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第三章 新魔王誕生編
鬼人誕生 3
しおりを挟むオーステンは、ベンケイ爺さんとその弟子達ともすぐに打ち解けた。やっぱり天性の人たらしだ。
「ベンケイ爺さん、オレにも薙刀術を指導して貰えないか? 一つの事を極めると人族は昇化する事があるんだ。オレは薙刀術に全てを捧げたい」
「そうか、良い目だ。お前はやり遂げそうじゃ、薙刀はワシが用意する。早速明日から始めるとするか」
「よろしくお願いします!」
オーステンは剣を使えるし魔法も使える。しかし、剣をこれ以上極めるにも師匠がいない、魔法も然りだ。全てを薙刀術に捧げることを決めた。
◆◆◆
姉ちゃんとオーステンは本当に仲良く暮らしている。集落の皆が仲良く協力して豊かに暮らせているのはオーステンの存在が大きい。いつも中心にオーステンが居て、自然と周りを明るくするからだ。
薙刀術も真面目に修練し、かなりの腕前になっている。人族の身体強化法や気力の扱いも格段に良くなり、身のこなしから変わってきている。移動速度もオラァ達には及ばないが、ここに来る前からは考えられない程に成長している。
そしてこの集落に帰って来て五年が経った頃、姉ちゃんの体調に異変が起きた。
「ずっと体がだるいんだ……吐き気もあるな。初めてだよこんな事……」
「大丈夫かスズカ、無理をせず休んでくれ。家の事はオレがやるから」
こんなに弱った姉ちゃんを見た事が無かった。皆が心配した。
少しすると姉ちゃんの症状も良くなり、皆が安心した。食欲も戻りよく食べるようになった。
「姉ちゃん、反動なのかよく食うなぁ。太るぞ?」
「その分動けば良いだろ。女にそういう事言うもんじゃ無いよ」
案の定、姉ちゃんは少しづつ太ってきた。
と言うより、腹が出てきた。
「おい……スズカ……もしかして」
「あぁ……これは妊娠だな……」
「妊娠!? 嘘だろ!?」
集落に衝撃が走った。
「まさか異種族間で子が出来るとはのぉ……間違いなく初めての事じゃぞ……」
姉ちゃんは酒をやめた。
少しの運動をしながら全てお腹の子供の為に過ごした。
しかし、大問題があった。
「おい……この集落は男ばかりじゃ、どうやって子を取り出す……?」
「ソウジャから誰か連れて来ないとな……」
「オイの幼馴染の女なら子を取り上げた事がある。そういう仕事してるみてぇだが、連れてこようか?」
「あぁ、もうだいぶ腹も大きい。いつ産まれるか分からんから急いだ方がいいじゃろ」
すぐにソウジャ出向き、話に出た幼馴染とその仕事仲間を二人連れてきた。
「悪ぃな、もちろん報酬は払う、産まれるまでここにいてくれるか?」
「えぇ、分かったよ。この具合ならもうすぐだね。でもびっくりしたよ、あんたが血相変えて来るんだから」
「オイもまたお前に会う日が来るとはな……受けてくれてありがとよ」
そして一週間後、元気な男の子が産まれた。
「よく頑張ったスズカ!」
オーステンは涙ながらに姉ちゃんに抱きついた。
「今まで見た事ないくらいの安産だったね。出血もほぼ無い、少し小柄だけど、元気な子だよ」
「本当にありがとうな。人族との子ってのは黙っていて欲しいんだ」
「当たり前だよ……誰が信じるのよ」
「ありがとう、助かるよ」
子供の名前はすぐに決まった。
「オレらと言えば酒だろ。酒がなければオレらが結ばれる事は無かったからな。しかもオレの姓は酒って意味だ」
「まぁそうだね……酒飲み……『シュテン』なんかどうだ?」
「それだ! オーステンのテンも入ってて良い!」
「……お前ら、子供に付ける名前じゃなかろう……」
「響きは良いから良いんだよ! 一緒に酒が飲める日を楽しみにしよう!」
◆◆◆
テンは元気にすくすくと育った。
五歳の時にはすでに薙刀を持ち振り回していた。
「こやつ、自分よりも大きい薙刀を軽々と振っておる。この歳で闘気を無意識で使えておるのぉ、末恐ろしい。それに魔力量もすでにワシを超えておる」
「オレの息子とは思えんな……よし、テン、一緒に修行しよう!」
ベンケイ爺さんの弟子として、オーステンとテンは薙刀を振り続けた。
テンが十歳になったある日。
「今日の晩飯狩ってきたぞー! オレの薙刀術も言うことないって爺さんに言われたからな。この山で狩れない魔物はいなくなったぞ」
「戻ったかオーステン」
「あれ、サンキチか。スズカはどこ行った?」
「姉ちゃんは風呂沸かしてるよ。すぐに汗流せるようにな……って……オーステン。お前ぇ、眼が……」
「……眼?」
「本当だな。父ちゃん、眼が緑だぞ?」
「なんだと!?」
オーステンは鏡を見て歓喜した。
「とうとうオレも昇化したか! 今日は祝いだぞ二人とも! スズカを呼べ!」
オーステンが長寿族になった。これで皆とずっと生活出来ると大喜びだ。
その日は皆を呼んで遅くまで宴会をした。
オーステンは40歳を超えていたが、昇化して日が経つにつれ若返っていった。
半年後には十歳以上は若返った。魔力と気力の量も大幅に増え、更に屈強な戦士になった。
「あぁ……使えなくても仙術を習得しておくべきだったな……悔やまれる」
「それは仙族の術じゃな? まぁ言うても仕方あるまい、気力の質を上げる事じゃ。技に関しては教える事はもう無い」
「免許皆伝て事か!?」
「調子に乗るでない。引き続き鍛錬は怠るなよ。薙刀術に終わりは無い。皆未だに振り続けておる」
「それは勿論だ」
テンは十歳にして、この集落では誰も敵わない程の戦士になっていた。
幼少期から、薙刀術と闘気術の英才教育をベンケイ爺さんから受けているのもあるが、鬼族らしからぬ異常な程の魔力の多さと、類稀なる身体能力によるものだ。
オラァはテンの子守りをする事が多かった。
もっとも子守りをする必要なんてないんだが……なんせオラァより強い。好奇心が旺盛でどこに行くか分からないってのが子守りの理由の一つではある。
ベンケイ爺さんの指南をオラァもついでに受けていた。まだまだ強くなりたいのは皆一緒だ。
「テンよ、お前の闘気は異質じゃ。教えずとも幼少期から闘気を使っておった。それゆえなのか、闘気に魔力が混ざっておる。これはおそらく無意識じゃろう? 癖に近いのかもしれん」
「あぁ、意識はしてねぇ。直した方がいいか?」
「いや、そのままで良い。ワシらの闘気より効果が高いのじゃ。お前が本気で『闘気砲』を放ったらどうなるのか、考えただけでも恐ろしい」
テンは小鬼族なうえに人族の血が混ざっているからか、鬼族の子供の中では小柄だった。人族の同年代の子供よりは大きいという話だったが。
◆◆◆
そしてその日は来た。
テンが13歳のある日、いつもの様にベンケイ爺さんの薙刀術の指南を受けていた。
その日はオーステンはもちろん、姉ちゃんも息子の成長を見に来ていた。
「なぁ……この魔力は……」
「うむ、イバラキもおるな……大人数で何事じゃ。オーステンよ、この屋敷に隠れておれよ」
「あぁ、オレが居たらヤバそうだな。魔力を限界まで抑えておくよ」
鬼王イバラキを先頭に、百人をゆうに超える大鬼族達。
オラァ達は集落を出て出迎えた。ただ事では無い、住処を守る為だ。
相手は皆武器を携えている。
勿論オラァ達も薙刀を持っている。
「久しぶりだなぁ、ベンケイよぉ」
「なんの用じゃイバラキ」
「こんな所で小鬼族の家族ごっこかぁ? 嫌われ者のやりそうな事だなぁ」
その言葉に姉ちゃんが耐え兼ねて前に出た。
「嫌われ者はお前だろイバラキ! ベンケイ爺さんに嫉妬してるだけだろ! こんな小さな集落に武装した軍で来やがって! その図体でどれだけ肝が小せぇんだ!」
「やめんかスズカ!」
鬼王イバラキは不快そうな顔で姉ちゃんを睨みつけた。
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