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【第13話】

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 馬車を見てくれていた人にお礼のお金を渡し、そのまま近くのカフェに入った。馬車は駐車場みたいな所にガクが止めに行った。車にいろんな種類があるように、馬車にもいろんな馬車があるみたい。

「おしゃれなお店~! 」

カフェの中は落ち着いた雰囲気だけど置いてある小物とかがとても可愛くてオシャレだ。高そう…って思った事は口には出さなかったけど。

可愛らしいメイド服風の服を着たお姉さんが奥の席に案内してくれたので、そこに腰掛ける。

好きな物を頼んでいいよと、ショウがメニューを取ってくれた。

おぉ~!全部食べたい!どれもすごく美味しそう。苺のソースがたっぷりかかってるパフェ、この世界のフルーツが使われているタルト、いろんな味のプリン…!!これは迷う…

「じゃあ私はプリン!この、アイスがついてるやつが良いな!」

散々迷った末に私はプリンセットを選んだ。
ロロ達も次々と頼むものを決めていき、ミナがメイド服風お姉さんを呼んで注文してくれた。


さほど待たないうちに、頼んだものが順番に運ばれてきた。

プリンセットについてきたいちごオレを思いっきり吸う。

「ぷはーっ、何このいちごオレ美味しい!」

口の中に優しい甘さが広がって一気に疲れが取れる。

「プリンにいちごオレ…そんなに甘いものばっかりでよく気持ち悪くならないわね。」

ブラックコーヒーを優雅に飲んでいるミナが、信じられないという顔で言った。わかってないなー、こんくらいは余裕でしょ。

「そんなのばっか食ってるとデブになるな。」

はぁ?!よくそんなこと言えたね?この中で一番カロリー高そうなもの食べてるのはあなたでしょうに!

涼しい顔をしてパフェのてっぺんのバニラアイスを口に運んでいるガクを睨みつける。

「これくらいじゃ太らない!太るのはガクでしょ!どう見てもそれの方が食べたら太りそうじゃん!」

「…たしかにそうか。まぁ俺は太らない体質だから気にしなくて良いんだ。」

にっと笑って、ガクはバニラアイスの最後の一口を口に入れた。

「はぁ…こういう人ってほんとうざい。」

私だって食べても太らないからだになりたい!食べたら太る、これは普通!しょうがない事なんだ。

えーい太るとかどうでもいい!ほら、美味しそうなプリンちゃんが食べて欲しそうに揺れている。

くぁーーっっっ……!!なんて美味しそうなの…?


「プリンちゃん、いっただっきまぁーっす。」



わっ!!んふふーーーーー!!
口に入れた瞬間にとろっととろけ、プリン特有のあの優しい甘味がふわぁーっと広がった。
あまりの美味しさに声にならない叫びで胸がいっぱいになる。はぁぁっ… 何だこれ美味しすぎる!!  あぁ幸せ!!1口口に入れただけでとても幸せになっている私を見て、ミナは困惑したように呟いた。

「…そんなに美味しいの?それ。」

「美味しいよ!もう美味しすぎるくらい!」

ミナの質問に間髪いれず答え、満面の笑みでプリンの美味しさを表現しようと試みた。どうかな?伝わったかな?

「そう。良かったわね。」

ありゃ、なんかあんまり伝わらなかったみたい。残念だな。


美味しいプリンを最後までたいらげると、なんだか少し体が楽になった気がした。
聞いたところによると、この世界では食べ物に魔法がかかっていて、食べたら回復するものがあるらしい。


ほっ、と息をついたところで、ちょっと聞いてもいいかな?と、ショウが少し遠慮しながら聞いてきた。

「信託の内容はどんな感じだった?」

その質問にそこに今みんな興味深々といったふうにいっせいに私を見る。
あーそうだった…みんなに言わないとだったね。

「んーっとね、えーっとー…なんだっけ?そう言えば属性とかは教えてもらわなかったな。」

「え?そうなの?」

「どういう事だ?普通は必ず伝えられるはずじゃねぇのか?」

「偶に伝えられない人もいるにはいるよ。」

例外は、全ての属性の力が均等に使える。もしくはその逆だそうだ。なんかあれみたいだね、つむじが2つある人は天才か馬鹿か。みたいな。

「なるほどねぇ…使える方だったらいいなぁって、なんでそこ教えてくれなかったんだよ!!」

教えてくれたっていいのに…

「それで、他に何を言われた?」

レンに先を促された。
うっ…この先はなんか言いたくないんだけど。とても言いにくいんですけど!
顔をしかめたまま、次の言葉をなかなか言い出そうとしない私を見てガクがだんだんイライラし始めた。

「早く言えよ、めんどくせぇな!」 


はぁ…絶対おかしいんだもんこれ。絶対おかしいって。言ったら笑われるって絶対!!


「はぁ………その…なんかえっと…あーーもう!!いうけど、笑わないでよ?」

誰も頷いてくれないの?!と思ったらレンとショウとミカはこくこくと頷いてくれた。良かったありがとう。
心の中で3人に感謝し、意を決して言いたくない言葉を吐き出す。

「あの人は、私が歌に魔力を乗せて魔法を使う、うたっ、うた…歌歌う人だっていったのーー!」


「「「は?」」」


ぐっ…見事に3人声揃ってる。ガクとショウとミナ…私だっては?だよ!!口には出さないもののミカもレンもポカンと、耳を疑ってるような顔で固まっている。ロロだけがおおー!って言いながら1人で尻尾をパタつかせている。

「………お前、歌えんの?」

心底意外そうにガクは首を傾げている。
うん、そこ気になりますよね。

「歌は歌えるよ一応?人並みには!でも人前で歌うのはっ…」

カラオケとかは好きで良く行くし、お風呂でもうたうけど人前では学校での合唱コンクールくらいでしか歌ったことない。恥ずかしいし。

「ふむ…つまりリラは歌姫ってことか。」


顎に手を当ててショウは何かを考え出す。
いや、歌姫って言われたけどてか伝説の歌姫とか言ってたけどそこはあえて言わなかったんだから言わないでよ!!恥ずかしいから!!姫じゃないからっ!!恥ずかしくて顔が熱くなったのを慌ててテーブルに伏せて誤魔化す。うぅ…いーやーだぁぁぁああ!
私の心の中の叫びは誰にも届かず、皆は普通に話を進めていく。

「歌姫ねぇ…」

「あんまり見ないよな。」

「僕、リラの歌聞きたい!!」

やめて?!要らないこと言わないで貰えますロロ様?!

「う、歌わないよ!!こんな所で歌えるわけないじゃん!お店の中だよ?」

外ならいいとして、静かなカフェの中で急に歌い出したら周りから白い目で見られるに決まってる。
慌てる私を見て、なぜかレンとミカが目配せをして頷き、同時に片手からポワッとした光を放ち微笑んだ。

「これで大丈夫よ。もうここで発した音は周りには聞こえない。」

何が起こったのか分からず目をぱちくりさせてる私に、ミナが丁寧に教えてくれる。
店内で魔法使ってもいいんだ…

「もう思う存分歌ってもいいぞ。」

頬杖をつきながら、ガクがはやくしろと目で訴えてく
る。

ガクがそう言った後からその場にいる誰も声を出さず、静かに待っている。ロロだけは尻尾を揺らし、目がキラキラ輝やかせているけど。まったくワクワクを表す顔文字と同じ表情だ…

沈黙状態が5秒ほど続き、それでも誰も何も話さず、目だけで「歌え」と主張している。正直怖い…


「もうわかったよ…」


沈黙に耐えられず渋々と口を開く。んーでも歌かー…何歌えばいいんだろ?歌で魔法うーん……よし。決めた。


「私の歌で、どうなっても知らないからね?」

にやっと、笑って見せてから、大きく息を吸い込み、それに声を乗せて吐き出す。



  ねんねんころりよ おころりよ

 ぼうやはよい子だ ねんねしな



小さい頃によく子守唄としてお母さんが歌ってくれていた歌を、懐かしいなと思いながら心を込めて歌う。


 ねんねんころりよ おころりよ

ぼうやはよい子だ ねんねしな


実はお母さんもこの先の歌詞も音程も知らず、ずっとこのフレーズをリピートして歌っていたから、私もここしかしらない。それだけで眠れたんだから、子守唄としては充分だよね。私はぼうやじゃなかったけど。ー
そんなことを考えながら、懐かしい歌を歌い続ける。


 ねんねんころりよ おころりよ

ぼうやはよい子だ ねんねしな

 ねんねんころりよ おころりよ

ぼうやはよい子だ ねんねしな

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