのか。
 精鋭をよこすかもな。
 
「マモンはこの勢いで魔都シルヴァニアも落とす可能性があるわね。母親である魔王リリスには憎悪を抱いてるから」
「そうなれば、相当な戦力になりますね。素直に従えばの話ですけど」
「リリスは強いけど、どうしようもない暗君よ。マモンがそれを討ったら皆が従う可能性は高いわね」 

「レオナード、アタシ達はどうすればいい?」
「そうだな、有事の際には手を貸してほしいな」
「あぁ、もちろんだ」
「パラメオントドラゴンを倒すようなパーティがいると、ウチらも心強いょ」
 
 この日から、王都には厳戒態勢が敷かれた。


 ◇◇◇
 
  
 五日後、仙王と仙族の精鋭が到着した。
 
 その次の日、里長率いる龍族の精鋭が到着した。

「里長自ら来られたんですね」
「うむ、里の守りはカイエンとコウエン達で事足りる。それ程までに仙術を取り入れた儂らは強くなった」

「奥様! 長旅お疲れ様でした!」
「あぁ、久しぶりに島を出たよ」
「おぅ、トーマス。久しぶりじゃねぇか!」
「親方も! お久しぶりです!」
 
 王都の幹部と仙族、龍族が集まる中、オレたち四人も招かれた。
  
「まず、龍王よ、遠路はるばる来てもらって悪かった。礼を言う」
「何を言う、そちらの有事の際には手を貸すという約束だ」

 仙王は里長に一礼して、話を始めた。
 
「皆に集まってもらったのは、例の魔人達の動向について知ってもらう為だ。奴らは鬼国を落とした。その勢いで、今は魔都シルヴァニアを落とそうとしている」
「お主はそれがのであったな」
「あぁ、そうだ。この中でそれを知っている者は僅かだが、この際言うても構わんだろう。我は『千里眼せんりがん』と呼んでいる眼の力がある。同族の青い目を通してその視界を視る事ができる」

 どういう事……?
 この中の半分以上は知らないみたいだな。

「説明が必要か? 魔人の元にはアレクサンドがいる。我は、奴の視界を共有して視る事ができる。アレクサンドはこの事を知らん。奴らは今魔都シルヴァニアの方面に進んでいる。声などは聞くことが出来んのが残念ではあるがな」

 なるほど、ジュリアやエミリーの視界も視る事ができるのか。それで仙王は、まるで自分で見たように話すことがあるんだな。
 初めて会った時、何かを言いかけてやめた事があったな……あれは多分アレクサンド達の居場所だ。まだ敵わないって事で言わなかったんだろうな。
 納得した。

「魔都を落として何をしようとしているのかは分からん。ただ、ここに攻め入る可能性はある。故に皆に集まってもらった」
「ラファちゃん、ユーゴ達の指導でウチの軍隊は相当強くなったょ。そして、数ではウチが圧倒してる。人族までが仙術を駆使して戦うからね」
「そうか、軍の士気も上げておかねばな。また何かあればすぐに連絡する。それまではこの城でゆっくりしてくれ」

 仙王からの現状報告が終わり、解散した。


 ◇◇◇
 

 オレ達がお世話になっている塔の客室に、龍族の幹部が案内された。

 
 今から食事だ。

 円卓にはオレたち四人と、里長、メイファさん、ヤンさんとそれぞれの直属の部下が一名ずつだ。皆オレ達も顔見知りだ。

「ジュリアは仙族の方に行かなくていいのか?」
「あぁ、今アタシはお前らの仲間だ。こっちにいるのが普通だろ?」
 
「あんたがエミリーの恩人の仙族か! 俺の刀ぁ気に入ってくれたか?」
「あぁ、素晴らしいよあれは。今は刀を振る方が多いくらいだ。ありがとう」
「そりゃ良かった! で? この食いもんはどうやって食べるんだ?」
「あぁ、ナイフとフォークは外側から使います」
「おい、箸はねぇのか! 食いにくくて仕方ねぇ!」

 ヤンさん……やっぱりそうなるか……。
 メイファさんはさすが上品だ。理解して普通に食べてる。

「おいヤンガス、食わせてもらってんだ。文句を言っちゃぁいけねぇ。皆黙って食ってんだ」
「そうは言うけどよ親父、こんなもんで刺しても口に入らねぇよ」

 里長の直属の部下は、ヤンさんのお父さんだ。
 シャオウ・リー。
 里長の昔からの側近らしい。
 
 皆もヤンさんみたいに口には出さないが、不満そうだ。
 食器の指導が必要だな……。
 

「美味かったが、食った気がせんかったの」
「毎日食べてれば慣れますよ。オレらもそうだった」

 食事を終え、皆で紅茶を飲んでいる。
 
「そうだ、親方。これみてくださいよ」

 トーマスはパラメオントドラゴンの防具を広げた。

「おぉ……こりゃ見事な革だな……いい職人見つけたみてぇだな、素晴らしい出来だ。この金属は何だ?」
「そうでしょ? いい職人紹介して貰えて良かったです。それは仙神国の加工金属です、軽くてかなり丈夫なんです」
「ほぉ……こりゃ俺も欲しいくれぇだ……」

 ヤンさんが感嘆するほどの防具らしい。
 確かに素晴らしい、これ以上は考えられない。

「そうだヤンさん、トーマスがとんでもない守護術を編み出しましたよ!」
「とんでもねぇ守護術だと?」
「はい、守護術に防具の特性を写したんですよ! 守護術に薄くヤマタノオロチの鱗が見えてるんです」

「……なんだと? トーマス、やってみろ」
「あぁ、はい」

 トーマスはヤマタノオロチの盾を構えた。

『守護術 堅牢』

「本当だな……」
「トーマス、お主……これは凄いぞ……こんな術聞いたこともない。能力の名をお主が付けて良いのではないか?」
「あぁ、確実に何らかの特殊能力だな……いや、眼の力か。どっちにしろお前ぇ盾士として完成しつつあるな」
「ほんとですか? ありがとうございます!」

 やっぱり凄い能力だったんだな。
 あの災害級の魔法を完璧に防いだんだ。
 
「あ、そうだエミリー。頼まれてたもん作ってきたぞ! 注文通り細めに作っといた」
「ありがとうヤンさん! また取りに行こうと思ってたけど、ちょうど良かったよ。お代は?」
「要らねぇよ! 絶対ぇ受け取らねぇからな!」
「いつもすみません……」

 四本の苦無くないだ。
 今エミリーは二本の苦無を持っている。
 全部で六本、どうやって使うんだろうか。

「すっかり苦無使いだなエミリー」
「はい、いい武器を貰いました。ありがとうございます奥様!」
 
「エミリーは足止めの術を苦無に纏わせて、この防具の魔物に突き刺したんですよ」

「……待て、これに苦無を突き刺したのか……?」

 メイファさんが見たことない顔で驚いてる。
 無理もない。
 
「はい! 刺されば動きをとめられるかなって。刺さってよかったです!」
「エミリー、ミモロ山の大蛇にも苦無を貫通させてたもんな」
「あれに貫通させたのか……? おいおい……苦無はそこまでの武器じゃないぞ……エミリー、お前まさか皮膚の弱い部分が視えてるんじゃないか?」
「視えてるというか、分かると言うか……説明が難しいけど……」

 なんだ?
 メイファさんが考え込んでる。
 
「……それで分かった。お前が編み出した『快癒』だが、私が扱ってもお前程の効果を得られん。お前、然るべき患部に直接術をかけているな?」
「どうなんでしょう……自覚は無いですけど……確かに、奥様から教わった解毒も神経毒には効きにくいって言われてたけど、コカトリスの毒霧に有効でしたね」
「コカトリスの神経毒はアタシ達も苦労したな。五人がかりでやっと倒した上に、三日間寝込んだよ……あれは毒霧の厄介さでSSランクに指定されている。確かにかなり厄介だった」

「……そうなのか。あれ、SSだったのか……能力の相性が良かったんだな。エミリーは一瞬で解毒してたよな」
「まぁ、ユーゴが龍眼で早く気付いたってのもあるけど、すぐに動けるまでに回復してくれてたね」

「エミリー、お前は何らかの眼の力を開眼してるな。治療術師としてかなり相性のいい能力だ。しかも、苦無等の中距離攻撃とも相性がいい」
「私、強くなってるんですね!」
「いや……強くなりすぎているぞ……」

 そういえば、エミリーが術や攻撃を外したのを見たことがないな。
 
 師匠達がベタ褒めだ。
 皆が特殊能力や眼の力を得ている。
 オレたちはかなり強くなっている。
 
  
 ◇◇◇


「そうだ、ここは男女の風呂っていうのが、無いんですよ。混浴なんです」
「なんだと……? 大丈夫なのか……?」
「私は構わんが、見られてどうなる訳でもない」

 メイファさんはジュリアタイプだな……。



 皆で風呂に行く。

「なるほど、ここで身体を洗ってから露天風呂か」

 里長は無駄のない身体をしているな、しなやかな筋肉だ。

 ヤンさんはムッキムキだ。
 いつも槌を打っている右腕が異常発達している。

 メイファさんは……隠そうともしない。
 人族で言うところの40代くらいだが、身体に張りがあって美しい。
 メイファさんの娘さんも綺麗だなぁ。

 男たちがソワソワしている。

「おい、何だこれは。女達が堂々としすぎて儂らはどこを見れば良い……」
「まぁ、眼福ではあるけどよ……」

「次からは時間をずらしましょうか……」

 龍族の皆との王都生活が始まった。
 
しおりを挟む

処理中です...