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佐々木ももんが

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第二章の3

お父さんの話

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「いいお父さんだったんでしょうね。古文書の説明とかしてもらって、楽しそうですよね」
 真名まなは、完全に自分とおじいちゃんの関係に重ね合わせていた。おじいちゃんと生活していたころのことをなつかしく思い返す。おじいちゃんも午前中は書斎にこもっていたが、午後からは絵本を読んだり裏庭の畑の世話をしたり、ずっと一緒に過ごしていた。
 おじいちゃんの話は真名には難しすぎるのだけど、素直にうんうんと聞いていた。きっと大人になったら意味が分かるようになる、大人はすごいなかっこいいな、と思っていた。
 真名がおじいちゃんのことを思い出してほんわかしているのと反対に、黒メガネ氏はぴくりと眉をつり上げた。
「いいお父さん? 誰のことです?」
 しまった。また失言してしまったか。
「違いましたか?」
「違いますね。そもそも親父は部屋にこもりっきりで、僕とは顔を合わせない。食事も母に運ばせて部屋でとっていました」
「え? 同じ家に住んでいるのに?」
「はい。顔を見たときは怒られるときです。
しゃべるときは説教されるということです。それ以外会話もないし、そもそも顔を見かけない。怖い、という印象しかありませんね。近寄りがたい存在」
  真名はがっかりしてしまった。おじいちゃんと全然違う。一方黒メガネ氏はしゃべてちる間にどんどん思い出してくるらしく、父親への不満がどんどんあふれだす。
「部屋の中には貴重な文献が保存されているから、子どもは絶対近寄るなと、怒鳴られました。まだ近寄ってもいない、何もしていない時点ですでに怒鳴り声ですよ。そんな状態だから、もしも部屋に入ろうものなら、殴る蹴るの惨状になったでしょうね。もちろん遊んでもらった記憶なんてひとつもありません」
「ひどい親! おじいちゃんとは大違い」
 さっきまでほめていた真名が、今は激怒している。情緒不安定だからではなく、素直な性格ゆえと思いたい。
「こんなこともありました。記憶に残るか残らないかというくらい幼い頃、親父の本を破ってしまったことがあります。それでひどく怒られました。正座させられたまま一時間以上説教されて、足が痛くて何を怒られているのかも分からなくなってしまいました」
「ひどい思い出ばっかりですね」
 ぷんぷんという擬音が聞こえてきそうな勢いの真名。
「今思うと、貴重な本だったのかもしれませんが。だからあんなに怒っていたのでしょうか」
「それは……」
 真名の表情が微妙になる。その本がどのくらい貴重だったかによる。おじいちゃんも本は大切にしていた。二度と手に入らない本ならそのくらい怒ってしまうかもしれない。表面には出さなくても、内心穏やかではいられないだろう。真名は少しだけ頑固親父に同情した。
 黒メガネ氏はしおらしい顔になっている。
  今までどこかに姿を隠していた文子ふみこが急に現れた。
「本に関する記憶が出てきたな。その本を探しているのかもしれない」
「私もそう思っていたの。黒メガネさん。その本の見た目とか内容とかもっと詳しいことは分かりますか?」
 黒メガネ氏は、とたんに元気がなくなった。
「いえ、それは全然覚えていないのですよ。本当に小さい頃のことですから。それ、大切なことですか?」
「それは何とも」
 文子はさらに踏み込んで質問する。
「ここに来たとき手に取った本はこれだが、何か共通点や思い出すことなどは?」
 この図書館には山ほど存在する古文書の一冊。和綴じで端っこがこすれてまるくなっていて、日焼けで全体が茶色い。もちろん印刷の活字なんかじゃない、手書きの墨で書かれた本。
「ああ、そうです。こういう本を見て、なつかしいと感じたのです。本屋に売っているような本じゃなくて、資料、文献、という雰囲気の、こういう本です」
「内容とかは?」
 真名が詳しく聞き出そうとしたことは即座に却下された。
「いえ、字も読めないような頃でしたから。内容なんて分かるはずありません」
 がっかり。
「そんな小さな頃のことを覚えているということは、それが気になっている心残りの本と思っていいと思うぞ。ようやく探す本がみつかったな」


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