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第五章 四種族大戦編
トーマス VS マモン
しおりを挟む僕とユーゴの前には、魔神ルシフェルと魔王マモンがいる。
この戦を仕掛けた理由が暇潰しと言うほど狂った奴だ、魔王と言えど後ろでどっしり構えるなんてことはしない。そう思ってユーゴと行動を共にし、魔神と魔王を探し当てた。
ルシフェルは腕を組んだままユーゴを睨みつけている。
まずはマモンが口を開いた。
「久しぶりね二人共、元気そうで良かったわ」
「お前の暇潰しのお陰で、今にも多くの兵士が倒れてるんだ。ゆっくり話してる暇は無い」
「まぁ、そう言わないでよ。ワタシも仲間を亡くしてるんだから」
さっきユーゴの通信機に、鬼王シュテンが落ちたと連絡があった。斃したのは里長だ。
里長も瀕死の状態らしい。でも僕たちは、誰が倒れようとも後ろを振り返るなときつく言われている。何があろうと目の前の敵を倒すまでだ。
「あぁ、そうらしいな。龍王を瀕死に追い込むとはな、鬼王も相当だったらしい」
「……まさかシュテンが負けるなんてね。薙刀はリーチは長いけど、懐に入られたら不利な武器。でもあの子は『見切り』の能力を開眼したの。それからは誰一人としてシュテンに一本入れた者はいなかったわ。龍王は相当ね、流石は二千年以上王として君臨した男だわ」
眼の力とは願望。
自分の武器の弱点を憂いているうちに開眼したのか。それを斃した里長も相当無理したに違いない。刺し違える覚悟で前線に立ったんだ。
ユーゴは不動を脇に構え剣風を放つと、ルシフェルはそれを軽々と避けた。
ユーゴも当てようと思って放った訳じゃない。自分に敵意を向けさせるためだ。
「魔神ルシフェル、お前の相手はオレだ」
「威勢がいいな若造が。オレ様に勝てると思ってるらしい」
ユーゴとルシフェルは互いに術を撃ち合い、味方を巻き込むまいと離れていった。
「ワタシの相手はアナタなのね。盾役なんでしょ? ワタシの相手が務まるかしら?」
「僕たちは龍族の全てを叩き込まれてる。パーティ内では盾役ってだけだよ。まぁ、舐めてもらった方が僕もやり易い」
さて、マモンの眼は赤色じゃ無かった。何かの力を開眼していると見ていい。
『守護術 堅牢・夜刀神』
僕は身に付けている物だけじゃなく、空間魔法内にある物の特性も写す事ができるようになっている。ヤトノカミの革も鞣して保管してある。
ヤトノカミの特性を全身に纏った。
『火魔術 炎魔召喚』
『守護術 堅牢・八岐大蛇』
ヤマタノオロチの革の属性防御は素晴らしい。中距離魔法の類は大抵防御できる。
「へぇ、良い守護術じゃない。いや、良い眼の力って言った方がいいかしら?」
マモンは喋りながら相手を探り、分析するタイプだ。それがわかっていながら答えてやる義理もない。
「つれない子ね。どうせなら楽しく戦いましょうよ」
「戦を楽しむなんて事はない。つべこべ言わずにかかってきたらどうだ」
「マジメな子。良いわ、魔術は効かないみたいだし」
そう言って空間から剣を取り出した。
美しく輝く片手剣、グリップが長めで両手持ちも出来るのか。確実に特級品だな。
僕も鈴燈を下段に構え、対峙する。
僕は様子見。
先に動いたのはマモンだった。
『剣技 刺突剣』
里の剣技にはない刺突の技。
避けるのが遅れ、左腕にヒットした。
防具にも薄く守護術を纏っている。篭手に守られて無傷だ。
ただ……速いな、無傷なのは運が良かっただけだ。
僕には龍眼や予見眼の様な先を見る能力も無ければ、里長たち達人の様な見切りの境地に達している訳でもない。
ただひたすらに守護術を磨き、いかに破られないかを突き詰めた。守護術を突破されなければ負けることは無い、それが僕が行き着いた戦闘法だ。
「あら、手応えあったと思ったのにね。無傷とは少しショックだわ」
言いながら構えは崩していない、来る。
『剣技 剣光の舞』
二枚の堅牢が全てを弾く。
『剣技 五月雨』
打ち終わりの隙に合わせた連撃。
殆どを剣で受けられた。ヒットしたところで浅い。
「なかなかやるわね。でも残念、ワタシも防御はかなり修練を積んだのよ」
剣には闘気と変質魔力を纏っているのか。あの魔術とは少し違う使い方だ。自然エネルギーも組み込んで剣速を高めている。
ベースは仙神剣術でルシフェルの戦闘法を組み込んだ感じか。厄介だな……。
でも、身体に当たりはする。
鎧も全身を守っているわけじゃない、弱い部分はある。金属鎧以外の部分はクロースアーマーだ、隙さえあれば僕の剣技も通用するはずだ。
「さぁて、アナタはワタシに恨みがあるって言ってたわね。でも、強い人達がいっぱいいる戦場でアナタだけに構ってるのも勿体ないわ。悪いけど終わりにさせて貰うわね」
何かして来るな、堅牢をかけ直しだ。
「守護術 堅牢・夜刀神」
「止まりなさい!」
『剣技 流星斬り!』
正面から堅牢二枚で受け止める。
珍しい、大きな隙を見せた。
『剣技 朧』
僕の剣技はマモンの左腕を斬りつけた。
くそ……浅かったか……流石に立て直しが速い。
マモンは呆然としている。
ただ、僕は警戒を怠らない。
「ちょっと……何で動けるの……?」
どうやら何か眼の力を使った様だ。
斬り掛かる前に、止まれって叫んでたな。相手の動きを止める能力か。
「アナタの能力も底が知れないわね……それよりアナタ、このクロースアーマーお気に入りなのに良くも切りつけてくれたわね」
回復術を施しているけど、そこまで精度が高いわけじゃないな。
マモンの眼の力を無効化したのは僕の能力じゃない。ヤトノカミの能力だ。
素材を持ち帰って研究したところ、ヤトノカミは自身に掛けられた能力を無効化する力があった。どうやらその力の源は、空間内に収納している目玉にある様だった。
眼にその特性を写した僕には、マモンの能力は通用しない。
ユーゴの神眼は時を止める力で、個々に干渉する力じゃない。ユーゴがいなければ僕たちはヤトノカミを前に全滅していた可能性もある。
マモンが肩で息をしている。
苦しそうだな。
「アナタ……何かしたわね……」
「さぁ、どうかな。僕はお前みたいにベラベラと喋るタイプじゃないからね」
流石は即効性の毒だ。
僕の眼の力『臨眼』は、何も守護術に特性を写すだけの能力じゃない。もちろん刀にも写すことが出来る。
聯気と共に、ヤトノカミの毒牙の特性を刀に乗せている。僕の刀で斬りつければ、かすっただけで猛毒に犯される訳だ。
「これは……不味いわね……」
『剣技 乱れ氷刃』
好機だ。
猛毒に犯されたマモンの動きは鈍くなった。僕の刀を受けられず傷が増えていく。
みるみるうちに顔色が悪くなり、焦点が合わなくなってきている。
「マモン、今自分が何をされているか分からないだろう? 僕の家族たち、センビア族の皆も何が起きたか分からないまま死んで行ったんだ。お前は誰に殺されるか分かっているぶん、多少は幸せだろ?」
マモンは額に脂汗を浮かべ、必死に焦点を合わせようとしている。
「ちょっと……待ってちょうだい……ワタシの最期がこんなだなんて……」
「お前が今まで殺してきた人の気持ちが分かったようだね。向こうで懺悔するがいいよ」
鈴燈に聯気を込め続ける。もうマモンは動けない。
『剣技 斬罪』
思いっきり地面を蹴り、一思いに首を飛ばした。
「お前を処断するのにいい技を教えてもらったもんだよ」
マモンの亡骸の横に紅と黄、二つの宝玉が転がっている。
マモンが二つとも持っていたのか……皆はアレクサンドと一つづつ持っていると予想をしていたけど。もしくはアレクサンドが斃れたか。
確認は後だ、二つの宝玉を空間にしまった。
僕の復讐は終わったのか……?
まだ実感がない……でもまだ戦は終わっていない。
僕の大事な人がこれ以上犠牲にならないように目の前の敵を斬るだけだ。
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