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第三章 新魔王誕生編
三連符
しおりを挟む「おいおいオカマ野郎、俺たちを一人で相手するつもりなのか? 早くこいつを始末してあの美人と遊ぼうぜ。あとはモヤシ野郎だけなんだからよ」
三人でヒャッヒャと笑っている。
こいつらの死は決定ね。
「さて、ワタシをいたぶりたいんでしょ? 路地裏に行きましょうか」
「おぅ、分かってるじゃねぇか。大通りで殺しをするのは後々めんどくせぇ」
人も通らない建物の間の路地に入っていく。
「アナタ達は冒険者なの?」
「喋るなよ、笑っちまうじゃねえか!」
「ヒャーヒャッ! おいおい、質問には答えてやれよ! 俺らは『三連符』の構成員だ。けど、Bランクのカードは持ってる。オカマさんよ、Bランク三人を一人で相手するんだぜ? 今なら土下座で許してやるよ。笑わせてもらったからな」
たかがBランク程度でよく突っかかって来たものね。
「土下座? する訳ないじゃない。剣を抜いても構わないわよ、かかって来なさい」
「おいおい、オカマ野郎ごときに剣なんて抜く訳ねぇじゃねえか!」
そう言ってリーダー格の男が前に出て拳を構えた。息をフッと吐いて殴りかかってくる。
遅い。
相手の強さを測れないってのは惨めね、酔っ払ってるってのもあるのかも知れないけど。
全て避けてカウンターでフックを顔面にお見舞いした。そのまま馬乗りになって顔の形が無くなるまで殴り続ける。
「あら、この弱さで絡んでくるなんてアナタ達はバカなの? 鬱憤晴らしにもなりゃしないわ」
二人は恐怖の表情で見ている。
これは逃げるわね、瞬時に移動して退路を塞ぐ。
「逃がさないわよ。酒を言い訳にしない事ね」
「まっ……待て! 俺たちを殺したらあの人達が黙ってねぇぞ!」
「あの人達? へぇ、面白そうじゃない。一人だけ逃がしてやるわ。あの人達とやらに報告してきなさい」
一人の脚を風魔法で斬り落とし、意識が無くなるまで殴り続けた。
もう一人は悲鳴を上げながら逃げていった。
後ろに何かいるわね、いいオモチャができればいいけど
バーに帰ると二人は談笑している。
「あぁ、早かったね。終わったかい?」
「えぇ、あんなの殺したくらいじゃ気が晴れないわ。何者かが後ろにいるみたいね、あの人達が黙ってないとか言ってたから。トリプレットとか言ってたけど、それで気が大きくなってたんじゃない?」
「こういう大きな街では、マフィアが幅を利かせてるね。トリプレットとやらもその内の一つじゃないか? そういう奴らにケンカ売るのも暇つぶしにはなるだろ。サランの父親達のような組織だ」
「良いわね、楽しめそうだわ。一人逃がしといたからあっちから来るだろうし」
その後は三人で楽しく酒を楽しんだ。
少しは気が晴れたわね。
◆◆◆
朝起きてホテルの朝食を食べに行く。
ワタシは昼近くまで寝ることは無い。二日酔いになるまで飲むことも無い。朝食をゆっくり楽しむのは日々のルーティーンだ。
アレクサンドはたまにしか見ないけど、サランとはいつも朝食を共にする。
「おはよう、サラン」
「あら、おはよう。お先に頂いてますわ」
「今朝はアレクサンドは起きて来ないと見ていいわね」
「えぇ、あの後繁華街に消えて行きましたわ。遅くまで楽しんだのでしょうね」
食事を終え、いつものように紅茶を楽しむ。
「サランは今日何するの?」
「何も考えてませんわ。マモンは何するのか聞こうと思ってましたの」
「じゃ、ショッピング行かない? 鎧の下に着るシャツも欲しいし、洋服も見たいわ」
「そうですわね、シルクシャツを新調する時期ですわ」
ワタシ達は朝食を食べるにも着替えてメイクをしている。スッピンで出歩くなんて考えられない。いつでも出かけられる準備はしている。
「さぁ、今日も紅茶が美味しかったわ。出かけましょうか」
「ええ、行きましょ」
中心街に出て洋服店を探す。
大通りは人で賑わっている。さすがは交易都市、人が多い。行き交う商人や貴族、冒険者達も朝から活動的だ。
「冒険者が多いと思ったら、ここが冒険者ギルドね。場所は覚えておかないと」
「あ、あのブティック良さそうですわよ?」
そこまで大きくは無いけど、センスのいい店構えでショーウィンドウには綺麗な洋服が並んでいる。
高価だけどシルクの質がいい。店員に聞くと、レトルコメルスを拠点に活動するデザイナーの店のようだ。
「デザインが良いわね、気に入ったわ」
試着をしていると、店員が声をかけてきた。
「お気に召されましたでしょうか? 当店は『ヴァロンティーヌ』というデザイナーの直営店でございます。レトルコメルス内に数店舗構える人気デザイナーでございますよ」
「へぇ、有名なのね。ワタシ好みだわ」
「わたくしも好きですわね」
どれ一つとして似た服がない、けど全てが斬新で美しい。可愛い洋服やクールな洋服、全てがワタシ好みだ。
「ありがとうございました。またお願いしますね」
笑顔の店員に見送られ店を後にした。
「買いすぎたわ……ヴァロンティーヌか。このブランドは贔屓にするかもね」
「えぇ、本当に。わたくしも買いすぎましたわ。マモン、預かりますわよ」
「いつもありがとね」
一日サランと一緒に過ごした。
夕飯時にはアレクサンドも合流した。
「良くここが分かったわね」
「それだけ魔力を解放してれば町の外にいても分かる。もう少し魔力を抑えたらどうだ。トリプレットとやらに見つかるぞ?」
「あら、早く見つけて欲しいのよ?」
「ホントにキミは退屈が嫌いな様だ」
◆◆◆
ワタシ達は連日オシャレなお店でランチをしたり、夜はバーやラウンジでお酒を楽しんだりと久しぶりの大都会を楽しんでいる。サランとお気に入りのヴァロンティーヌの洋服に身を包んで。
「都会はいいですわね。全てが洗練されてますわ」
「ジョカルドは田舎じゃないけど、ここほど都会じゃないものね」
夜は初日に絡まれたバーで飲んでいる。印象は最悪だったが、店が悪いわけじゃない。今やお気に入りの店の一つだ。
「そう言えば、あれから何事も無いわね。この店にもしょっちゅう来てるのに。せっかく逃がしてあげたのに下っ端過ぎたのかしら」
「下っ端がBランク相当ってのは、組織としてはかなりデカそうだね」
三人で飲んでいると、店の真ん中辺りでケンカが始まった。
「てめぇこのやろう! 俺らに絡んでくるとはいい度胸だな!」
「お前らこそだ。飲むのはいい、場を弁えろと言ってるんだ」
「うるせぇな……表へ出ろよ」
マフィアの下っ端の小競り合いかしら。鬱陶しい。
店内が静まり返る中、奥から誰かが出てきた。スラッと背の高い明るめのブラウンの巻き髪で、すごく洗練されたオシャレな女だ。
「どうした? 他のお客さんに迷惑だよ」
「あぁ、ボス。こいつらトリプレットです。しょっちゅうこの店に来て客に絡むんですよ」
「金払ってんだぞ! どう飲もうが勝手だろ」
「私はこの店のオーナーだ。周りの迷惑になるから出て行ってくれるか?」
「あ? ねーちゃんよ、怪我しねぇうちに引っ込みな」
ボスと呼ばれた女は外に向かって歩いていく。口調は荒いが声色は美しい。
「店を壊されたら堪らないね、表に出な」
「へっ、女がいい度胸だな」
チラッと見えたが、女は眼が緑色だ。
興味があるわね、洋服の趣味も一緒だし。
「アレクサンド、サラン、見に行かない?」
「あぁ、ボク好みの長身美人なレディだ」
外に出た時にはもう最後の一人を痛めつけているところだった。
三人はおそらくBランク以上だ。それを一瞬でとなるとかなり強い。女は最後の一人を痛めつけながら言う。
「私を知らないのか? 下っ端だね。『マルフザン』は把握してるのかい? お前達のせいで抗争に発展しかねないぞ」
「……すみませんでした……」
「私は『女豹』のボスだよ、覚えときな。マルフザンには言わないでおく、二度とこの店に来るな」
気絶した二人を置いて逃げるように帰って行った。弱いなら大人しくしとけばいいのに。
「美しい……気に入った」
「え? アレクサンド……?」
アレクサンドが女ボスの方に歩いていく。
止めた方がいいかもしれない……。
「やぁ、こんなに強くて美しいレディは久しぶりに見たよ。一緒にワインで乾杯でもしないかい?」
女ボスは怪訝な表情でアレクサンドと、止めようとしたワタシ達を睨んでいる。
「……さっきから気づいてはいたけど、タダ者ではないなお前達……あぁ、後ろの二人は私の洋服を着てくれてるのか。ありがとな」
「私の洋服……? え、この服のデザイナーなの!?」
「あぁ、私は『ヴァロンティーヌ・シモン』だ。趣味で服のデザイナーもしている」
「ホントに!? ワタシこのブランドの大ファンになっちゃったの! お酒奢らせてくれない!?」
「……なんなんだお前達は……まぁいい、私の部屋に招くよ。その異常な魔力の話を聞かせて貰おうか」
ヴァロンティーヌは私たち三人を応接室に招いてくれた。
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