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第三章 新魔王誕生編
宝玉の所在
しおりを挟む「分かった? アナタの中には面白そうなヤツが居るみたいね」
ユーゴは呆然としている。
整理しているのね。さぁ、どう受け取るかしら。
「ユーゴ……大丈夫かい?」
「あぁ、大丈夫だ、皆には後で話す。マモン、礼を言うよ」
「良いわよ、これから聞くことに繋がるからね」
「あぁ、知ってることなら話すよ」
しっかり正面から受け止めたわね、強い子だわ。
「アナタの母親は封印術に長けてたみたいね」
「あぁ、そうみたいだな」
「ワタシ達が鬼人シュテンを解放した時、そこには黄と紅の宝玉があったの。シュエンちゃんの話では、リーベン島にはとんでもない化物がいたそうね」
「ヤマタノオロチの事だな?」
「そう、それを龍王が封印したと。その化物を、翠の宝玉で封印したんでしょ? 龍族の元の土地にあるなんて嘘ね。かなりの無駄足を運ばされたわ。少し怒ってるのよ? まぁ、いい掘り出し物があったのは事実だけどね」
「……あぁ、嘘だ。オレが持っている」
「え!?」
「ユーゴが持ってるの!?」
「……仲間も知らなかったようね」
なんて事、ユーゴが持ってるのね。
フフッ、思ってもいない良い方向に向かってるわね。
「オレのこの眼は何か分からないが、空間魔法が使えるようになった、その中に入れている。オレは誰とも契約していない。アレクサンドにはこの意味が分かるな?」
「……あぁ、キミを殺せば諸共消えるな」
「なるほどね、力ずくで奪うのは無理って事ね」
なるほどね、龍王に空間魔法は使えない。
なら、ユーゴに託すのは自然な流れか。
「……なぜ宝玉を集める?」
「宝玉には強力な封印術式が組み込まれてる。封印術の勉強をしてみたの。宝玉を四つ集めると、封印術式が反転する可能性がある。アナタの中の悪魔を復活させる鍵があるとすれば、宝玉以外に考えられないと思わない? アナタを殺しても出てくるかもしれないけど、悪魔は霊体みたいだし。封印の術式によっては一緒に消えてしまう可能性もある。しかも宝玉までとなるとアナタは殺せないわ」
「……おい、復活させようとしてるのか? どうなるか分かってるのか?」
「面白そうじゃない? ワタシ達より強いヤツだったら喜んで従おうと思ってるわ。その時はアナタ達に宣戦布告ね」
「宝玉を集めた所で、何も起きない可能性もあるぞ?」
「そうね、その時は別の方法を考えるわ。ワタシ達は気が長いの」
今は宝玉の所在が分かればそれでいい。
問題は蒼ね。
「蒼の宝玉は仙王の空間魔法の中かしらね?」
「さぁな、その可能性が高いんじゃないか? オレは当然知らない。黄と紅はアレクサンドの空間の中だろ?」
「そりゃそうね」
「あぁ、ボクが持っている。もちろん契約は解除してるぞ」
恐らく蒼は仙王が持っている。
全ての宝玉は異空間の中にあるって事ね。
(アレクサンド、仙王はここにいるとみていいわよね?)
(あぁ、僅かに魔力を感じるからな。魔力を解放している。抑える気がないってことは、迂闊に攻め込ませない為の牽制と見ていいだろうね)
(じゃあ、この間してた話を実行しても良いわね。条件は揃ったわ)
(そうだね、どう実行する? 考えがあるのか?)
(任せてちょうだい)
「提案があるわ」
「なんだ」
「そこの二人はワタシ達に恨みがあるのよね? 戦ってあげても良いわよ? 殺されても文句は言わないわ。ワタシ達は半殺しにはしても、殺さないであげる」
「で? こっちが負けたら宝玉を寄越せと?」
「理解が早くて助かるわ」
ユーゴが二人の方を向く。
「私は今すぐにでもあのクズに斬りかかりたいよ。でも、そんな事を勝手に決められる立場じゃない」
「僕も同じ意見だ。その宝玉の価値は知らないけど、勝手に賭けていい代物じゃない事は分かる」
「まぁそうね、相談するといいわ。ワタシ達は魔都のシルヴァニア城にいる、返事はいつでも良いわよ。ワタシはウソが大っ嫌い、ここを攻める気がないのは本当よ」
「分かった……お前らは本当に暇潰しで行動してるんだな……」
「あら、悪い事じゃないでしょ? ワタシ達は寿命が長いの、楽しく生きなきゃ。じゃあね」
ワタシ達はそのままの足で帰ったと見せかけてレトルコメルス方面に向かった。
でも、ワタシ達の行動を感知出来る者がいるのは間違いない。レトルコメルスの門衛にカードを見せるのは危険ね。あそこの領主のオリバーはやり手だ、魔力を極限まで抑えて空からヴァロンティーヌのレオパルドに行こう。
「さぁ、あんな話を素直に飲むはずが無いわ、必ず後ろに兵を配置して反故にしてくるはずよ」
「必ず仙王と龍王は来るね、ボク達を一気に仕留めたいはずだ」
「その時に実行ね、楽しみだわ」
◆◆◆
野営を一日挟み、昼前にはレトルコメルス付近に到着した。
「さぁ、極限まで魔力を抑えてね、まさかこんなに早く連絡が行くとは思わないけど、どんな能力者がいるか分からないわ。空からレオパルドに行くわよ」
空から懐かしいレオパルドの裏手に降り立った。二階の入口に入ると、ちょうどマックスがいた。ヴァロンティーヌの魔力も感じる。
「おぉ! 久しぶりだな二人とも!」
「えぇ、久しぶりね、ヴァロンティーヌは忙しいかしら」
「あぁ、ボスなら自室にいらっしゃる。お前らなら良いだろ、専用階段の呼鈴鳴らしてみな。言わなくても知ってるかそんな事」
「えぇ、ありがとね」
ヴァロンティーヌの部屋は二階から専用の階段を登り三階にある。階段入口の呼鈴を鳴らすと、少しして降りてきた。
「久しぶりね」
「ヴァロンティーヌ! 相変わらず美しいな!」
アレクサンドがヴァロンティーヌに襲い掛かりそうになるのを止める。
「アレクサンド……ワタシが話しとくからさっさと行ってきなさい。魔力は抑えたままよ、明日の朝ここのロビーね」
「あぁ、分かった!」
アレクサンドは飛び出て行った。
「相変わらずだなあいつは……魔力を抑えて来るとは何事だ? 気付かなかったよ」
「えぇ、ずっとお預けだったからね……盛りのついた犬よ。まぁ、ゆっくり話しましょうよ、昼食はもう済ませた?」
「いや、これからだよ。応接室に持ってこさせようか」
ヴァロンティーヌは部屋を用意してくれた。
軽くシャワーを浴びて昼食に向かう。メイクは軽く済ませよう。
「お待たせ、冷めちゃったかしら?」
「いや、さっき運ばれてきた所だ」
雑談をしながら昼食を頂いた。
交易都市の食事も食べ納めだ、本場には敵わないけど王国中の食べ物が食べられる。
腹を満たし、食後の紅茶を飲んでいる。
「で、魔力を抑えている理由は何だ?」
「前に言ったじゃない? 魔都を落とすって。それを実行したのよ。今やワタシは魔王よ、自称のレベルだけどね」
「本当に魔王を斃したのか……魔都はお前の国になったと言うことか?」
「そうね。で、王都にその報告をしてきたの、かなり警戒してたわ。そして、何故かワタシ達の行動が筒抜けだったの、そういう能力者がいるとみて間違いないわ。だからここに連絡が入らないとも限らないから念の為に魔力を抑えてるの」
ヴァロンティーヌは、ティーカップを持ち上げたまま放心している。
「ヴァロンティーヌ?」
「あっ……あぁ、悪い。それで、ここに来たのはあの約束だな?」
「えぇ、今後この国と争いになる可能性も無くはない、だからアナタ達さえ良ければ魔都で一緒にと思ってあの提案をしたの。二年ていう短い付き合いだったけど、ワタシはアナタ達をアレクサンドやサランと同じくらい大切な仲間だと思ってる」
ヴァロンティーヌは持ち上げた紅茶を飲む事も忘れて話を聞いている。
「あぁ、私もそう思っている。前も言ったが、この街に執着は無い。お前について行けばここでは得られない刺激を得られそうだな」
「じゃあ……」
「待て、今すぐ行けるわけじゃない、私は一応このエリア一帯の顔だ。ここを出るなら色々しなくてはいけない事がある」
そうよね……明日一緒に出るなんて普通に考えたら無理な話だ。
「二、三ヶ月は欲しいな、必ず魔都へ行く」
「本当に!? じゃあ、アナタ達の住処を用意しておくわね、どれくらいの屋敷がいい?」
「皆に声を掛けるが、全員を連れていくのは難しい。一度この話を皆にした事があるが、フェリックスとカポのほとんどは乗り気だったよ。でも、中にはここに家庭を持っている者も多い。行くとしても50人足らずじゃないかと思っている。150人くらいはここに残る訳だが、後進は大分育っている。そいつらに任せても問題ないようにして出て行かないとな。誰を後継者に置くかも決めなければはならない」
女豹は少数精鋭だ、彼らは強い。十分このエリアを任せられるだろう。
「分かったわ、サランに任せておけばアナタ好みの部屋を用意してくれるはずよ。後は全財産を宝石に替えておくことをオススメするわ」
「そうだな、サランなら問題ない。あぁ、金の事は考えてなかった、ブールは流石に使えないか」
「じゃあ、話はついたわね。夜は相手してもらうわよ?」
「あぁ、勿論だ、予定は無いよ」
練気術の基礎くらいは話しながらできる。仙術を扱える彼女たちなら問題なく扱えるはずだ。後進に指導すれば、幹部を含む50人程が抜けてもナーガラージャとの均衡は保たれるだろう。
夜は一階のレオパルドで皆と食事を楽しんだ。
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