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第四章 四種族対立編

三人娘の基礎修練

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 朝はゆっくり起きて、朝食にしては遅い食事を食べている。昼食は軽くにしよう、部屋で食べられるようサンドイッチを作ってもらって持ち帰った。


 正午過ぎ、ロビーに出て皆を待つ。
 すぐに三人は出てきた。皆軽装だ、オレもそうだが。

「さぁ、ギルドに行くか。お前らもうカジノ飽きただろ」
「ギャンブルに飽きるなんて事は無いよ!」
「あぁ、その通りだ、一つとして同じ勝負は無いんだよ」
「へぇ……まぁ、程々にな……」

 トーマスは何も言わない、無駄な事が分かってるからだ。

 冒険者ギルドに行くと、既に四人は待っていた。

「ロン、今日は寝過ごさなかったな」
「もう昼過ぎだよ? さすがに起きてるよ」

「あれ、女の子三人も? エマもいるじゃん!」
「あぁ、ロンの弟子だよ。そろそろAランクの試験受けようかって話してるみたいだ」

 エマ、ジェニー、ニナの三人はオレ達に向かって一礼した。革鎧に身を包んで腰には刀を差している。いつものドレス姿じゃない分、新鮮味があるな。

「皆さん、よろしくお願いします!」
「三人とも刀買ったのか?」
「うん、三級品でも下位だけどね」
「オレ達もみんな刀だからな、良い指導が出来そうだ。じゃあ、ギルドで依頼受けてから向かうか」

 中に入って依頼書を見に行く。
 あれ……? 里長達がいる。

「里長、何してるんですか……?」
「おぉ、ユーゴ達か。四人で冒険者の資格を取っておこうと思っての」

 里長と一緒に、シャオウさん、メイファさん、ヤンさんがいる。二枚アタッカーの龍族最強クラスのパーティだ。

「お前ぇらSSSトリプルエスってんだろ? そんな依頼ねぇからSSで我慢しようかって話してんだ」
「この四人ならSSなんて余裕ですよ……」
「このケルベロスってのに行ってみようと思うんだが、お前ら知ってるか?」
「いや、初めて見ますね」
「三つ首の犬だ、行ってみるかの」

 里長達は冒険者カードを作りに行った。

「あの四人の戦闘……見に行きたいね……」
「うん……後で聞こう」

「ねぇ、ユーゴ君達SSSなの……? そんなランク初めて聞いたんだけど……」
「あぁ、死ぬかと思ったよ」
「すごい人達に教えて貰えるんだね……」

 とりあえずは彼女達の実力を見て苦手を指導かな。

「今日Aランク試験受ける?」
「とりあえず見てみようよ」

 依頼書に目を通す。
 お、ロックリザードだ。

「オレ達のAランク試験もロックリザードだったんだ、ロンもだよ」
「うん、俺の防具はロックリザードの革だよ」
「へぇ、カッコイイね!」
「別に今日じゃなくても良いし、受けとくか?」

 ロックリザード、BランクのアルミラージとCランクのスレイプニルの依頼書を持って受付カウンターへ。

「おぉユーゴさん、久しぶりだな。なぁ……さっきの黒髪の四人組は知り合いか?」
「久しぶりです。あぁ、オレ達の師匠だよ」
「あんたらの師匠か! なら納得だ。カード作っていきなりSSランク受けるって言うからよ……」

 ロックリザードで三人のランクアップ試験を受ける。とりあえずBランクとCランクの魔物で様子を見よう。



 アルミラージは大型のウサギの魔物で北西に広がる森に生息している。森から出てくることはほとんど無い。

「さぁ、強化術は出来る?」
「私とジェニーはまだいまいち掴めないの、ニナが治療術と強化術が得意で、練気を武具に纏うのが苦手なの」
「なるほどなぁ、ニナちゃん二人に迅速かけてくれる?」
「うん、分かった!」

 強化術でスピードを強化し、オレ達も一緒に走っていく。

「ユーゴさん! 見て!」

 おぉ……ロンが空を駆けてる。凄いなコイツは。

「相当頑張ったなロン……凄いよ」

 ロンは皆に褒めてもらって上機嫌だ。この辺はまだ子供だな、安心した。

 女性三人もある程度のスピードで走っている。ジェニーは盾を持っていたから盾役だな。ニナがサポートでエマがアタッカーか。上手いこと基本のパーティになってるって事だ。皆が全ての術に精通する様に指導しよう。

「さぁ、森に着いたな。まずはロン、魔法剣技見せてくれ」
「分かった!」

 前方にはBランクのアルミラージがこちらを警戒している。
 ロンは刀を抜き、風エネルギーを付与した風遁を一気に刀に圧縮した。

『魔法剣技 流刀乱舞りゅうとうらんぶ

 流れるような連続の斬撃でアルミラージを切り刻んだ。13歳の剣技じゃない……空を駆けるほどの精度に達した錬気だ、斬れ味も前とは全く別物だ。

「よくここまで物にしたな……スピードも精度もかなり上がったな。オレも負けてられないな……」
「ホントに!? もっと頑張るよ!」

 いや、ホントに抜かれないようにしないと……。


 次は三人娘だ。
 師匠であるロンの凄さを目の当たりにして、やる気に溢れている。

「よし、ここにはそれぞれのエキスパートがいる。ニナちゃんはエミリーの指導を受けてくれ。エミリー、治療術と強化術は勿論だけど、武具に練気を纏えるように指導してくれるか? 後はサポート役としての立ち回りもな」
「分かったよ! ニナよろしくね!」
「エミリーさん! お願いします!」

 元気な似た者コンビだな。

「盾持ってるって事はジェニーは盾役だよな? トーマス頼むよ。治療術と強化術もな」
「あぁ、分かったよ」
「トーマス君、よろしくね!」

 ジェニーはトーマスの腕に抱きついた。

「おい! くっつきすぎだろ!」

 ジュリアが叫んだ。

「え? あっ、トーマス君の彼女さんだった?」
「え!? いっ……いやそういう訳ではないが……」
「なぁんだ! じゃあ良いじゃん! 行こっ、トーマス君!」

 ジュリアのあんな顔初めて見た。嫉妬してるな……エミリーの話では、自覚はなさそうだけどジュリアはトーマスに恋をしてるっぽい。恋敵の出現で自分の気持ちに気付くのもいいのかもな。

「ユーゴ、アタシはトーマスと一緒にジェニーの指導に当たるぞ!」
「あぁ……分かった」
 
 トーマスが困っている。
 頑張れジュリア。

「じゃあ、エマはオレとロンで指導するよ」
「うん! お願いします!」
「オレどっか行こうか? 邪魔でしょ?」
「いやっ……邪魔って事はないけど……」
「オレ、アルミラージで自主練しとくね!」

 そう言って空を駆けて行った。
 あいつも気を使うようになったのか。

「さぁ、早速刀に練気を纏ってみようか」

 エマは刀を正眼に構えた。
 ロンはしっかり教えたんだな、基本に忠実な良い構えだ。そして薄く丁寧に練気を纏えている。

「その木を剣風で切ってみようか」

 左側に切っ先を傾け身構える。
 
『剣技 剣風!』

 綺麗に放たれた剣風は、対象の木と更に後ろの三本を斬り倒して消えた。

「ほぉ、いい剣風だな。後、守護術は防具や武器を媒介に張ると硬さが増す。練気の扱いは問題ないな、これで治療術や強化術が苦手って事は……エマは魔法は扱えるのか?」
「魔法は生活魔法くらいだね……」

 戦闘に使う魔法の他に、一般の人族が扱う生活魔法がある。薪などに火を付けたり、バケツ程度の水を出したり、生活に欠かせない簡単な魔法だ。皆ができる訳じゃないので魔法具が開発された経緯もある。

「生活魔法レベルで十分だ。大事なのはイメージする力だよ。火や水は日常で扱うからイメージしやすい。回復魔力の生成もイメージだ」

 さぁて、メイファさん式イメージ法だ。
 けどエマを斬りつける訳にはいかない……刀を空間から取り出しオレの腕を斬りつけた。

「え!? ちょっと何してんの!」
「そう思うなら早く治療してくれ。治したいか? その思いをイメージに乗せて回復魔力に変換だ。それを練気に練り込んで傷に纏わせて治す」

 エマは一瞬あたふたしたが、深呼吸して目が変わった。いい集中力だ、これは掴んだな。

『治療術 再生!』

 オレの刀傷は綺麗に治った。

「出来た!」
「うん、掴んだな。分かったか? 魔法と何ら変わらない、イメージする力だ。強化術も一緒だよ」
「なるほど……力、速さ、硬さ。そのイメージで魔力を変換して練気に混ぜれば強化術か。ニナはイメージ力が優れてたんだね」
「まずは基本をしっかり反復する事だな。一度掴めば後は早い、属性魔力がイメージ出来れば、自然エネルギーを取り込むのも容易になる。それは次の段階だな」

 
 エマは、剛力、剛健、迅速を自身に施した。そのまま刀に練気を纏い、目の前のアルミラージと対峙している。

 アルミラージは無数の風の刃を放った。
  エマはすぐに反応し守護術を張り、全ての風魔法を弾き飛ばした。しっかり武具を媒介にして張れてる、いい守護術だ。

『剣技 撫斬なでぎり』

 しっかりと地を蹴り、迅速で増したスピードに乗せた剣戟。アルミラージを真っ二つにした。

「お見事!」
「やった!」

 喜んで飛び跳ねてる姿はいつもの可愛いエマだ。まさかエマに戦闘法を指導する時が来るとはな……。
 とりあえず練気術の基本はマスターだ。
 
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