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生と死
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しおりを挟むスタンドバーで働く俺にも同じ水商売で働く近所のホステスが遊びに来てくれる時がある。
女性客にも少しずつ人気が出て来て喜んでいた頃、俺目当ての女性客が言う。
「コウスケ君、電話番号を教えて?」
当然ユリコと同棲している事は敢えて言わないが、ユリコ自身も固定電話は欲しがっていた。
「ごめん、うち電話が無いんだ」
「ウソ!? 今どき電話ないの?」
「恥ずかしい話、マジだ」
「じゃあ、あたしの余っている電話回線の権利、売ってあげようか?」
1985年4月に日本電信電話公社が民営化し、現在のNTTへと事業が継承されていた。
「助かる! でも俺、貧乏だから安くして! お礼として店には内緒でここの飲み代を安くしてあげる。2人だけの秘密だよ」
「じゃあ相場7万のところ、2万でいいよ。その代わり、差し引き5万以上は元をとるよー」
「OK決まり。ありがとう!」
◆
こうして当時のずさんな固定電話の権利は百均で買った印鑑とラクな手続きだけで取得した。
かかって来た電話はユリコとはお互いに浮気ではないと割り切り、抱えた客には兄妹と言い適当に誤魔化している。
この固定電話を使って、通販を始めたんだ。
育毛剤の通販。
薄毛に悩む男性はわらをも掴む大作戦。
新聞の夕刊に3行広告ってのがあって、掲載の審査なんかユルユルで、2万円弱で広告を出せる。
商品名は【薄毛の救世主】所在地と電話番号を掲載した。
驚いたことに、注文が殺到したんだ。
育毛剤は『今だけ!』と、かつて名古屋の家出少女をスカウトした経験を活かし、今だけ8千円のところ4千5百円! って強調。
実際の中身は安く買った市販の育毛剤を数種類ブレンドし、10倍に薄めたプラスチック容器だ。
詐欺って言えば詐欺かも? だけど本物を独自にブレンドしているから罪悪感も少ない。
なによりも、育毛ほど効果が曖昧(あいまい)なものはない。
販売していてビックリしたのが、感謝の手紙をたくさんもらったこと。
『生えました!』
『最高の育毛剤です』
『色々試しましたが正に救世主!』
喜んでいいのか複雑な気分だったよ。
ユリコも感謝の手紙を読んで腹を抱えて笑い転げていた。
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