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第2章:地球大掃除
第7話:新入社員は『潔癖症の聖女』
魔王城のトイレ修理(邪神討伐)から数日後。
株式会社クリーン・ファンタジーに、とんでもないクレーム客が押し掛けてきた。
「貴方が灰坂ソウジですね! 神聖なダンジョンを『洗剤』ごときで冒涜する異端者は!」
社長室のドアを蹴破って現れたのは、純白の法衣に身を包んだ美少女だった。
透き通るような金髪に、勝ち気な碧眼。
彼女の名はセシリア(16歳)。
バチカンから派遣された、世界最高峰の『聖女』である。
「冒涜だなんて人聞きの悪い。うちは環境に優しいエコ洗剤を使ってますよ?」
「そういう問題ではありません! 浄化とは祈りであり、奇跡なのです! それをデッキブラシで擦るだなんて……言語道断です!」
セシリアは激昂していた。
彼女にとって、ダンジョンのアンデッド浄化は高尚な宗教儀式だ。それを「掃除」と言い張るソウジの存在が、生理的に許せなかったのだ。
「証明してあげますわ。私の『聖なる魔法』と、貴方の『野蛮な掃除』……どちらが上か!」
こうして、急遽「浄化勝負」が勃発することになった。
***
場所は、都内のD級ダンジョン『地下墓地(カタコンベ)』。
ここは低級の幽霊(ゴースト)が無限に湧き出ることで有名なスポットだ。
「ふふん、見ていなさい。これが本物の浄化です!」
先行のセシリアが、優雅に杖を構える。
通路の奥からは、無数の白い幽霊たちが「うらめしや~」と漂ってくる。
「穢れし魂よ、光に還れ! 『聖なる光(ホーリー・レイ)』!!」
カッッッ!!
極大の光魔法が炸裂し、通路を埋め尽くしていた数百の幽霊が一瞬で蒸発した。
後に残ったのは、神聖な静寂だけ。
「どうです? 塵一つ残さず消滅させましたわ」
セシリアがドヤ顔で振り返る。
D-Liveのコメント欄も『さすが聖女様』『美しい』と称賛の嵐だ。
――だが。
ソウジだけは、ゴーグル越しに眉をひそめていた。
【解析:浄化不全を確認】
【残留物:魂の燃えカス(怨念煤)】
【評価:B(拭き残しあり)】
「あー、ダメダメ。全然落ちてないですよ」
「は? 何を言っていますの? どこからどう見ても綺麗に――」
「よく見てください。表面の汚れ(霊体)を焼いただけだから、根本の『煤(すす)』が残ってるじゃないですか」
ソウジが指差した空間には、一般人には見えない微細な「黒い粉」が舞っていた。
魔法による急速な除霊は、いわば「汚れを焼き切る」行為だ。そのため、どうしても微細な燃えカスが残り、それが新たな穢れの温床になってしまう。
「いいですか。掃除の基本は『舞い上げない』こと。静かに、確実に吸着するんです」
ソウジはそう言うと、背中の道具袋から「ある武器」を取り出した。
T字型の柄に、白い筒状のロール紙がついたもの。
日本中の家庭にある、最強の掃除用具。
粘着カーペットクリーナー(通称:コロコロ)である。
ただし、彼が手にしているのは業務用の『超強力粘着・幅広タイプ』だ。
「な、なんですのそれは? 魔法の杖……?」
「いや、ただの粘着テープですけど」
ソウジは無造作に、何もない空中に向かってローラーを構えた。
次々と湧いてくる幽霊たち。
ソウジの目には、それらが「静電気を帯びて浮遊するホコリ」にしか見えていない。
「ホコリ取りなら、これが一番早い」
コロコロコロ……。
ソウジが虚空を撫でるようにローラーを動かす。
すると、物理法則を無視した怪奇現象が起きた。
「ギャァァァァァァ!?!?」
「吸い寄せられるぅぅぅぅ!!」
実体のないはずの幽霊たちが、まるで掃除機に吸われるように歪み、次々と白い粘着テープに張り付いていくではないか!
「ひぃっ!? 魂が……霊体が物理的に捕獲されていますわ!?」
「よし、一面埋まったな」
ソウジは手際よくミシン目でテープを切り、ビリッ! とめくった。
剥がされたシートには、数百体の幽霊たちが、まるで魚拓のようにビッシリと(そして平面的に)プリントされ、封印されていた。
「はい、一丁上がり。燃やしてないから空気も汚れない」
彼は怨念が詰まったシートを丸め、ゴミ袋にポイッと捨てた。
その空間は、セシリアの魔法を使った場所よりも遥かに澄み渡り、文字通り「塵一つない」聖域となっていた。
『ファッ!?』
『コロコロ最強説www』
『幽霊って粘着テープで取れるんか……』
『聖女様の魔法が「ただの消臭スプレー」扱いされてて草』
『除霊(物理)』
「そ、そんな……私の聖魔法が、あんな大衆用品に負けた……?」
セシリアはその場に崩れ落ちた。
彼女の常識が崩壊した瞬間だった。
だが次の瞬間、彼女の目はカッと見開き、ソウジの足元にすがりついた。
「素晴らしいです……!」
「え?」
「汚れを焼き払うのではなく、優しく包み込んで捨て去る……これこそが真の慈愛! 真の浄化ですわ!」
彼女は感動で潤んだ瞳を向け、ソウジの手(とコロコロ)を握りしめた。
「師匠! その神具『聖・コロコロ』の極意、未熟な私にご教授ください! 私、今日からここで働かせていただきます!」
こうして、世界最強の聖女が、あろうことか清掃会社に「インターン志望」として陥落したのだった。
「……ちょっと、離れてください!」
その時、背後から氷点下の声が響いた。
秘書のコアちゃんが、鬼の形相で二人の間に割り込んでくる。
「社長のメイン武器(モップ)の手入れをするのは私です! ぽっと出の新人(聖女)に、そのポジションは渡しませんからね!」
「あら? 道具の手入れなら聖女の加護がある私のほうが適任ですけれど?」
「むきーっ! 物理干渉しかできないくせに!」
ギャーギャーと騒ぎ始めた二人の美女をよそに、ソウジは「やれやれ」と肩をすくめ、新しい粘着テープのスペアを交換するのだった。
【新着タスク:社内の人間関係の整理】
【難易度:測定不能】
(続く)
株式会社クリーン・ファンタジーに、とんでもないクレーム客が押し掛けてきた。
「貴方が灰坂ソウジですね! 神聖なダンジョンを『洗剤』ごときで冒涜する異端者は!」
社長室のドアを蹴破って現れたのは、純白の法衣に身を包んだ美少女だった。
透き通るような金髪に、勝ち気な碧眼。
彼女の名はセシリア(16歳)。
バチカンから派遣された、世界最高峰の『聖女』である。
「冒涜だなんて人聞きの悪い。うちは環境に優しいエコ洗剤を使ってますよ?」
「そういう問題ではありません! 浄化とは祈りであり、奇跡なのです! それをデッキブラシで擦るだなんて……言語道断です!」
セシリアは激昂していた。
彼女にとって、ダンジョンのアンデッド浄化は高尚な宗教儀式だ。それを「掃除」と言い張るソウジの存在が、生理的に許せなかったのだ。
「証明してあげますわ。私の『聖なる魔法』と、貴方の『野蛮な掃除』……どちらが上か!」
こうして、急遽「浄化勝負」が勃発することになった。
***
場所は、都内のD級ダンジョン『地下墓地(カタコンベ)』。
ここは低級の幽霊(ゴースト)が無限に湧き出ることで有名なスポットだ。
「ふふん、見ていなさい。これが本物の浄化です!」
先行のセシリアが、優雅に杖を構える。
通路の奥からは、無数の白い幽霊たちが「うらめしや~」と漂ってくる。
「穢れし魂よ、光に還れ! 『聖なる光(ホーリー・レイ)』!!」
カッッッ!!
極大の光魔法が炸裂し、通路を埋め尽くしていた数百の幽霊が一瞬で蒸発した。
後に残ったのは、神聖な静寂だけ。
「どうです? 塵一つ残さず消滅させましたわ」
セシリアがドヤ顔で振り返る。
D-Liveのコメント欄も『さすが聖女様』『美しい』と称賛の嵐だ。
――だが。
ソウジだけは、ゴーグル越しに眉をひそめていた。
【解析:浄化不全を確認】
【残留物:魂の燃えカス(怨念煤)】
【評価:B(拭き残しあり)】
「あー、ダメダメ。全然落ちてないですよ」
「は? 何を言っていますの? どこからどう見ても綺麗に――」
「よく見てください。表面の汚れ(霊体)を焼いただけだから、根本の『煤(すす)』が残ってるじゃないですか」
ソウジが指差した空間には、一般人には見えない微細な「黒い粉」が舞っていた。
魔法による急速な除霊は、いわば「汚れを焼き切る」行為だ。そのため、どうしても微細な燃えカスが残り、それが新たな穢れの温床になってしまう。
「いいですか。掃除の基本は『舞い上げない』こと。静かに、確実に吸着するんです」
ソウジはそう言うと、背中の道具袋から「ある武器」を取り出した。
T字型の柄に、白い筒状のロール紙がついたもの。
日本中の家庭にある、最強の掃除用具。
粘着カーペットクリーナー(通称:コロコロ)である。
ただし、彼が手にしているのは業務用の『超強力粘着・幅広タイプ』だ。
「な、なんですのそれは? 魔法の杖……?」
「いや、ただの粘着テープですけど」
ソウジは無造作に、何もない空中に向かってローラーを構えた。
次々と湧いてくる幽霊たち。
ソウジの目には、それらが「静電気を帯びて浮遊するホコリ」にしか見えていない。
「ホコリ取りなら、これが一番早い」
コロコロコロ……。
ソウジが虚空を撫でるようにローラーを動かす。
すると、物理法則を無視した怪奇現象が起きた。
「ギャァァァァァァ!?!?」
「吸い寄せられるぅぅぅぅ!!」
実体のないはずの幽霊たちが、まるで掃除機に吸われるように歪み、次々と白い粘着テープに張り付いていくではないか!
「ひぃっ!? 魂が……霊体が物理的に捕獲されていますわ!?」
「よし、一面埋まったな」
ソウジは手際よくミシン目でテープを切り、ビリッ! とめくった。
剥がされたシートには、数百体の幽霊たちが、まるで魚拓のようにビッシリと(そして平面的に)プリントされ、封印されていた。
「はい、一丁上がり。燃やしてないから空気も汚れない」
彼は怨念が詰まったシートを丸め、ゴミ袋にポイッと捨てた。
その空間は、セシリアの魔法を使った場所よりも遥かに澄み渡り、文字通り「塵一つない」聖域となっていた。
『ファッ!?』
『コロコロ最強説www』
『幽霊って粘着テープで取れるんか……』
『聖女様の魔法が「ただの消臭スプレー」扱いされてて草』
『除霊(物理)』
「そ、そんな……私の聖魔法が、あんな大衆用品に負けた……?」
セシリアはその場に崩れ落ちた。
彼女の常識が崩壊した瞬間だった。
だが次の瞬間、彼女の目はカッと見開き、ソウジの足元にすがりついた。
「素晴らしいです……!」
「え?」
「汚れを焼き払うのではなく、優しく包み込んで捨て去る……これこそが真の慈愛! 真の浄化ですわ!」
彼女は感動で潤んだ瞳を向け、ソウジの手(とコロコロ)を握りしめた。
「師匠! その神具『聖・コロコロ』の極意、未熟な私にご教授ください! 私、今日からここで働かせていただきます!」
こうして、世界最強の聖女が、あろうことか清掃会社に「インターン志望」として陥落したのだった。
「……ちょっと、離れてください!」
その時、背後から氷点下の声が響いた。
秘書のコアちゃんが、鬼の形相で二人の間に割り込んでくる。
「社長のメイン武器(モップ)の手入れをするのは私です! ぽっと出の新人(聖女)に、そのポジションは渡しませんからね!」
「あら? 道具の手入れなら聖女の加護がある私のほうが適任ですけれど?」
「むきーっ! 物理干渉しかできないくせに!」
ギャーギャーと騒ぎ始めた二人の美女をよそに、ソウジは「やれやれ」と肩をすくめ、新しい粘着テープのスペアを交換するのだった。
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【難易度:測定不能】
(続く)
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