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コンクリートサバイバル

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泊まる所も金も無い俺は、客の残した残飯を食い、朝まで無料の水を飲んでねばった。


昨日ユリコとはぐれた百貨店に朝一に行って、入口からどんどん入って来る人の中にユリコがいないか見渡した。いない。


客が百貨店に溜まった頃に館内放送でユリコを呼び出すアナウンスを依頼し、放送してくれたがユリコは現れなかった。


昼過ぎまでに3回も同じ館内放送を依頼したら、警察に行った方が良いと言われてしまった。


俺は名古屋のスナックで窃盗をした事になっているから警察は避けたい。


これは長期戦になるかもと思い、働く場所を探すことにした。


だがこの当時(1985年)は、消費税もないけど無料の就職情報誌もないから、残りの全財産で求人情報誌をピッタリ100円で使い切りアルバイトを探した。


スナックの経験が有ると言い3件の店舗で面接をしてもらったが、そのうち2件は面接の結果を電話で伝えると言われ、電話連絡の出来ない俺はアウト。


残りの1件も、この大阪に身一つで名古屋から来た身分証も無い手ぶらの俺は犯罪絡みかと勘ぐられ失格。


あながち間違いではないが、くやしい!


再び住む所の無い俺には容赦なく夜が訪れ、困ったことに雨まで降ってきた。


雨か……俺の心境と同じだ。


だが前を向かないと!


考える時間だけはあったから、ケチのついた大丸百貨店を避けて近くのそごう百貨店の総合案内で、大阪ミナミの発展の為にあるこの街のザックリとした地図を貰ったら直ぐに閉店時間になった。


無一文になり、雨でずぶ濡れになった行き先は難波(なんば)駅だが、ここも終電により追い出されてしまう。


俺には人が生活する最低限の『衣・食・住』全てが無い。


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